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第1話 スラムに生まれる意味

雨の匂いが、土と錆びと同じくらい日常の一部になっていた。


崩れかけたレンガの隙間から水が滴り落ちる音を聞きながら、スカイは古びた毛布を被って目を閉じた。


「また今日も、何も変わらなかったな。」


13歳の少年にしては、彼の独り言は老成していた。



この世界に生まれた時からスラムの住人。


痩せた腕、泥に汚れた手足。空を見ても、輝くものは何一つなかった。


彼の記憶には、確かに“前の世界”があった。


ノルマに追われ、雷雲が音を発し、雨の中を足早に帰る途中、突然の閃光に包まれた。


気づけば、ここ――知らない世界の、鉄くずとゴミの山の上で泣いていた。


孤児院に拾われ、働きながら学びもしたが、それも二年前に潰れた。


いまは廃屋に寝泊まりしながら、

日雇いのような仕事を探して日々をつないでいる。


あぁ・・・幸せになりたい。


「……今日こそは、いい夢が見られますように」


つぶやきながら、スカイは眠りに落ちた。


そして――次の瞬間、


彼の前に現れたのは不思議な光景だった。



机。椅子。モニター。

どれも前の世界で見慣れた“あのかたち”をしている。


「……まさか、これ……パソコン?」


モニターには見覚えのある赤い再生ボタン。


紛れもなく、それは“あのサイト”だった。



『YouTube』。 胸が高鳴る。



マウスを動かすと、ちゃんと反応した。

夢の中なのに、リアルすぎる操作感。

検索窓に半ば懐かしさで打ち込んだ



――【貧乏から抜け出す方法】

やがて表示されたのは、

かつて見ていたような無数の動画たち。



スーツ姿の人が静かに語る。


節約術、簡単な料理法、物の売り買いのコツ。


スカイは食い入るように見た。


気がつけば、夢の時間は過ぎ去っていた。



翌朝、目を覚ますと――

昨夜の記憶が、映像のように頭に焼き付いていた。

夢で見たYouTubeの内容が、はっきりと全部思い出せる。



「……覚えてる。ぜんぶ、覚えてる!」



半信半疑のまま、彼は動画で見た“高栄養スープ”の作り方を試してみた。


スラムで拾える根菜を干して煮込み、塩代わりに灰を使う――


すると驚くほど旨かった。しかも腹もちもいい。


スカイは震える声でつぶやいた。



「これ……使えるかもしれない」



その夜、彼はもう一度願うように目を閉じた。


「頼む……もう一度だけ、あの夢を……」


暗闇の向こう。光が点く。


再び現れたモニターの赤い再生ボタン

――。物語は、ここから始まる。

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