表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/18

第5話 バッグの中の倉庫

「今日は冒険者向けのマジックバッグ倉庫です」

出社するとすぐにアゼッタが、今日の研修内容を告げた。

「冒険者」という言葉に肩がすくむ。


アゼッタが給湯室の先の戸を開いた。

鉄の匂いが鼻腔をくすぐり、白い息がふくらんだ。


魔法陣を踏まないように、部屋の奥に浮かぶ結晶の前まで移動する。

「これは『コア』。ブロード商会の心臓です」

私は目を細めてコアを見つめた。

コアからは、空間が歪むほどの濃い紫の光が溢れ出していた。

光は霧となって台座の縁からこぼれ、床をゆっくり這って、靴先でたゆたう。

「なんというか、ちょっと不気味ですね」

「そうですね。この光の正体は、蓄えられた魔力なんです」

「え、魔力を貯めておくなんて、できるんですか」

「ブロード商会の創始者、デベロ・ブロードが生んだ技術です。この情報は商会の最深秘。ギルドやどの取引先にも伏せています」

アゼッタは眉間にしわを寄せた。

その迫力に、私も背筋が伸びた。


「これを見てください」

アゼッタがコアに手をかざした。

コア周囲に、大小の光の板が層状に展開された。

「これは、倉庫全体の縮尺模型?」

「そう」

よく見ると、板の上には小さな箱が無数に並んでおり、通路を箱が移動していった。


「コアを中心に、その魔力を利用して、倉庫空間を具現化しています」

眺めていると、昨日作った2重ループが、模型の上でも滑らかに回っている。

「チアリーがゴーレムを動かす際の魔力も、精霊の給与としての魔力も、このコアから――」

見れば見るほど愛おしい箱の流れに口もとが緩んだ。


「レジーさん、聞いていますか?」

「ああ、ごめんなさい!」

「まぁいいです。倉庫に向かいます」


2人は魔法陣の上に移動した。

アゼッタが魔法陣を起動すると、目の前を白い光が覆った。



目を開けると、白い空間内に、昨日よりこぢんまりとした倉庫。

いくつものブースに分けられており、入出庫ゲートがブースごとに1つ配置されていた。

「剣、回復薬、罠、テント……ここがマジックバッグの中なんですね」

「はい。ゲートそれぞれが、別々のバッグ入り口に繋がっています」

ブォンと音を立てて、ゲート上のモニターが点灯した。

同時にゲートに繋がるコンベアが駆動し、そばのゴーレムも起動した。

「持ち主がバッグを起動したみたいです」

モニターの出庫リストに剣名とロットが表示された。

ゴーレムは素早い動きで、すぐ横の棚から該当の剣をコンベアに流した。

剣はゲート内に消えていった。


「これはすごい。商会・工房向けのシステムを小規模にして、冒険者向けの運用に落とし込んでいる」

「はい。ベルの発想をチアリーが形にした、ブロード商会の新しいビジネスモデルです」

めずらしく、アゼッタの耳がうっすら色づいた。

そう知った上でその倉庫を見回すと、まだまだブース数は20にも満たない。

「冒険者への販売促進は喫緊の課題ですね」


その時、奥のブースから「ジリリリ!ジリリリ!」と大きな音が響き渡った。

アゼッタと一緒にアラームの元へ駆け寄った。

「何があったの!?」

「持ち主に生命の危機が迫っているようです」

アゼッタは淡々と述べながら、壁の通信機を手早く起動する。

「チアリー、ベル、緊急事態です」

『今から向かいます!』


間もなくして、白い光から2人が現れた。

チアリーがモニターを操作すると、映像が切り替わった。

肩から指先まで強ばりが走り、息が一拍、胸で止まった。

『グゥオォォ!』

けたたましい咆哮と共に、ワイバーンがモニターに大写しされた。


最後までお読みいただきありがとうございます!

ブックマーク、ご感想いただけると励みになります!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ