第131話 届いた想い
周りの医者や看護婦が慌てて兵士に詰め寄る。
「ここは治療室です! 無許可入室は禁止!」
「出てってください!」
「患者さんの安静を!」
だが、兵士はそれを振り切り、必死の表情でスカイを探す。
ついに目が合い――
(スカイ様っ!! 目覚めてる……奇跡だ!!)
心の中で叫ぶ。
スカイは兵士の悲痛な顔を見て、胸騒ぎを覚える。
「おい、お前……エリアスに何かあったのかっ!? こっちに来て説明してくれ!!」
兵士は医者たちを振り切り、ベッドサイドへ駆け寄る。
フィートとスカイの前に膝をつき、息を荒げて言った。
「まず、フィート様……緊急につきご無礼、どうかお許しを。
そしてスカイ様! エリアス陛下について、あなたにお伝えしなければならないことがあります。それは……」
兵士の声が震え、目から大粒の涙がこぼれ落ちる。
部屋の空気が一瞬で凍りつく。
兵士は声を絞り出すように、エリアスの降伏条件を説明し始めた。
「陛下は……ゼストールに『私の身と王国全てを明け渡す。その引き換えに、王国民を北門から安全に国外離脱させる』と条件を出しました……!」
スカイとフィートの顔から血の気が引く。
「な……何だって!?」
スカイの声が震える。フィートは言葉を失い、ただ兵士を見つめる。
兵士は涙を拭わず、続けた。
「陛下は言っていました。『スカイにまだ可能性があるなら、その時こそ周辺諸国と協力してゼストールを倒して、この狂った数値社会を終わらせて。彼ならそれができる』と……!」
スカイの拳がシーツを握りつぶす。
「エリアス……お前、そんな……!」
兵士はついに堪えきれず、声を上げて泣きじゃくりながら訴える。
「そして、陛下は笑いながら涙を流して……
『今、スカイに会ったら、私、投げ出してしまう。私一人のワガママに、みんなを、スカイを死なせたくない。私、スカイを世界で一番愛している』
って言いましたっ!!
陛下はっ!! 我々とスカイ様を守るために、犠牲になるおつもりですっ!!」
「…………っっ!!!」
部屋が静まり返る。
スカイの目が見開かれ、心臓が止まるような衝撃。フィートの肩が震え、医者看護婦たちも息を飲む。
兵士の嗚咽だけが響く。
「早まるなっ、エリアスっ!!」
スカイが咆哮し、無理矢理体を起こそうとする。ベッドが軋み、左肩から血がにじむ。
「オレが……オレが守るって言ったのにっ!!」
フィートが全力でスカイの肩を押さえつける。
「スカイ殿っ!! 何度も言わせないでください!!
今動けば怪我が悪化します!!
最悪命に関わりますよ!!」
医者看護婦たちも駆け寄り、スカイを抑え込む。
「安静に!!」「傷口が開きます!!」
兵士は床に額を擦りつけ、泣きすがる。
「スカイ様!! 自分は納得いきません!! こんな選択しかエリアス陛下に残されてないなんて……自分たちに、もうできることはないんですか!? 陛下の覚悟、無駄にしたくないんです!!」
その悲痛な叫びに、フィートはスカイを抑えながら無言で唇を噛む。
目には悔しさと無力感が滲む。スカイは兵士の目を見つめ、その純粋な想いに胸を打たれる。
(諦めたくねえよな……
当たり前だ。オレだってそうだ。やっと自分たちで選択して作り出した未来を、
結局「数値が全てでした」で否定されてたまるか!! エリアス、お前の愛を、オレは絶対に無駄にしない!)
スカイは静かに、しかし力強く兵士に言った。
「終わらせない。それしか選択肢がないんじゃねえ。選択肢を増やすんだ、作り出すんだ。自分たちで。でもそれには、オレ一人じゃ無理だ。だから……協力してくれ。」
兵士は涙を拭い、力強く頷く。
「は、はい!! スカイ様、何なりとお申し付けください!!」
スカイは医者と看護婦たちに向き直る。
痛みを堪え、眼光鋭く。
「例のものは、用意できたか?」
医者は緊張した面持ちで注射器を差し出す。
「伝えられた通りに調合いたしましたが……医者として反対です。これはまだ臨床試験すら済んでいません。スカイ様の述べられた効果が出たとしても、生命の保証はできかねます。」
看護婦も涙目で訴える。
「仮に効果があっても、持続時間も副作用も後遺症もわかりません。それでスカイ様の身に何かあれば、エリアス様は……っ!!」
看護婦の言葉を、スカイは静かに制止した。
優しく、だが断固として。
「それでも、今はこの瞬間しか逆転の可能性はねえんだ。だから、オレに打ってくれ。この世界じゃ未承認の薬
――モルヒネとアリナミンを。」




