第14話 世話の焼ける親友
チアリーを抱えて、外に飛び出すと、日は西に沈みかけていた。
一番近くの医院の玄関を叩いた。
チアリーは医院のベッドで静かな寝息を立てていた。
「ひとまず大事はないそうです。食事も睡眠も取らずに、仕事に没頭していたみたいですね」
私は医師からの言葉を2人に伝えた。
「そう、よかったわ……」
椅子に座るベルはひどく肩を落としていた。
アゼッタもその横に小さく座っていた。
私は丸椅子を引き寄せて、腰を掛けた。
何か言おうかと口を開いたが、言葉は見つからなかった。
「――前にも同じようなことがあったの」
ぽつり、ベルが言葉を漏らした。
「私とチアリーは、親どうしが知り合いで、小さな頃からの付き合いなの」
私は静かに頷きながら、ベルの話に耳を傾けた。
「昔から何かに没頭すると、周りが見えなくなる性格で。一緒に遊んでたはずなのに、途中から私の声が聞こえてない、なんてこともよくあったわ」
ベルは天井を見上げて、苦い笑みを浮かべて語った。
「チアリーは王国立魔導学院を卒業しているのよ」
「え!」
思わず、声が漏れてしまった。
「国で一番の魔導学院じゃないですか。優秀な魔導士とは思っていましたが、そこまでとは」
「そう。チアリーは優秀なの。でも、学院に通ってる間、魔法陣の研究にのめり込みすぎて……」
「今回みたいなことがあったんですね」
「ええ。集中し始めると、休めって言っても聞く耳持たないから」
ベルはチアリーの顔を優しく見つめた。
「それで、その時から、私はチアリーと一緒に住むことにしたの! そうしたら、チアリーは家事をしないといけなくなって、ご飯も食べるでしょ!」
「ベルが家事したくないだけですよね」
アゼッタの冷静なツッコミに、ベルは笑顔で「なんだと〜」と返していた。
私も笑顔でその様子を見ていた。
「あれから時間も経って、油断してたのかな。自分の忙しさを理由にして、チアリーのこと、見てあげられてなかったみたい。親友失格よね……」
ベルが視線を落とした。
膝の上で握りしめた拳が小さく震えていた。
「――そんなことないよ」
小さく弱々しい声だった。
全員がその声の元に目を向けた。
「ベルがいてくれるから、毎日の家事もお仕事も全部楽しいもん」
チアリーは目に涙を溜めながら、ベルに微笑みかけた。
「チアリー!」
ベルはチアリーの枕元に駆け寄った。
「もう、ほんとベルは世話が焼けるんだから」
「どの口がいってんの」
2人はクスっと笑い合った。
アゼッタは背筋を丸め、足を投げ出して座っていた。
私も立ち上がって、チアリーの近くに寄った。
「チアリー、無事で良かったです」
「ご心配おかけしました」
チアリーは申し訳なさそうに首をコクっと下げた。
「今回、倉庫関連の業務を全てチアリーに押し付けてしまったことが、私のミスだったと反省しています」
「いや、これは私がやりたくて――」
今にも起き上がりそうなチアリーの言葉を、そっと手のひらで制した。
「だから、これからは一緒に設計しましょう」
チアリーの大きな瞳と視線が合った。
「“どんな倉庫がいいか”は私の仕事。“魔法で形にする”のがチアリーの仕事。でしたよね?」
チアリーは大きく1つ息を吸い込んだ。
「はい!」
それはもう、いつものチアリーの笑顔に見えた。
これで、きっと上手くいく。そう思っていた。
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