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第4話 倉庫が呼吸を取り戻す

私の目の前には、真っ白な景色が広がっていた。

壁と床のあわいは溶け合い、どこまでが空間で、どこからが壁なのか。

果てしなく広がっているようで、ふとした瞬間、壁がすぐそこまで迫っているようにも感じられた。


高く積まれた木箱が床を埋め尽くすように、整然と並んでいた。

「ここが倉庫。魔法で作り出された空間」

アゼッタが淡々と言った。


目の前を手の生えた土塊が、荷物を抱えて通り過ぎていく。

小柄なアゼッタと同じぐらいの背丈で、丸いフォルムがなんとも可愛らしい。

「これは、ゴーレムですか?」

「はい。運搬や梱包など、基本的な業務を行います」

見渡すと、奥ではゴーレムが1列に並び、コンベア上を流れる箱に商品を詰め込んでいた。


その頭上に、モフモフした生物が空を飛びながら、光る石を運んでいた。

「あの生き物は?」

「精霊です。高い知性を持ち、検品やロット管理などをお願いしています」

「へーあの石で在庫の管理をしているんですね」

「そう、刻印石。魔力を使用して、荷物にラベルを付与できます」

精霊が刻印石を荷物にかざすと、石が淡く輝き、3秒ほどして箱にぼんやりとラベルが光った。

現実離れした光景に、思わずゴーレムの動きを目で追ってしまう。


「ちなみに、精霊との契約も、ゴーレムの召喚も、全てチアリーがやっています」

「え、こんなにたくさん!?」

その事実に驚いて、私は後ろを振り返った。

チアリーは少し照れくさそうにしつつも、「フフン」と鼻を鳴らした。

「さ、早く現場に向かおう!」



大きなモニターには、ロット番号が羅列され、毎秒更新されていた。

その下の壁には四角く穴が空いており、そこからコンベアに乗って、商品が次々と運び込まれてくる。

ゴーレムがそれを箱に詰め、精霊が刻印石をかざして魔力ラベルを付与。

蓋を閉めると、次のゴーレムが所定の位置へ運び出していく。


……のはずが、ゲート前の流れには淀みが生じていた。

「システム上、1顧客の入口と出口のゲートは同じなんです。入出庫が同時にたくさん入ると、毎回こうなっちゃうんですよね〜」

チアリーは、身動きの取れないゴーレムの間に分け入って行こうとした。


「あれ、これ見覚えが……」


そうだ、工房の路地で荷車が渋滞していた、あの時によく似ている。

「チアリー! ちょっと任せてもらえませんか?」



大きく深呼吸してから、改めて現場を見回した。

渋滞の発生源は入庫列と出庫列の合流点。

特に入庫した後の、魔力ラベル付与がボトルネックになっていた。


まず、入出庫のゲートが同じということは、時間で切り分けるしかない。

「時間を区切って、入庫と出庫を切り替えます」

「わかった! どれくらいで切り替えるの?」


入庫時の詰め込みにかかる時間は11秒、ラベル付与には3秒。

一方、出庫時のラベル確認にかかる時間は2秒。

それぞれの待機列を最小限に抑えるためには……

「入庫140秒、出庫20秒、それぞれ間に10秒の切替時間を挟んで、180秒のサイクルで回します!」

「おっけい! 精霊さんよろしく!」


精霊が鳴らすモニター音に合わせて、ゴーレムが赤旗、白旗を交互に掲げた。

精霊とゴーレムの正確で再現性の高い動きが繰り返された。

30体以上あったゴーレム待機列は、最大10体にまで、みるみる短くなっていく。


「すごい……」

端で見ていたアゼッタがぼそっと呟いた。

「いや、まだまだですよ」

私は腕まくりしながらそう言うと、床に矢印を書いた。


「運搬ゴーレムは矢印の通りに周回してください!」

反時計回りに、内回りと外回りの二重ループを作り出した。

出庫相でゲートに荷物を預けたゴーレムは、矢印に従って内回りで周回。

入庫相に切り替わったタイミングで、内回りで戻って来たゴーレムがゲートで入荷を受け取る。

そこから外回りに移動し、入庫処理を行なったのち、棚への格納班に受け渡す。

その後、再び出荷物を受け取ったゴーレムは外回りでゲートまで移動。


2重の輪が回り始めた頃には、淀みはもうどこにもなかった。

倉庫が呼吸を取り戻した。



「すごい!すごい!」

チアリーは精霊と一緒に、ぴょんぴょん飛び跳ねていた。

「さすが。ベルの見立て、やはり正解でした」

「ありがとうございます」

ふーっと息を吐きながら、流れ続けるゴーレムの列を眺める。

知らぬうちに噛み締めていた奥歯が緩み、拳が開いた。


「レジナルドさん! 改めてブロード商会に来てくれてありがとうございます!」

「これからも力を貸してください」

2人の言葉に、鼓動が跳ね上がった。

「はい!」


最後までお読みいただきありがとうございます!

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