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異世界の村人、日本に転生。でも、なにすればいいの?  作者: コヨコヨ


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今日の色

「あ、あの男が作った料理なんて食えるか。何を食わされるかわかったもんじゃない」


 マオはユウの肩に手を置き、入口から勢いよくどかす。だが、


「お願いします、マオ先輩。私、マオ先輩を一目見た時から、大好きなんです。友達になっていっしょに演劇したくてたまらないんです~」


 ユウはマオに軽く抱き着き、上目遣いを向けた。男子生徒に投げかければ効果抜群だろうが、女子生徒相手にも効くのかと、ヒトシは疑問に思う。

 マオは汚物でも見るかのような視線をユウに向け、突っぱねた。そのまま教室から出ていく。ユウの強引な作戦は失敗に終わったらしい。


「はぁ~、マオ先輩、料理と言う言葉には興味を示していましたけど、ヒトシ先輩の名前が挙がった瞬間に気分がガタ落ちしました。ヒトシ先輩、マオ先輩に何したんですか?」


 ユウは腕を組みながらあの短時間の間に、マオの思考を軽く読み取っていたらしい。瞳の動きや体の硬直具合、足の剥き、声の抑揚なんかにも人の思考が乗るのだとか……。

 ヒトシは追い詰められた犯罪者のような雰囲気を放ちながらユウのもとに近づいて行き、耳打ちする。マオの下着をがっつり見てしまったと。


「はは~ん、そりゃ、最悪ですねー」


 ユウは目を細め、棒読み口調になっていた。ヒトシの姿を見下すような視線を向け、少々距離を取っている。ヒトシも見たくて見たわけではないと説明するが、マオへの伝え方に色々難があったと指摘される始末。


「ちょっと立ってくださいとか、そっちに消しゴム落としちゃってー、とか言ってかがませてスカートを直してあげればよかったんですよ。それを『スカートが背もたれに引っかかって下着が見えてる』なんて、ドストレートに言っちゃうとか、ほんとヒトシ先輩は昔っから女心がわかってないですよねー」

「昔からって、出会って四日しか経ってないけどね……」

「四日前も昔ですよー。ほんと、そんなんじゃ、マオ先輩と友達になるなんて、夢のまた夢ですね。ちょっとは反省してください。にしても、せっかく私の完璧なフォローも空振りに終わっちゃったじゃないですか」

「うぅ、すみません……」


 ユウに叱られていると、母親に叱られている時を思い出す。抵抗できない感覚が似ていた。


「でも、マオ先輩の行動パターンを知る手立ては打ちましたから、外堀から埋めていきましょうかー。ふふふっ、マオ先輩、私からは逃げられませんよー」


 ユウは最新式の携帯電話を取り出し、悪い笑顔を浮かべていた。ほんと、天使と悪魔の仮面を被った女の子だ……。


「あ、そうそう。女の子の下着に興味がありそうなヒトシ先輩に聞きます。はてさて、今日、私が履いている下着は何でしょうか?」


 ユウはスカートの裾を持ち、ヒトシの方に少しずつめくっていく。


「さ、さぁ……」

「もう、聞いているんだから答えてくださいよ。はぁー、残念です。ヒトシ先輩になら見られても良いようにスカートの角度を調節しているんで」


 ユウは踵を返し、スカートを下ろしてスタスタと歩く。その際、誰かが窓を開けたのか、四月の暖かい春風が少し勢いよく吹いた。ユウのスカートがふわりと浮かび、サラサラの白みが強い肌色が垣間見える。

 ヒトシは度肝抜かれた。あり得ない。そんな女子生徒がいていいわけがない。ノーパン。


 周りはユウの方を向いておらず、たまたまヒトシだけがユウのスカートが神風によって巻き上がったのを見てしまった。出家して誠心誠意謝るか、腹を切って謝罪するか。


「……ふふっ、ノーパンって思いましたか? 残念、肌色の下着でした。もー、ヒトシ先輩のエッチ~、私でもさすがに下着は穿きますよ」


 まるでこうなることを事前に予想していたかのようにユウは振り返り、恐怖に苛まれているヒトシの顔を見ながら微笑んでいる。

 丁度よく吹く神風、丁度よく誰も見ておらず、丁度よく捲れ上がったスカート。何もかも偶然だと思うが……、それだけ偶然が重なると恐ろしさが増す。世界が彼女の臨んだ通りにでもなるというのか。いや、そんな訳がない。


「ヒトシ先輩、部室で待ってますね~。ん~ちゅ」


 ユウの投げキッスが放たれると、ヒトシの額辺りでハートが弾け、ピンク色の世界が広がる。だが、ヒトシに効果なし。大きなため息と共にピンク色の世界をかき消して元の綺麗な七色の世界に戻ってくる。

 すでにユウはおらず、部屋は部活に向かう者と彼氏彼女でデートに行く者、そのまま家に帰宅する者、教室で勉学に励む者に分かれた。その中で唯一、演劇部の手助けに行く者のヒトシは強引な後輩に手を焼いていた。


 ☆☆☆☆


「えー、三年生の先輩とユウちゃん、私の四人で会議を進めた結果、七月ごろにボランティアとして幼稚園で演劇を発表することが決定いたしました! その出来映えを考慮し、八月九月ごろに行われる全国高等学校演劇大会の県大会に出場するかどうか決めます!」


 モモカは三年生の代わりに超絶張りきった様子でヒトシにまとまった話を伝える。その流れからすると、ヒトシに拒否権がないように聞こえた。ヒトシは手助けだけだと言おうとして立ち上がったが、ユウとモモカに肩を押され、まあまあと呟きながら座らせられる。


「裏方に映像や音響、照明、メイク係とかいろいろな仕事があるんですよー。演技も最低五人は欲しいですし、人数が全然足りないんです。お願いです、村坂君。私を助けると思って手を貸してください」


 モモカはお腹が減って縋りついてくる犬のようなつぶらな瞳を浮かべ、ヒトシにお願いした。お願いに弱いヒトシは息を大きく吐き、両手を上げて了承する。


「これで六人。あと一人欲しいところだけど、ユウちゃんが言うにはまだ無理みたいだからその人抜きで演劇の準備を始めよう!」


 モモカは真面な演劇が出来るからか、右手を振り上げて長い髪が跳ねるほどその場で足踏みしている。


「演劇って何が必要なの?」

「脚本とか、音声機材とか、照明器具とか、衣装も大切だね。音声機材と照明器具はある。脚本はユウちゃんが書いてくれるって言うし、小物と衣装の制作に取り掛かるべきかな」


 モモカは流暢に喋り、シャープペンシルを持って必要な品を紙に描き加えていく。

 結構な材料費が必要だった。小道具や衣装なんて、自分たちが欲しい丁度いい品が売っていると限らない。そうなると作る以外にないわけだ……。

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