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異世界の村人、日本に転生。でも、なにすればいいの?  作者: コヨコヨ


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会いたい

「皆さん、ここは危険です……。早く非難を……」

「い、いいや、それはこっちのセリフ」


 警察官たちは異様な雰囲気を放つヒトシに引き気味だった。

 制服姿のヒトシに危機感を覚える者はいなかった。タナカだけおいて引き返すわけにもいかず、警察官に保護される形で事情聴取の流れになる。


 トラックは爆発せず、タナカは死ねずに警察に捕まった。まだ、彼が爆弾魔ではない可能性が示唆され、容疑者としての逮捕だが証拠や動機によって主犯格だと分かるのも時間の問題だろう。


 爆発事件の被害はまだ確認できていないが、重軽傷者は多数。

 死者の数は報道されていない。タナカは計算して爆破事件を起こしたのか、はたまた、ただたんに運がよかっただけなのか。

 どちらにしろ、終身刑は免れないと思われる。いや……、無罪の可能性もある。精神状態が不安定だと無罪の可能性もゼロではない。まあ、計画を立てられるのなら精神異常と認められないか。


 タナカは今後も長い間、罪の重さに苦しむと思うが、それがこの日本が定めた憲法であり、国民たちの生活と平和を守り、強く縛っている決まり事だ。


 ☆☆☆☆


 午後六時頃、ヒトシは千代田区にある警視庁に連れていかれタナカとの関係や、なぜあそこにいたのかなど、根掘り葉掘り聞かれた。嘘偽りなく答え、単なる危険な行為を取った善人だと警察官たちに呆れられる。加えてバカみたいに褒められた。


 ジロウについても話したが、そんな警察官はいないと一点張り。もしかするとジロウは公安警察の方なのかもしれない。でも、公安警察の人が警察官の服装で巡回しているとも思えない。

 タナカとつながりるためにと考えてもわざわざ警察官の恰好はしない。となると、警察の方に潜り込むのが目的だったと考えるのが自然か。


「すみません、すみません、すみません、すみませんっ!」


 ヒトシの連絡を受け取った母がヒトシの頭を握りつぶす勢いで掴み、頭を下げさせる。もう、保護室に置かれた大きめのテーブルに額がぶつかるほど深々と頭を下げさせていた。テーブルと何度か衝突し、額から血が出ていないか心配するヒトシだった。


「これ、もしかして君のベルトだったりする?」


 警視庁の偉いさんと思われるおじさんが、ヒトシのベルトを持っていた。

 以前のトラック事故で脚を縛っていたベルトだ。誰が応急処置したのか調べていたらしいが、同じように危険な善行なのでもしやと思ったようだ。


 ヒトシが苦笑いしながら頷くと母の腕が首に回り、絞め技に入られる。危険行為のオンパレードでいつ死んでもおかしくなかったヒトシは警視庁の偉いさんからのありがたーい長話を聞かされる羽目に。


「我々としては君みたいな若者に国を担ってもらいたいものだな。くれぐれも、道を踏み外さないでくれよ」

「は、はい……、善処します」

「あと、娘と仲良くしてくれてありがとう」

「はぁぃ?」


 ヒトシは警視庁長官・神村奏羽(かみむら・そう)と言う名前を聞き、ユウの顔と厳格そうなソウの顔が軽く重なる。警察のトップの娘がユウらしい。まあ、剣道が驚くほど強くて賢い点から考えても優秀な少女だと思っていたが、幾分か合点がいった。


 ソウに酷く気に入られてしまったヒトシは苦笑いするしか出来なかった。


 やっと解放され、午後七時……、東京の夜は一向に明るいまま。懐中電灯を持つ必要もなく、家まで帰れる。

 隣に母がいなければ走って帰るが車の中に詰め込まれ、何事もなかったように日常が流れている東京の夜を照らす光の中を移動する。

 大規模な爆発事件だったが、もう、東京の闇に飲まれてしまいそうだった。

 被害を受けた人にとっては大きな傷になるかもしれない。だが、他県の人々や被害を受けなかった人にとっては、テレビで流れている情報番組程度の感覚で終わってしまう。


 ヒトシにとっては信念を一瞬曲げそうになるほどの事件だった。だが、人を助けるという自分の芯は曲げず、タナカを生かすために動けた。

 あの時、一歩を踏み出していなければタナカは国会議事堂に突っ込んでそのまま自殺していただろう。

 自分にしか助けられない人はまだ、この世に沢山いるかもしれない。死にそうな人がいて、一瞬で助けに行ける体と命、信念がある今はとても尊いんだと気づけた。


 夢と希望、仲間のうち、夢はまだ見つかっていない。


 希望というには少々恥ずかしいものの、尊敬できるキララと言うアイドルがいる。大切な人の未来をいっしょに考えて行動してくれた仲間もいる。焦燥感を得ていた一週間前の自分と一八○度違う感情に変わっていた。

 人を変えるのは同じく人なんだなと察し、ユウやマオの存在にどことなく親近感を得る。


 携帯電話がブーブーと震え鳴りやまない。マキオやメイ、コウスケ、トワ、ユウ、モモカなどから近況報告が何通も届く。どれも、ヒトシの無事を知るためのメッセージだった。皆に『大丈夫』の三文字を送ると、携帯電話は鳴りやむ。


 ――牧田さんはもう家に帰ったのかな。お母さんに高校を辞めたくないとちゃんと言えただろうか。


 ヒトシは先ほどまで話していたマオの家庭事情を思い出していた。話し合っている途中に爆破が起こり、マオの話が中断されてしい、中途半端に終わっている。


 ユウとモモカにマオの件について携帯電話のアプリ内で聞いてみるとマオは家に帰ったらしい。皆、親が心配しているだろうから帰った方がいいと言って話し合いの続きは行われずに解散してしまったと。


 ――中途半端に終わらせてしまって申し訳なかったな。牧田さん、一人で大丈夫かな。


 ヒトシはマオの様子が気になっていた。泣き崩れるほど辛い日々、それを助けてくれない母親。されど、母親の言うことを聞いてしまうジレンマ。

 そんな人生を送って来たマオがどうしても気になる。闇の空に浮かんで見えるはずの星は見えずとも、明らかに光っている満月は大都会の東京でもはっきりとわかる。


 目に見えている場所にいる数名なら、救える。みるからに助けを求めているのに、まだ救われていない一人の女の子が脳裏に浮かぶ。

 股を思いっきり蹴られる出会いは最悪だった。でも、彼女の頑張りは一週間の短い間でもわかる。きっとあんな生活をずっと続けてきたのだろう。放っておけないと言っておきながら、中途半端なところで切り上げてしまっていた。迷惑かもしれないが、今、無性にマオに会いたくなっている。

 辛い思いをしている女の子を助けたいという同情も入っているんだろうか。だが、ヒトシは偽善でも構わないと思っている。助けないよりは何倍もマシだ。泣いている女の子を放っておいたら、男がすたる。

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