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親愛なる隣人

「プルウィウス流剣術ですか。なかなかカッコいい名前の剣術を使いますね。絶賛、鬼を倒すアニメにドはまりしている私が言うのもなんですがー、高校生だとちょっと痛々しいです」


 ヒトシが後方を振り返る。気配が一切感じ取れなかった。誰かが後ろに立てばすぐに気づく癖がのこっているヒトシは目を疑う。目の前の美少女は自分よりも強いのかもしれないと。


「ハーロオー。さっきは私に会いに来てくれてありがとう、すっごく嬉しかった!」


 美少女は両手を広げながら満面の笑みを浮かべる。喋り方や、手の動かし方が世界に通用する日本のアイドル、キラキラ・キララにそっくり。顔は違うがアイドルと見間違得られても不思議じゃない。


「えっと、こんにちは。元気だね……」

「そう、私の長所は元気なところ! 短所は元気過ぎるところ! オケーイ!」


 ――やばい、この少女、すっごく面倒臭い。と言うか英語訛? 妙に発音が違う気がする。


「初めまして、私の名前は神村優羽(かみむら・ゆう)と言います。気軽にユーウちゃーん! と呼んでくださいね!」


 ユウは両手を広げ、まるでアイドルの掛け声のように元気いっぱいの声を出した。


「遠慮しておくよ……」


 ヒトシは目の前にいるユウが自分の知っているウィンディと性格が全く違うため、やはり別人なのだと理解する。

 ウィンディが自分の名前を恥ずかしげもなく言わせるわけがない。もっと凛々しくたくましく、カッコいい。彼女の性格とユウは似ても似つかない。


「さ、次はあなたが名乗る番ですよ!」


 ユウから合いの手を貰い、ヒトシは周りに誰もいない状況を確認する。


「ぼ、僕の名前は村坂飛聡! 弱きを助け、悪をくじく! 気軽にヒトシと呼んでくれ!」


 まるでテレビの中にいる仮面を被ったヒーローのような掛け声を上げながら、ユウに名前を伝えた。

 ヒトシはテレビと言う名の映像機器を始めてみた時は驚いた。加えて、テレビの中で悪を倒す正義のヒーローがいると言うのも始めは信じていた。自分も地球であのような存在になれたらと、だが歳を重ねるにつれ、あれは特撮と言う名の娯楽だと知る。気づいたのは中学生になったころ。周りにバカにされたが、妙に役作りが上手いので浮かなかった。


「ふっ……、やはり、男の子ですね。動きの切れが他の者と違います。ヒトシ先輩、あなた見込みがあります! ぜひ、演劇部に私と一緒に入ってください!」

「断る、僕は今から人々を救いに行かなければならない。部活にかまけている暇はないんだ。さらばっ!」


 ヒトシはユウの寸劇に合わせ、それっぽい発言を放った後、ユウの隣を通り廊下を駆け足で歩いた。


「は、恥ずかしい……。ユウさん、まだ中二病が抜けてないんじゃなかろうか」


 ヒトシは自分の発言を脳内で思い出しながら、羞恥心にかられ、階段を五段飛ばしで駆け降りる。生徒玄関にやって来て、うち履きと外靴を履き替え、外に出た。

 他の生徒達は部活や部活動見学に勤しむ中、ヒトシは実家に真っ直ぐ帰宅する、わけではない。先ほどユウに言い放った発言は嘘ではないのだ。


 街中を走り周り、警察のように巡回警備している。安全な国と言えど、犯罪は絶えず起こっており多くの者を困らせていた。魔王と言う存在はいないが、子悪党は多い。そういう奴らをバッタバッタと倒す妄想にかまけ、落ちているゴミを拾ったり困っている人を助けたりする。


「きゃあっ! あ、あんなところに、赤ちゃんが!」


 通行人がマンションのベランダからぶら下がっている赤子を見つけた。落ちたら完全に死ぬ高さ。赤子は必死にぶら下がっているが、もう一分も持ちそうにない。


「ふっ!」


 ヒトシはそれを見るや否や、猿のような身のこなしで一階のベランダから五階のベランダまで移動し、赤子を救出。

 周りの人々は口を開け、携帯電話を片手に持ち、見上げている者ばかり。


「まったく、高い所で遊んだら危ないよ」


 ヒトシは五階のベランダに出て来た親を見る。赤子を差し出し、階段飛ばしのようにベランダの縁を踏みながら落下の衝撃を逃がし、後方回転宙返りしながら着地。

 新体操の体験にいった時、先生のデモンストレーションを一度見ただけで出来てしまうくらいに身体能力が高い。

 周りが騒ぐ中、ヒトシはすぐに走り出し、車に轢かれそうな猫を掬い上げ、歩道に滑り込む。

 親愛なる隣人の如く活躍だが、マッドサイエンティストや宇宙人のような化け物を倒すわけではない。ただたんに、人助けが好きなだけ。超絶なお人よしである。


「まったく、道路に出たら駄目じゃないか」


 野良猫を解放し、軽く懐かれた後、コンビニでツナ缶を飼って食べさせる。いたって平和。平和すぎて、あくびが出そうになるくらい。だが、この生活がヒトシは嫌いじゃなかった。


「さて、そろそろ帰ろうかな」


 ヒトシは通学鞄を背負い、百メートル八秒台の速度で走りながら、四二キロメートル離れた実家に電車を使わずに向かう。

 荒い息一つ立てず、広すぎず狭すぎない一戸建てに到着。治安の良い土地で犯罪率は少ない。車も一台所有している。両親は共働きで、午後五時現在も帰って来ていない。


「ただいま」

「あ、お兄ちゃん、お帰りなさいっ!」


 四つ下の妹、翔和(トワ)がお盆を持った状態で二階にあがろうとしていた。お客さんがいるらしい。今日、中学生になって、もう友達が出来たと思われる。


「お兄ちゃん、二階にあがってこないでよ。友達がお兄ちゃんに恋しちゃったら、私、もう友達って言えなくなっちゃう」


 トワは長い髪をツインテールにしており、小学生感がまだ抜けていない。まあ、少し前まで小学生だったのだから仕方ない。きっと、すぐに反抗期が始まって『お兄ちゃん嫌い!』と言ってくるはずだ。『お風呂ももう一緒に入りたくない!』。『 お兄ちゃんのパンツと一緒に洗わないで!』と……叫ばれる毎日がやってくる。

 マキオの妹がそうらしい。可哀そうな奴だ。でも、自分も今から心の準備をしておく必要があると理解し、腹はくくっている。


「二階に行かないよ。夕食の準備があるからね」

「今日のご飯は何?」

「今日はカレーライス」

「やったっ~! お兄ちゃん、大好きっ! お兄ちゃんの愛、いっぱい注いでおいてね!」

「はいはい、わかったよ。ちゃんと足下を見ながら上がらないと危ないよ」


 トワは「大丈夫、大丈夫~!」と言いながら二階に上がっていった。浮足立っており、少々危ない。そう思っていたら案の定、滑り止めが無いツルツルとした階段で滑った。

 彼女はおっちょこちょいで結構ドジだ。子供のころから怪我を負いそうな出来事ばかり。その都度、ヒトシが助けに入り、事なきを得ている。自分がいなかったら、トワはとっくに大型トラックに引かれて死んでいるだろう。なんなら、今すぐ頭から床に落ちて死にそうだ。

 ヒトシは一瞬のうちに階段の下に入り、トワを抱きかかえ、お盆を片手にしっかりと持つ。


「危ないって言ったのに。ドジっ子さんなんだから、もっと気を付けないと駄目でしょ」

「お、お兄ちゃん……。しゅ、しゅきぃ……」


 トワは僕の首に抱き着いて頬にキツツキの如くキスしてくる。中学生にもなって、ベタベタしすぎな気もするが、まんざらでもないヒトシだった。

 いつか、トワを守れるくらい強い男が現れるのを願っている。それまでは兄である自分が命を懸けて守ろうとトワが生れた時から決めていた。

 きょうだいと言う存在を始めて経験し、前世で頻繁に見た、兄や姉が身を盾にしてまで弟や妹を守ろうとしたのか、理由が今になってよくわかる。


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