第134話 素直さから出る闘志
王宮の長い廊下を、
フィートに"おんぶ"されたスカイが急ぐ。
左肩の痛みがジンジン響くが、
意志の炎がそれを抑え込む。
側を歩く若い兵士は、不安げに顔を覗き込む。
「スカイ様……本当に、大丈夫ですか?
エリアス陛下の状況が……」
スカイは苦笑し、フィートの背中で小さく呟く。
「ここまでしてもらって済まないねぇ、
フィート様。王族にこんなことさせて……」
フィートは軽く肩を揺らし、皮肉っぽく返す。
「鎧で背負わされるよりマシでしょう。あと、
スカイ殿。無理に『様』を付ける必要ありませんよ。
逆にわざとらしく聞こえますから。」
若い兵士が慌てて頭を下げる。
「す、すみません! フィート様……!」
前方に、広大な王宮広間が広がる。
そこには王国守護騎士団と義勇軍、
数千の兵士がずらりと集合していた。
避難民護衛のため、
エリアスの命令で集められた精鋭たち――だが、
全員の顔が沈鬱で、拳を握りしめ、俯いている。
一人の騎士がフィートに気づき、目を丸くする。
「フィート様!?それに……スカイ様っ!!」
その声に、広間がざわつく。
兵士たちが一斉に振り向き、
驚きのどよめきが広がる。
「スカイ様が……目覚めた!?」
「左肩の傷が……!」
王族のフィートの前で、全員が膝をつき、
頭を垂れる。静寂が訪れる。
フィートは慎重にスカイを降ろし、右半身を支える。
スカイは痛みを堪え、よろよろと前に進み出る。
「……なんでここに大勢いるんだ?」
王国守護騎士団団長が、
重い表情で立ち上がり答える。
「スカイ様……エリアス陛下の命により、
我々全員、国外避難民の護衛に向かうところです。
北門から民を逃がす……それが、陛下の最後の命令で……」
スカイは兵士たちの顔を一人一人見渡す。
全員が納得できない表情――
唇を噛み、目を伏せ、拳を震わせている。
「お前ら……悔しくねえのか?」
団長がハッと顔を上げ、だがまた俯く。
「エリアス陛下の命令ですので……従うしか……」
他の兵士たちも口々に呟く。
「家族を守るためです……」
「陛下が『生きろ』と……」
「自分たちにできるのは、これしか……」
無理やり自分を正当化する声が、重く響く。
スカイは深呼吸し、声を張り上げる。
「オレは悔しいさ!!素直に、そう思う!!」
広間が静まり返る。
数千の視線がスカイに集中する。
演説するかのように、スカイは続ける。
「こんなボロボロの状態で、エリアスのために
何もできない自分が悔しい。
正直、満足に動けるお前らが羨ましいよ。
だが、そんなお前らは……エリアスを
助けたいと思わねえのか!?」
その言葉に、兵士たちの体が震え始める。
悔し涙を堪える者、拳を叩きつける者。
「くっ……」「スカイ様……!」
スカイの声が熱を帯びる。
「オレはエリアスを助けたい。
例えこんな状態でも、できることがあるなら、
エリアスの隣で一緒に戦いたい。
あいつの味方でありたい。そう思っても、
オレはエリアスの隣に立てる資格はねえか?」
兵士たちの中から声が上がる。
「そんなことないです!」「スカイ様なら……!」
首を横に振る者、頷く者が続出。
スカイはさらに続ける。声に過去の影が混じる。
「素直に白状しよう。
一度、オレは世界サミットが終わった後、
エリアスから離れようとしたことがある。
エリアスが世界から必要とされる存在になって、
オレみたいなヤツがこれからもエリアスに
ついていけるか、不安になったんだ。
でも、オレは後で気づいてしまったんだ。」
兵士たちが息を詰め、耳を傾ける。
「もし、オレが何もできないままエリアスを
見殺しにしてしまったら……
オレは自分を許せなくて、生きていけないと思う。
そんな残酷な未来を、オレは変えたいんだ!!」
広間が息を呑む。
兵士たちの目に涙が光る。
「お前らだってそうだろ? 魔物の群れの時も
、今回の防衛戦だって、エリアスと共に戦ったんだろ!?」
肯定の声が上がる。
「そうだ!」「陛下と一緒に……!」
スカイの声が震え、頂点に達する。
「エリアスが言ったよな。
『私のワガママで、みんなを、
スカイを死なせたくない。
私、スカイを世界で一番愛している』って。
なら、オレの返事はこれだ!!
オレもエリアスを、世界で一番愛してる!!
どんなに無力だろうと、どんな未来だろうと、
エリアスと一緒にいたい!!エリアスの隣で、
笑って、泣いて、戦って、生きて行きたいんだ!!」
兵士たちの目から大粒の涙が溢れ、嗚咽が漏れる。
「スカイ様……」「陛下……!」
スカイは拳を握り、全身で叫ぶ。
「その上で、お前らに問う!!
エリアスが言ったように、
オレにまだ可能性があると思うか!?
オレに、エリアスの隣に立つ資格があると思うか!?
オレに、エリアスと共に未来を夢見ていいと思うか!?
もしオレに希望を感じると言うのなら!!
オレと共に戦ってくれ!!支えてくれ!!
導いてくれ!!オレと共に未来を作ってくれ!!
頼む!! 王国を守る兵士たちよ!!
エリアスを守る兵士たちよ!!
今のオレには、お前たちが絶対に必要なんだ!!!」
一瞬の静寂。広間がスカイの言葉を反芻する。
――そして、爆発。
「ウオオォォォオオオ!!!!」
兵士たちが一斉に咆哮を上げる。
「スカイ様ぁぁぁ!!」
「行くぞ!!」「エリアス陛下を救う!!」
「俺達が必要だと言われたら、行くっきゃねえ!!」
王国守護騎士団団長が
スカイとフィートの前に跪く。涙を拭い、力強く。
「スカイ様、あなたの言葉で目が覚めました。
どうか、我々も貴方と共に戦わせてください!!」
団長は立ち上がり、全軍に向かって叫ぶ。
「我らは誉れある王国守護騎士団!!
悪しき敵から王国を守るための盾であり、
また敵を滅する剣だ!! 今こそ、
命を懸けてその使命を果たそうぞ!!!」
「オオォォォオオオ!!!!」
兵士たちが剣を抜き、天に突き上げる。
広間が希望の渦に包まれる。光の海が輝く。
フィートは呆然とその光景を見つめ、
そして隣のスカイの顔を見て心の中で呟く。
(全く、スカイ殿……
こんな体でよくぞあそこまで。
あなたは、本当に人を動かす力を持っている……)
スカイは痛みを堪え、ニヤリと笑う。
「よし……行こう!!エリアスの元へ!!」




