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異世界の村人、日本に転生。でも、なにすればいいの?  作者: コヨコヨ


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一人では生きていけない

「一人でいなきゃいけない人間はいないよ。それだけは断言できる。そもそも、人間は一人で絶対に生きていけないよ」


 ヒトシは多くの者を助けて来たが、逆に多くの者に助けられてきた。

 人間が一人で出来ることなどたかが知れている。この人間社会そのものが人間は一人で生きていけない決定的な証拠だ。

 ドラゴンのように一頭で衣食住の全てを賄えるわけではない。人間は弱いから助け合わないと生きていけない。そんな当たり前な考えをマオは持っていなかった。ゆえに、ヒトシの発言は理解できず、イラ立ちだけが募っていく。


「牧田さんの頑張りを僕に応援させてほしい。牧田さんは何のために努力しているの?」

「何のために努力しているのか? 何のために……」


 マオはヒトシに質問されて、回答がすぐに出てこなかった。

 陸上は高校を卒業し、出来るだけ良い大学進学の足掛かりにするため。アルバイトは大学進学にかかる費用を少しでも工面するため。クズ親に頼れない状況ゆえに自分で良質な未来を掴むため、努力している。


「質の良い未来を掴むため……だ」

「質の良い未来。それってどんな未来なの?」

「そ、それは……」


 ヒトシの純粋な眼差しを受けているマオはふと、考えてしまった。質の良い未来とはなんだと、そんな漠然とした未来のために、今、苦しい思いをしなければならないのかと。

 すでに一人で耐えられるキャパを越えようとしていたマオはヒトシの質問を聞き、自分と向かい合ってしまった。

 どれだけ質の良い未来だとしても、自分の不運体質が変わらなければどんな未来だとしても不運でしかないのではないかと考えてしまう。

 不運体質のため、出来るだけ考えないようにしていたというのに、ヒトシのせいで考えさせられてしまった。

 実際、自分の質の良い未来をまともに想像できない。質の良い未来とは何か、逆に教えてほしいくらいだった。


「わからない。私にとって質の良い未来ってなんだ……」


 マオは俯きながら想像できない未来を知り、肩を抱く。先が見えない暗闇に立たされているようで、脚がすくむ。

 この努力が報われるのか、不幸体質の自分がどれだけ頑張っても意味が無いのではないか、そんな考えが脳裏を巡る。


「それは牧田さんにしかわからないよ。でも一人でいるより、他の人と一緒にいた方が幸せになれると思うな。風邪を引いた時、一人でいたら辛いけど、看病してもらえたら心が軽くなるのと一緒だよ」

「私、風邪ひいた覚えがない。もし、風邪を引いても看病してくれる人もいない」

「大丈夫、その時は僕が牧田さんの看病に行くから!」


 ヒトシは笑みをマオに向けた。すると、マオは目を丸くして、ほんの少し笑い、すぐに真顔に戻る。


「か、風邪の日にすらお節介を掛けるな。風邪が悪化するかもしれないだろうが」

「牧田さんが風邪ひいたら美味しいおかゆを作って食べさせてあげる。だから、何も心配しないで。あと、何か困ったことがあったら何でも相談してよ。男に言いにくい話なら、ユウさんに聞いて。絶対に力になってくれるから!」

「う、うるさい。私は一人でも問題ない。一人でも立派に生き抜いてやるんだ……」


 マオは前を向き直し、ヒトシを無視する。甘い言葉だけを吐き、財布として使えなくなったらすぐに切り捨てる糞ホストみたいなやつに騙されまいと、意思を強く持った。

 何の見返りもなしに優しくしてくる男など存在しない。何かしら裏があって、落とし入れてくるかもしれないと深く考え込んでいた。

 鶏や鳩、ダチョウのようなバカな脳だと賢い奴に騙される。甘い言葉を吐いてくる奴は大概体や金目当て、宗教団体のどれか。

 優しさには裏がある、そう考えなければ弱者は搾取されるばかり。何も持っていないというのに、マオは不運体質ゆえに多く奪われた。夢も希望も何もかも……。

 だからこそヒトシの優しさの裏にマオと仲良くなりたいという事情があると一切察せない。


 午後の授業が終わると、ヒトシの真横を通り、マオは教室からすぐに出ていく。


「牧田さん、また明日」


 ヒトシはとにもかくにも、携帯電話を持たないマオと友達になるために、彼女と人一倍多く接点を作らなければならなかった。

 嫌われている相手から遊びや食事に誘われても、絶対に来ない。だからこそ、まずは最悪な印象を払拭する必要がある。

 話しかける回数を増やせば、それだけで滅多にクラスメイトと話さないマオの中でヒトシはもっとも喋りやすい相手になれるはず……。そんな考えのもと、挨拶は必ずすると決めた。

 もちろん、マオからの返事はない。それでもかまわなかった。


 ヒトシは演劇部の部室に向かう。今日は珍しくユウが遅かったので、携帯電話を見ながら女の子と仲良くなる方法を調べていた。すると、キラキラ・キララにばかり目が行く。

 一度、キララの存在を知ってしまったため、無意識でもキララがテレビのコマーシャルやバラエティー番組、ドラマ、ポスターなど、そこら中で目に入る。怖いくらいに……。


 ちょっと休憩して、部屋の中を見ていたらコルクボードにキララが献血を応援するポスターが貼られていた。もしかすると、自分が思っていた以上にキララと言う存在はやばいのかもしれない。


「はぁー、私、これからどうなっちゃうんだろう……」


 部室の中で人一倍暗い雰囲気を放っていたのはダンスで失敗し、可愛い衣装を披露しただけのモモカだった。未来がどうなるか不安なのは皆同じらしい。


 ヒトシは携帯電話で女子と仲良くなる方法と調べてもぱっとしない記事ばかりで、腑に落ちない内容ばかりだった。そのため、実際の女子に聞いたほうがいいと察し、落ち込んでいる状態のモモカに近づく。


「江田さん、ちょっと質問しても良い?」


 モモカは頭をもたげ、ヒトシの質問に耳を傾ける素振りを見せる。


「僕、友達になりたい女子がいるんだけど、その相手から嫌われているみたいで、どうしたら仲良くなれるかな?」

「村坂君はその女子が好きなんですか?」

「好き? んー、好きと言うか、応援したくなるというか。そもそも、恋愛感情が良くわからなくて……」

「なるほど。男子と女子がずっと友達でいられる可能性は低いですし、男女の友情は成り立たないとも言いますし、嫌われている相手と友達になるのは至難の業ですよ」

「難しいのは百も承知。でも、その子、放っておけないんだよね……。なんか、このままだと、彼女がどんどん不幸になっていく気がして見ていられないんだ」

「……村坂君、優しすぎて気持ち悪いですね」

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