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異世界の村人、日本に転生。でも、なにすればいいの?  作者: コヨコヨ


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店長

 携帯電話で警察に連絡を終えていたヒトシは足音も立てず中央の棚の間を歩いていた。目の前に映るはマオに出刃包丁を突きつけている黒服の存在。出刃包丁以外にどのような武器を持っているのか確認できないが、左手をポケットの中にずっと入れているのが気になる。

 マオからヒトシの存在は丸見えだった。ヒトシが人差し指を唇に持って行く仕草を見せる。


 ヒトシがコンビニに来てから三日連続で犯罪者と出くわしている時点で、マオにとってヒトシは疫病神でしかない。だが、その都度助けられている手前、救世主とも考えられたがヒトシにそのような感情をいだくことすら不快に思ったマオは考えを改めない。


「店長を呼んで来い……」


 強盗犯が言う通り、マオは店長が眠っている部屋にゆっくりと向かう。

 その瞬間、後方にいたヒトシは持っていた汗まみれで重くなっている柔道着をハンマー投げの要領で勢いをつけ、強盗犯の側頭部目掛けて振り抜いた。レジと陳列棚の間に距離があったため出来た荒業で、背後から裸締めする方法も考えられたが他の武器を持っていた場合、至近距離で攻撃を受ける可能性が高まるため、安全を考慮し素早く鎮圧できる可能性の高い方法を選んだ。

 案の定、勢いのついた重い柔道着は強盗犯の側頭部に直撃し、脳に衝撃が伝わったはずだ。プロボクサーでも側頭部を殴られるとKOされてしまう場合が多い。

 グローブを嵌めた人の拳以上の威力が側頭部に直撃した。そのため強盗犯は真横に倒れる。意識はあるようだが脳が震え、立てない様子だった。


 ヒトシはその間に黒帯で強盗犯の手を縛り上げる。左手に握られていたのは成人男性と少年が写っている写真だった。寿司職人のような風貌で、とても清潔感溢れる男性だ。写真は握りしめられ過ぎてグシャグシャになっている。汗が手首まで滲み、滑りそうだったが黒帯も湿っていたため、滑りにくくなっている。

 黒服の男がなぜ犯行に及んだのか知る必要はない。犯罪者を捕まえられたという事実さえあればいい。これで、日本や東京、街、地区がほんの少しだけ平和になった。


 酒焼け声の男を捕まえた頃、コンビニの店長がマオに連れられてレジにやってくる。三〇代後半の男性で、苦労しているのか顔の皴や白髪が多い。

 三日連続で警察のお世話になるコンビニ店長も滅多にいないだろう。運が悪いとしかいいようがない。それは、ヒトシやマオにもいえたことだった。

 警察がやって来て事情聴取を受けた頃、すでに午後一〇時を回っていた。


「店長、じゃあ、上がらせてもらいます」

「あ、ああ。ご苦労様。いやぁ、出刃包丁を突き出されて悲鳴一つ上げないなんて、牧田ちゃんはほんと、肝が据わっているな……」


 警察から話を聞いただけで身を震わせているコンビニの店長の傍ら、ジャージ姿のマオが無表情のまま立っている。

 店長は売り残っていたあんまん、肉まん、焼き鳥、から揚げなどの廃棄する品を専用の紙袋に包み、大きめのポリ袋に入れて差し出していた。

 今はどこでもアルバイト不足の時代。三日連続で犯罪が起こった場所で働き続けたいと思うような女子高生がいるだろうか。そう考えたであろうコンビニの店長は少しでも残ってもらおうと必死なように見えた。


 大量の惣菜を受け取ったマオは今までの無表情が嘘かのように明るくなる。まるで、お小遣いをもらった子供、お菓子を受け取った犬の如く嬉しさが顔に現れている。尻尾が生えていたらブンブン振られているところだろう。


 マオはヒトシがじっと見ていると察し、表情を真顔に戻していた。だが内心飛び跳ねたい気持ちで一杯なのか、膨らんでいる胸がより一層大きくなったように見える。


 ジャージ姿にスクールバックと言う昭和の女番長? かと思うような服装のマオはポリ袋を赤子のように大切に抱え、コンビニから素早く出た。

 その後を追おうとしたヒトシだったが、肩に大人の男性の手が置かれる。

 そこにいたのは三日間お世話になった警察官の男性だ。少々タバコ臭い。営業スマイルが完全に崩れ、表情を引きつらせながらも黒帯を持っている。


「ヒトシ君、さすがに出刃包丁を持った男に攻撃を加えるのは危険すぎるから、今後しないように。まぁ、君なら相手が拳銃を持っていようが鎮圧しそうな雰囲気があるけど」


 警察官はヒトシに軽く説教した後、左胸付近についているトランシーバーを手に取り連絡を受け取っていた。

 大都会東京、日本と言えど、夜間は犯罪が横行するらしい。今は確保した男を警察署に連れて行かなければならない的な、けだるそうな発言の後、連絡を切っている。

 夜間勤務の警察も大変だなと思う反面、それだけ多くの犯罪が起こっているという現状を知る。

 ヒトシが警察官にお気をつけてと声をかける。警察官曰く、酔っ払いや交通事故の対処が多いとぼやいていた。今回の件の方がよっぽど異例らしい。再度、釘を刺されたヒトシだった。


 コンビニを出た後、マオの姿を探したがすでに近くにいなかった。少しでも会話の機会が作れると思ったのだが……。


「君も運がないね。三日連続で犯罪に出くわすなんて。でも、君のおかげか、コンビニの被害はほとんどこうむっていない。えっと、こんなことしかできないけど、ありがとう」


 コンビニの店長。胸もとに店長・田中の文字が刻まれた名札が付いている。有名なコンビニチェーンの制服を着こなしている。身長は一七〇センチメートルほど。ヒトシより低い。髪の毛が薄くなり始めており、苦労が絶えないと見て取れる。

 タナカはマオ同様に廃棄する惣菜やスイーツをポリ袋に入れ、ヒトシに差し出した。夜食はほとんど取らないヒトシだったが、冷蔵庫に入れて朝に電子レンジで温めて食べればいいと考え、ありがたく受け取る。


「ほんと、最近の若い子は凄いねー。犯罪者にあっても怖がらないなんて。俺は話を聞いただけで漏らしそうになったよ」


 おそらく、ヒトシとマオが特殊なだけで、普通の高校生は恐怖で動けないのが普通だと思われる。マオと一緒に働いている影響か、タナカの若者への感覚は少々狂いだしていた。


「えっと、店長さん。牧田さんとどのくらいいっしょに働いているんですか?」

「君、牧田ちゃんの知り合い?」


 ヒトシはタナカの質問に頭を縦に振って答えた。

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