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第6話 裏方最前線

背を一筋の冷たさがすり抜けた。

喉の奥で唾が鳴った。

チアリーがモニターを操作すると、映像の左側に生体モニターが立ち上がった。

「ワイバーンと交戦中。ダメージは甚大です」

アゼッタが画面を凝視しながら言った。

「この人、最近バッグを契約した冒険者だわ……」

ベルが表情をしかめた。


顧客情報を見ると、Cランク冒険者のビクタム。

ワイバーンはBランク冒険者相当の魔物のはず。

「……巣の調査依頼だ」

指先に感じた、依頼書のざらついた質感が蘇る。

「レジナルド! どうしたらいい!?」

チアリーが泣きそうな顔でこちらを振り返った。


まずは現状把握だ。

正面に現地映像、左側に生体モニター、右側に所持品スロットが並ぶ。

「この映像はマジックバッグを介した映像で間違いない?」

「そうです」

アゼッタが即答した。


空から次々にワイバーンが降りてきていた。

「群れが帰巣するタイミングにぶつかったんだ」私は呟いた。

調査隊はいくつかの分隊に分かれていたようで、冒険者ビクタムが所属する分隊は5人。

分隊で一番高ランクの冒険者を最後尾に、撤退を試みていた。

バッグを持っているビクタムは、仲間の肩を借りて歩いていた。

回復職のダメージが最も大きく、もう1人が背負っている。


ビクタムの生体モニターを見ると、外傷は軽度だが、体力ゲージが著しく低下している。

出血量は多くないのに、呼吸だけがやけに速い。

得も言えぬ違和感を感じながらも、手の無さに思考が止まる。

「画面越しに何もできないのかっ……」

揺らぐ視界に、強く奥歯を噛み締めた。


ガッと肩を掴まれた。

「レジー! しっかりしなさい! 私たちにはこの倉庫がある。あなたには私たちがついてるわ」

ベルの力強い言葉に、一気に視界が開かれた。

「倉庫のことなら私に任せて!」

「大事なお客をみすみす逃すわけにはいきません」

チアリー、アゼッタの言葉に、思考は再び回転し始める。


その時、出庫リストに回復薬が表示された。

ゴーレムが動き出した。

同時に私も走り出す。

棚から解毒薬を手に取ると、回復薬と同時にゲートへ押し込んだ。

『え、解毒薬? まさか……そうか! ワイバーンの爪の毒!』

「よし! 届いたっ!」

勢いよく拳を握った。


こちらから画面の向こうへ介入はできないが、供給ならできる。

私には実戦経験こそ無いが、10年間魔物と戦うことを夢見て、勉強し続けてきた知識がある。

この倉庫は、名だたる大商会の倉庫と繋がっている。

昨日もらった取引先一覧はすべて私の頭に入っている。

いける!


「アゼッタ! 他の倉庫から直接在庫を買い取ることはできる?」

「本来ダメですけど、なんとかします」

変わらず淡々とした口調が心強い。

「チアリー! ゴーレムを15体、精霊を5体、回してほしい」

「おっけい!」

元気なチアリーの声が戻ってきた。

「ベル! 『バリアクラフト社』『救護堂クローバー』『山猫工房』の倉庫からこの在庫を流してほしい」

「任せといて!」

メモを手渡すと、ベルは駆け出した。


いよいよ分隊は前後をワイバーンの群れに取り囲まれてしまった。

解毒薬で歩けるようになったビクタムは、武器を取ろうとマジックバッグに手を入れた。

「今だ! 拘束パック流して!」私は声を張り上げた。

ビクタムの手には、バリアクラフト社製の上質な結界粉末と音響玉、山猫工房製の強靭なロープ。

ビクタムは、もはや混乱しながら、結界粉末と音響玉を空中へ放り投げる。

分隊を結界が取り囲み、その外で轟音がワイバーンの内耳を襲った。

平衡感覚を失ったワイバーンたちは地面をのたうち回る。

『よくやったビクタム! ロープで縛り上げるぞ!』

リーダーの高ランク冒険者が素早く指示を出す。


「次のピッキング急いで!」

私は次の行動に備えて、精霊たちに指示を飛ばした。

精霊の指示のもと、ゴーレムたちが運ばれてきた在庫からパックの用意を進めた。


分隊が撤退に入るタイミングで、何かを察したビクタムがマジックバッグに手を入れた。

「物分かりが良くて助かります!」私は届かない声を張った。

ビクタムの手に、救護パックが渡った。

中には、ビクタム自身の回復薬、解毒薬に加え、救護堂クローバー製の止血帯と布担架。

身動きの取れない回復職を手早く布担架に乗せると、分隊は走り出した。


しかし、その時、分隊の足元に現れた断崖が退路を妨げる。

『くそ! 回り道してたら追いつかれる!』

その時、既にビクタムの手には搬送パックが届いていた。

ビクタムは山猫工房製の簡易滑車とロープをメンバーに配った。

近くの木にロープを括りつけると、全員が無事に崖を降りきった。


間もなく、全ての分隊が合流し、被害情報が共有された。

ワイバーンの一斉帰巣により、多くの分隊で甚大な被害が出ていた。

ビクタムはマジックバッグから次々と救護用品を取り出し、手渡していった。

命の瀬戸際にいた多くの者たちは、ひとり残らず救われたのだった。




全身の力が抜け、私はその場に座り込んだ。

ベルの手がそっと私の肩に触れた。

「よくやってくれたわ。ありがとう」

そう言うと、隣に座った。

「うわ〜よかったよぉ〜!」

チアリーは顔をぐしゃぐしゃにしながら、駆け込んで抱きついてきた。

アゼッタもすぐ近くにちょこんと座った。

「まったく、精霊もゴーレムもこんなに動員して、大赤字じゃないですか」

「あはは、ごめんよ」

「まぁ、皆さん助かったので良いですけど」

ぶつぶつ言っているアゼッタの頬はいつになく赤かった。


私は止まぬ胸の高鳴りを聞きながら、こわばった拳をほどいた。

長く息を吐くと、変わらず動き続けるゴーレムの駆動音が聞こえてきた。

それがたまらなく心地よかった。


最後までお読みいただきありがとうございます!

ようやく副題回収です。引き続きよろしくお願いします!



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