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異世界の村人、日本に転生。でも、なにすればいいの?  作者: コヨコヨ


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練習

「えっと、部費って……」

「前年度から二割減! あははっ!」


 モモカは指を二本立て、泣きそうな瞳のまま笑っていた。情緒不安定に見えるが、いたって健康な精神状態だ。


「少ない部費を賄うために、部員の方達から支援をいただきたいのですが……」


 モモカは指先を突き、資金確保に動く。ユウは財布から一万円を取り出し、堂々と差し出した。さすがに多すぎると思ったが、四、五、六、七、八月の部費を一気に纏めて払ったという。月二千円の計算だ。部費を一括払いする生徒も珍しい。

 三年生三人とモモカは二千円を出す。一万八千円。ヒトシに視線が向けられる。どうやら自腹を切る必要があるのは財布らしい。


 ヒトシはアルバイトしておらず、両親からのお小遣いを月一万円受け取っている。マキオにいうと富豪じゃんとからかわれるが、いたって普通の家系だ。というのも、平日の家事はヒトシがほとんどこなしているため、両親の粋な計らいだった。

 お金を貰っても使う場所がほとんどなかったので、貯金はあるほう。幼少期から変わらないマジックテープが付いた折り畳み財布から二千円を引き抜き、モモカの手の上に乗せる。

 巫女装束が似合いそうな清楚系のモモカはヒトシからお金を受け取り軽く頭を下げる。

 合計二万円の部費が集まった。学校から貰える部費と合わせて、衣装や小物などの道具作りに利用されるという。

 三年生の先輩たちは裏方ばかりしてきたというので、裏方の仕事をお願いする流れになった。一度くらい表舞台に立たなくていいんですかと、ユウの鶴の一声。口をもごもごさせる三年生の男子二名と女子一名。

 裏方は必要だが、慣れれば誰でもできる仕事。演劇部に入ったのなら、一度くらい表舞台に立ちたいと思うのが普通だろう。三年生は良くも悪くも物腰が柔らかい方達だった。ユウの発言に感化されたのか、自分たちも脇役でいいから参加してみたいという。


「わかりました。裏方に支障が出ないくらいに表舞台に出してあげます」


 脚本を書き、何なら監督までこなすというユウのやる気は鯉が滝を上るようだった。

 演劇部たちの話合いを座りながら聞いていたヒトシはこの後、どうなるのだろうかという不安とちょっとした期待を胸に、マオの動物の刺繍が入った下着をふと思い出していた。

 彼女の裁縫スキルがあったら衣装や小物も上手く作れそうな気がする……。そんな考えが浮かぶも、あの自分勝手な魔王様が手を貸してくれると到底思えなかった。


「じゃあ、四月中に脚本を書くので、その間、各自、演技の練習に努めてください。月水金曜日は部室で練習。火木曜日は体育館のステージで本番さながらに練習しましょう。肺活量を鍛えるために出来るだけ毎日走り込みしてくださいね」


 ユウは具体的に演劇部の練習を決めていた。ダンス、歌、漫才……。そんなところに演劇の練習になる要素があるのかと疑問に思ったが、手伝うと決めた以上、手は抜かない。


「ワンツー、ワンツー、ワンツー、ワンツー」


 ユウの完璧な踊り(アイドルソング用)の振り付けを見ながら、僕たちも体を動かす。演劇は声だけではなく、身振り手振りで表現しなければいけないらしい。そうなると、ダンスが練習に手っ取り早いんだとか……。

 ユウの踊りはトップアイドル、キラキラ・キララそのもので、三年生男子二名は大変興奮している様子。

 ユウの容姿がお世辞抜きで芸能界に通用するため、踊っているだけで花がある。ときおり、ヒトシの方を向きながらスカートの裾を持ち、ひらりとめくる仕草を見せてくる。太ももが八分目まで見え、お尻の輪郭がわかりそうな位置でギリギリ見えない。なんていうあざとさ……。いったい誰が男の心を弄ぶような悪い子に育てたんだろうか。


 一時間、みっちりダンスの練習に当てられた。明日の昼休み、ステージの上で一通り踊らされるそうだ。しっかりと覚えてこいとのこと。ユウがいきなり鬼監督に見えた。


 ヒトシは運動神経がなまじいいので、振り付けを覚えられれば問題なく踊れる。ただ、


「ワンツー、ワンツー、ワンツー、ワン、ツゥー」


 モモカは運動音痴なのか、少しずつタイミングがズレていく。動きもぎこちなく、明日までに覚えられても、踊れるようになるために相応の努力が要りそうだ。

 三年生の恥ずかしさにかられた小さな動きもユウに指摘され、ビシバシ直されている。


「うぅ、運動が苦手だから演劇部に入ったのに……」


 モモカは上手く動かない自分の体に腹を立てているのか、不細工なダンスを披露している。まあ、モモカそのものが可愛らしいので、逆に味があると言ってもいい。

 それぞれの運動センスを見られた後、校歌を歌わされ、二人で即興漫才させられるなど、本当に地獄のような時間が過ぎた。


 ヒトシはモモカと組み、漫才を披露する羽目になった。合いの手や阿吽の呼吸はそこはかとなく上手くいったが、ユウ曰く絶望的に面白くなかったらしい。ユウだって、時おりボケが滑るのだから、これくらい許してくれと心の中で叫んだヒトシだった。

 モモカは漫才中に一人ツボに入ってしまったらしく、漫才師らしからぬ漫才中の大笑いを曝したのもユウが面白くないといった原因の一つだろう。

 精神にくる演劇部の部活が終わった。外はそこはかとなく暗い。冬に比べれば日も長くなってきた。まだ、高校二年生になって四日しか経っていないのかと思うと七日間で一週間は長いなと思う。

 前の世界は働きたい時に働いて、休みたい時に休んでというのが普通。一五歳で成人だったし、働かないと生活できないのは子供と大人も同じ。日本のように大学まで学習機関に行けたのは貴族の中でも限られた者だけだ。

 仕事だけしていればいいという訳ではない。敵が攻めてきたら戦わないといけない。田舎だと警察に似た武装組織の騎士達はいなかったので、村人たちが武器を持って戦っていた。沢山の血が流れ、昨日話していた相手が二度と会えなくなったり、ざらに起こった。それでも、多くの者たちは生きていくために働く。手に入れたお金を使って多くの者が酒や女、賭博、薬物につぎ込んでいたと思う。


「四日間、何不自由なく生き残っている……。前世の世界なら奇跡だな」


 当時は学がなかったので、世界は丸いとか、星が恒星の光を反射させた別の天体とか、一切知らなかった。お酒の原材料、薬物の効果、女性の魅力、何も知らなかった。

 ずっと疑問に思っていた赤子はどこからやってくるのかと言う疑問も、小学生の時に当たり前のように解消された。

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