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第132話 禁断の薬とフィートの叱責




治療室の空気が、重く張りつめていた。


医者の手が震えながら注射器を構える。

針先がスカイの左肩に近づくその瞬間――




「待て!」




鋭い声が響き、フィートが医師の腕を掴んだ。




全員の視線が王族のフィートに集中する。

兵士の目が揺れ、看護婦たちが息を飲む。


医者も注射器を止めて、戸惑いの表情を浮かべる。






スカイが顔を上げ、苦痛に歪んだ声で訴える。


「フィート……止めないでくれ。今しかないんだ。エリアスが待ってる!」







しかしフィートは静かに、しかし王族の威厳を湛えた目で医者を見つめる。



「王族の権限を行使する。詳しく聞かせてくれ。

このモルヒネとアリナミンとやらの効能を、

正確に。」





医者は額に汗を浮かべ、緊張した声で説明を始める。


「は、はい……、


モルヒネは強力な鎮痛剤で、激痛を即座に抑えます。


アリナミンは栄養素の1つを主成分とした注射で、

神経の働きを整え、活力代謝を促進します。


激しい疲労や筋肉の重だるさを和らげ、

短期的には体力を回復させることができます。

日常動作なら、数時間から

1日程度は動きやすくなりますが。


それで一時的にあらゆる痛みを忘れ、

体力回復を発揮します。


確かに……短時間なら、

普通の人間の1.3倍以上の運動能力が出せます。」




周囲の看護婦たちが頷き、兵士が息を詰めて聞く。



スカイの目がわずかに輝く。


「それでいい! 早く……!」




だがフィートは冷静に続ける。


「ふむ。では、その効果の持続時間は? 

そして反動は?」






医者の顔が曇り、難しい表情で答える。


「持続時間は……30分以上動ければいい方です。



アリナミンの効果は個人差がありますが、

予想通りなら3日前後持続します。

栄養素の1つなので過剰摂取の心配は少なく、

副作用も注射部位の軽い痛み程度ですが……


激しい戦闘のような超人的な力は期待できません。

長時間の消耗戦なら有効ですが、 

無理をすれば結局体力が底をつきますよ。



それよりも問題なのはモルヒネの方です。

呼吸抑制や意識喪失、依存のリスクが極めて

高く、過剰投与で死に至る危険性があります。

効果は短く30分〜1時間程度で、

反動で体力が急落し、戦闘中なら即座に

倒れる可能性大です。


アリナミンならまだしも、モルヒネは

命を使った賭けですよ。


どちらも臨床試験すら未了の未承認薬です。

スカイ様、そんな命を賭けるような……!」



部屋が凍りつく。兵士の顔が深刻な顔になり、看護婦の一人が不安そうな顔をする。


「30分……。しかも後からそんなリスクが……」



フィートはゆっくりスカイを振り返る。

その顔には、呆れと般若のような怒りが入り混じっていた。


普段の穏やかな王族の仮面が剥がれ、本気の苛立ちが露わになる。



「スカイ殿! あなたは何でそんなに自分

を大事にしないのですか!? 

この兵士を通してエリアス陛下の覚悟を

聞いておきながら、その気持ちを無碍に

するんですかっ!?」



フィートの声が治療室に響き渡る。

兵士がハッとして俯き、医者たちが息を飲む。




スカイは一瞬言葉を失い、左肩の痛みを堪えながら目を伏せる。


「……確かに、オレの考え無しだ。

認めるよ。自分の命を軽く見すぎてる。

でも……!」





スカイは顔を上げ、鋭い眼光でフィートを睨む。



「それでも、何もできないままエリアスを失いたくないっ!! 

オレの絆を、オレの愛を、

ただ見てるだけで終わらせたくねえんだ!!」




その言葉に、部屋の全員が胸を突かれる。

兵士の目が潤み、看護婦がハンカチを握りしめる。



しばらく睨み合ったスカイとフィートだったが、



やがてフィートは大きなため息をつき、

肩を落とす。


「……はぁ。分かりました。

なら、私があなたをお連れします。

その薬は、エリアス陛下を助ける直前まで取っといてください。」



フィートは医者から注射器を受け取り、

使用方法を素早く確認する。



医者が丁寧に説明する中、

スカイは驚きの目で見つめる。



「フィート……いいのか? 

オレを止めなくて、それにお前、

王族だぞ? お前までこんな危険な……」



フィートは注射器を懐にしまい、

いつもの穏やかな笑みを浮かべる。


「今更スカイ殿を抑えても止められないのは分かりましたし……

私もゼストールに散々いじめられましたからね。

あの男の傲慢な笑顔を、二度と見たくありません。」





その言葉に、スカイの胸が熱くなる。


(フィート……すまない。

オレを支えてくれて、ありがとう。)



心の中で深く謝罪と感謝を述べ、スカイは立ち上がる。



左肩の痛みはまだ残るが、意志の炎が体を支える。



兵士が拳を握り、感極まった声で叫ぶ。


「スカイ様! フィート様! 

お供します!!」



看護婦たちが涙を拭き、

「どうか……無事で!」




医者が頷く。「ご武運を。」




スカイはフィートと兵士を従え、

治療室を後にする。



廊下に響く足音が、エリアスの元へ向かう決意を刻む。




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