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異世界の村人、日本に転生。でも、なにすればいいの?  作者: コヨコヨ


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効果抜群

 ユウはヒトシの発言を聞き、目を丸くしていたが自然に口角が持ち上がっていく。

屈託のない笑顔で、その顔だけ切り抜けば感情で生きている幼稚園児や保育園児のようだった。

 まさか、高校生になってまでくすみのない純度百パーセントの笑顔を同年代の女子から見られるとは一切思っていなかった。

 この笑顔を見ると、やはり前世の幼馴染ウィンディを思い出す。死に間際、勇者は泣いていた。屈託のない笑顔がとても綺麗だったのだが、最後に見たのは泣きじゃくる顏だった。

 その後、ウィンディがどうなったのか知らないが、ヒトシの死後、屈託のない笑顔は浮かべられなくなってしまったのだろうなと思う。

 煌びやかだった勇者の心に影を落としてしまった。謝ろうにも謝れない。

 目の前に見える守りたくなるような笑みを浮かべた少女はどれだけ長い間、屈託のない笑顔を浮かべ続けるのだろうか。きっと、いつの日かぱっと見られなくなるんだろうなと察し、彼女の笑みを脳裏に焼き付けておくとする。ウィンディと似ているから、はたまた、ユウの存在がそうさせるのか。


「どうですか、どうですか。トップアイドルのキラキラ・キララが言うには、女の満面の笑みは男にとって効果抜群なんだそうです! もう、イチコロなんだそうですよ!」


 ユウは先ほどと変わらない笑みのまま、ヒトシに熱く語っていた。どうやら、ヒトシが見た屈託のない笑顔は作り笑顔だったようだ。笑顔を作る才能まで持ち合わせているらしい。


「ははっ、そういうことは言わない方が、ぐっとくると思うよ。ユウさんみたいに凄く可愛ければ特にね」


 ヒトシはユウの力説に笑いがこみ上げてしまった。くすみがない微笑みのままユウの瞳を真っ直ぐ見つめる。


「そ、そういうところ、や、やっぱりずるい……」


 ユウはヒトシから視線を反らし、琥珀色の瞳を右往左往させながらブラウン色の髪を耳に掛ける。全て平らげた重箱を持って猛ダッシュで二年八組教室を出て行った。


「ちょ、ユウちゃん、まだ、話し合いが終わっていないんだけど!」


 モモカはヒトシに弁当箱を返し、頭を下げて教室を後にした。そのまま、ユウを追う。


「はぁ……、モモカちゃん、可愛かったな~」


 マキオは鼻の下を猿のように伸ばしていた。はたから見たら、だらしない顔というのだろうが、当の本人は気にしている素振りが一切ない。


「マキオのタイプって、清楚系だったんだ。もっと、小さな幼稚園児とか保育園児かと思ってたよ」

「おい、俺はロリコンじゃねえよ! どっちかって言ったら年上の方が好みだっつーの!」


 ヒトシがちょっと冗談を言ったらマキオは本気になって好きなAV女優やアイドルの話をオタク口調でペラペラしゃべり続ける。

 ヒトシはマキオの発言を聞き流しながら、マオがどこで何しているのか気になっていた。昼休みになるといつも教室からいなくなってどこかに行ってしまう。同じクラスになって四日目だが、毎日何か用事があるのだろうか。聞いても教えてくれないので、勝手に想像するしかない。

 ただ、マオはユウと同じく出会って四日目。きっと初めはこのくらい何もわからないのが普通だ。時間をかけてじっくり仲良くなっていけばいい。ユウは特殊だったんだ。


 ヒトシは軽く頷きながら納得した。マオと会話出来れば仲も深まると思うのだが、股間を何度も蹴られるほど嫌われているため、真面な会話は難しい。どうにかして意思疎通をはかりたい。自分の考えは空回りすると今日の昼にわかったばかりなのに、またとめどなくマオと仲良くなる方法を考えている。


 昼休みが終わるころ、マオが教室に戻って来た。ワイワイガヤガヤしていた教室が静まり返る。マオの存在自体が停止ボタンのようで、いら立たせないように配慮している。

 だが、クラスメイトたちの配慮など気に留めず、ヒトシは椅子に座ったマオの背後から紙パックのイチゴミルクを差し出した。

 マオは差し出されたイチゴパックを一瞥し、すぐに手に取ってストローを指し込みチュウチュウと飲み始める。喉が渇いていたのか、全て一気に飲み干してしまった。

 紙パックの中にストローを突っ込まずに引っこ抜いた。紙パックを潰し、燃えるゴミと燃えないゴミを分けてゴミ箱に捨てに行く。

 肌が褐色なので平成のギャルに見えなくもないが服装はいたって真面目。ただ、胸が大きいからか、はたまた制服の大きさがあっていないのか、第一第二ボタンを開けて気道を確保している。


「金は払わないぞ。渡してきたお前が悪い」


 ゴミを捨てに行った帰り、マオはヒトシに青い瞳を向けて威圧感たっぷりな一言を吐き捨てる。教室の者たちの背筋が凍るほどの低くドスの利いた声。強者感にあふれていた。まるでゲームやアニメに出てくるラスボスのような威圧感のある声。

 だが、裏を返せば美声とも取れた。背筋がぞくぞくするようなマオの声を聴き、ユウが言っていた見込みがあるという点に合致する。

 確かに、マオが演劇したら威圧感たっぷりないい適役を演じられるだろう。だが、彼女が演劇する未来が想像できない。


 イライラしたのか、イチゴミルクを飲んでご機嫌なのかわからないが、マオは椅子が壊れるんじゃないかと思うほど勢いよく座り込んだ。ただ、そのさなか、スカートが椅子の背もたれに引っかかってしまう。


 ヒトシの視界にマオの大きなお尻と……、無地の大き目なショーツに手縫いなのか、可愛らしい動物の刺繍がいくつも入っている。雰囲気と下着のギャップに吹っ飛ばされそうになりながら、ヒトシは考えた。今、多くの者が椅子に座り食事後の血糖値上昇による眠気に襲われている。そのおかげか、マオの下着が丸見えになっている状況に後ろの席のヒトシだけが気づいていた。

 戻そうにも、スカートが背もたれに引っかかっているのに加え、マオはやけに姿勢よく座っている。大きなお尻を包むショーツに刺繍された動物達がメルカトル図法によって描かれている世界地図のロシアのように普通よりも拡大されて見える。

 ヒトシは性的興奮よりも、マオが辱めを受けるかもしれないという心配の方が大きかった。もちろん、大きなお尻に興奮しないわけではない。見なかったふりも出来る。でも、知らんぷりしている間にクラスメイトの誰かが携帯電話を取り出してマオの下着の写真を撮ろうとし始めたら大事だ。

 そうなったら、インターネットが蔓延る地球でマオの下着丸出し写真が流通する羽目に……。考えれば考えるほど、ヒトシの気持ちは固まる。

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