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第16話 マジックバッグ日和

新入社員レジナルドの朝は早い。

今日もまた、東の空のやわらかな光に背中を押されながら、職場へ向かった。


城のような大邸宅が見えてくれば、事務所はすぐそこだ。

道を右に曲がった。


すると、そこにはいつもと違う光景が広がっていた。


事務所の前に人だかりができていた。


何事かと、群衆の間を分け入り、事務所内に足を踏み入れた。

「あ! レジー! 来てくれてよかった!」

チアリーがすぐにこちらに気がついた。


「何があったんですか!?」

「みんな、マジックバッグの契約に来た冒険者です」

アゼッタは書類から顔も上げずに答えた。


「はい。では、通常プランに、生鮮食品オプションでのご契約で進めさせていただきますね」

ベルは応接テーブルで、冒険者との契約を進めていた。



「まだか!」

「おい、俺が先だぞ!」

事務所の外が物々しくなってきた。


「わわ、レジー、どうしよう」

チアリーが駆け寄ってきた。


「チアリー、外の冒険者たちを到着した順に一列に並べてもらっていい?」

「わかった!」

チアリーはビシッと敬礼すると、外へ出ていった。



私はコアの部屋から倉庫に転移し、机を一台持ち出した。


応接テーブルの隣に持ってきた机を並べると、ベルと私とで来客を次々に捌き続けた。

「魔物の死体をバッグに入れる予定がある場合、この防臭オプションを付けていただくようにお願いしています」

「毒物オプションはいかがですか? アサシンの方でしたら、戦闘用の毒を別の荷物と隔離して、安全に運ぶことができますよ」



事務所の奥ではアゼッタが、ものすごい勢いで書類をまとめ上げていた。

チアリーは外の冒険者を並べて、席が空いたら、中へと案内する係だ。


しばらくの間、行列の長さは変わらなかった。



アゼッタが一瞬手を止め、チアリーに何かを耳打ちした。

チアリーは目を輝かせて頷くと、部屋の奥へ消えていった。


戻って来たチアリーは、壁掛け用の黒板を手にしていた。

アゼッタにもう一度確認した後、チアリーは黒板に大きく文字を書いた。


【マジックバッグ契約者数 82名】


私は横のベルと、チラッと目を見合わせた。


営業のトーンがまた一段と上がった。

目が回りそうなのに、頬は自然と緩んでいく。


チアリーが時折、黒板の文字を書き直していた。

「90名突破しました!」


私は机の下で、ぐっと拳を握った。

営業の手は止めない。

「バッグのお届けは1週間後になります。お手元に着きましたら、すぐに全機能をお使いいただけます」


92、95、98――





私とベルの前には最後の来客者が1人ずつ座っていた。


「ありがとうございました!」

最後の2人も、満足そうに事務所を出ていった。


チアリーが黒板の数字を、ゆっくり「100」に書き換えた。


「契約者……100人」

アゼッタが口にした。


私とベルは勢いよく立ち上がって、互いに手のひらを打ち合わせた。

「やりました!」

「ええ! やったわね!」


「すごいすごい! 100! 三桁!」

チアリーは満面の笑みで、飛び跳ねていた。


ベルは大きく伸びをすると、ぐるりと事務所を見渡した。

「みんな、お疲れさま! 100件達成! 今夜は打ち上げに行くわよ!」


私たちは顔を見合わせて、笑った。

散らかった書類も椅子も、全部が少し誇らしげに見えた。




最後までお読みいただきありがとうございます!

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