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異世界の村人、日本に転生。でも、なにすればいいの?  作者: コヨコヨ


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男女平等

 ヒトシはマオが軽い桜の花びらを巻き上げながら走る姿をじっと見ていた。現在の時刻は午前八時。

 もちろん、他の生徒もいるがマオ以外の人はヒトシの視界に入っていない。ふと、周りの気配に気づくと、マオもユウやキララ同様に他人を引き付ける魅力を持っているとわかった。

 そんな人間が努力していたら、そりゃあ見てしまうよなと頷く。ただ、マオに熱い視線を送っているのはヒトシだけ。他の陸上部員たちはマオが存在していないような雰囲気を醸し出している。


 マオが額の汗をぬぐい、水分補給のために校舎側の石段に置かれた小学生が持っているような可愛い猫のキャラクターが描かれた水筒を手にしたのを見た。すぐに駆け寄る。


「牧田さん、おはよう。凄く綺麗なフォームだった」

「なっ、ムラヒト……。勝手に人の体をじろじろ見てんじゃねえよ、気持ち悪い。他の女子にやってみろ、完全に不審者扱いされるぞ」

「牧田さんしか視界に映らないから問題ないよ。あぁ、でも、牧田さんが見られたくないんだったら、もう見ないようにした方が良いかな?」


 ヒトシは何の躊躇もなく言い放つ。発言を聞いていたマオは何も口にせず、視線を背けた。


「これ、おにぎり。こっちは昼食用の弁当。春先でまだ涼しいけど、食中毒になるといけないから、一応保冷パックに入れてある。食べ終わったら返しに来てもらってもいいし、月曜日でもいい。じゃあ、陸上、頑張って!」


 マオが何か口に出す前に、ヒトシは全て押し付ける。有難迷惑かもしれないが、育ち盛りに加え、食事を切り詰めた生活を送っている彼女が食事を粗末に扱うと思わなかった。

 悪態をつきながらも料理は全て食べるだろう。食べないと体が持たない。


 ヒトシはマオに料理を渡したあと、演劇部の部室に入る。すると、モモカがご機嫌そうな表情で、ユウに仕込まれたダンスを踊っている。

 ヒトシが入って来て、ダンスは止めたが表情はそのままだった。


「みてみて、村坂君。昨日、家で作ったんだー。手作り猫写真集」


 モモカは自宅のプリンターを使って可愛らしい猫の写真を印刷し、ホッチキスと猫の絵が印刷されているマスキングテープで背表紙が作られている。カラー印刷なので一枚一〇円ほどするだろう。同人誌ほどの厚さがあり、何十匹と言う猫のカラー写真が乗っていた。


「全部私が撮った猫なんだよ。一回、写真集を作ってみたかったんだー。これ、マオちゃんに渡したら喜んでくれるかな?」

「絶対に喜ぶね。喜ばないわけがない」


 ヒトシはマオの部屋に入り相当な猫好きだと知っている。彼女が、犬派のヒトシが見ても可愛いと思えるほど上手く撮れている猫の写真が沢山乗っている写真集を受け取って喜ばないわけがない。


「はいはい、皆さん、おはようございます。ユウちゃんですよ」


 ユウも部活が始まる前に部室に入って来た。三年生の先輩たちも遅れずに入ってくる。

 午前八時三〇分ごろ、未だに顧問の先生はいないが部活は始まった。


「今日は掃除しましょう。こんなグチャグチャな物置部屋みたいな場所で真面な練習は出来ません! いる品いらない品という具合に分けていきますよ!」


 ユウは完全に倉庫状態になっている部室を見渡した。明らかに演劇部で使われていたわけではない品が転がっている。

 特に、文化祭の時に使われる花飾りや入場ゲート、パネルなど、必要だが場所を取る品が軒並み置かれている。サボり魔が演劇部の部室に無断で入れた可能性が高い。用具倉庫に持って行くのが面倒くさくなったのだろう。

 力仕事は男が担当し、仕訳作業は女が行う。


 ヒトシは男女平等を訴えたが、モモカにちちちっと指を振られ『男女平等など、とうの昔に滅び去った』と言われた。

 口に出して言わないが、女性の方が男女平等を訴えていたのに力仕事や警察、消防、軍隊などほとんどが男。平等なら半々じゃなきゃ駄目なんじゃないか? まあ、医者やパイロット、教師、学者、全ての男女比を平等にするのは無理なのかもしれない。

 全てを半々にした世界は一体どうなってしまうのだろうか。まあ、感情で生きている人間は男が女を守ると言う生物としての本能が残っているから、危険な場所に女性がいたら男が仕事を放棄する可能性もある。勝手に壁になって倒れるかもしれない。

 敵兵に捕まれば何もかも尊厳を奪われるだろうし、女性が前に出ていい結果が残せる場合が少ない。男女平等など一生現実にならないからモモカは迷信だと言い切っている。


「男女平等って言うのは、男と女の差が開いているから、少し縮めましょうよってニュアンスだよ。女子に負けたら悔しいって思う男の性は自然に女を見下しているってことだよね? 力仕事を女が、振り分け仕事を男がして効率が上がる?」

「す、すみません……。持って行きます……」

「よろしい」


 ヒトシはモモカにボロッカスに言われ、重たいパネルを三年生の先輩二人と一緒に移動させる。一人で持てるが、普通は難しいので一応自重していた。

 急ぐ必要もないので安全に用具倉庫に持って行く。校舎三階の端に設置された用具倉庫に到着し、パネルを壁に立てかける。用具倉庫に鍵が掛かっていたので、ヒトシが職員室まで鍵を取りに向かった。

 すると、職員室で何やらもめごとが起こっているのか、大声が聞こえてくる。


「牧田真央を退学させます! 私があの子を産んだんだから、私がどう扱おうとこっちの勝手でしょ! 他人がでしゃばらないでくれる!」

「牧田さん、お、落ちついてください。牧田真央さんは成績も悪くありません。素行も何ら問題ありません。何より陸上競技で目まぐるしい成績を出しています。退学させるのはもったいない……」

「はぁ? 陸上競技? そんなんで、お金が稼げるの? 今、私にはお金が必要なの。あの子も私の子なんだから、頭がいいわけないし、どうせ、クズみたいな人生を送るのよ! なら、高校に行っている時間とお金が持ったないわ! さっさと働いてお金を稼いだほうが人生楽に生きられるのよ!」

「お、お金が必要なのはどういう理由で……」

「なんで、他人のあんたにそんなこと言わなきゃいけないのよ。どうでもいいでしょ、あんたなんかと話していてもらちが明かないわ。校長でも呼んで来なさいよ! 真央は私の子よ、私はあの子の母親なの、あなた達に何と言われようと、あの子は退学させるわ!」

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