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魔王様とドッペルゲンガー

「なぁーヒトシ。今年、超絶可愛い美少女が入学したらしいぜ。一緒に見に行こうや!」


 高校一年の時に同じクラスだった柔道部で丸刈りが特徴的な万亀雄(マキオ)がヒトシの肩を組み、鼻の下を伸ばしながら笑う。まるっきりゴリラ顔だ。


「はは、超絶可愛い美少女ね……」


 ――前の世界の美女って、本当に綺麗だったんだな。特にエルフさん。あの美貌を知っていると、凄い美少女と言われても普通に思えてしまう。どうしたものか。


 ヒトシの感性は転生前と大して変わっておらず、魂に前世の感覚が染みついていた。そのため、こういう話を持ってこられると困ってしまう。

 アイドルや女優と言う職業が日本に存在しており、多くの男女が熱狂している。中でも、キラキラ・キララなるトップアイドルが今、一番熱いらしい。


 前の世界じゃ考えられないほど多くの人が健康的で、殺人事件が起こったらすぐにニュースになる。

 一日で何百人、何千人と言う死を見て来たヒトシからすると鼻で笑いそうになってしまうほど平和な世の中だった。

 日本も昔は他国と戦争していたらしいが最近は平和そのもの。なんなら、平和ボケしているなんて言う者もいる。

 前世に培った剣術や体術は剣道や柔道で使えたが、圧勝しても相手や先生から型が汚いと言われる今日この頃。ヒトシはマキオと共に、一年の教室に移動した。


 すでに美少女が入学してきたと言う噂が広がっているらしく、とある教室の前だけ人だかりができている。廊下の背後は動脈硬化かと思うほど細くなっており、ヒトシたちが入る前に今、完全に詰まった。


「おい、どけよ。今時ギャルは、はやらねえってのに、バカじゃねえの」

「あ? バナナの皮を踏んで死ねばいいのに」


 黒髪が長くほど良い褐色肌が特徴的な女子生徒が、金髪を春風に靡かせ耳にいくつものピアスを付けた男子生徒とはちあっていた。どちらも我が強そうで、道を譲る気がなさそうだ。

 不良っぽい二名の言い合いを聞き、動脈硬化のように詰まっていた廊下はカテーテルでも使ったのかと思うほど通りがよくなり、人だかりがなくなった。


「おい、魔王様と金髪バカがはちあった。さっさと戻ろうぜ。このままじゃ、この場が戦場になっちまう」


 マキオはヒトシの襟首を持ち、グイグイと引っ張るが八○キログラムを超える筋肉質なマキオでもヒトシはびくともしない。逆に前に出るヒトシにずるずると引っ張られ、指がうっ血しそうになったため、手を離した。


「女のくせに調子乗ってんじゃねえぞっ! 俺の親の名前を聞いてビビんなよ!」

「親に頼る小心者の雑魚に何が出来る?」

「なんだと、ごらぁっ!」


 金髪の男子生徒は拳を振り上げ褐色ギャルに殴りかかろうとしていた。

 ヒトシはすぐさま間に割り込み、拳を軽々と受け止める。


「女を殴るのは男としてどうかと思うよ」

「ちっ。こんな魔王みたいなやつを庇うとか、もの好きな奴……」


 金髪の男子生徒はヒトシの拳を振り払い、踵を返して反対方向に歩いて行った。


「えっと、同じクラスだったよね、大丈夫……っ!」


 履いているスカートがミニスカートかと思うほど太ももが見えている長い脚が、ヒトシの股間に入り込んだ。あまりにもクリーンヒットし、さすがのヒトシも膝をつく。


「私の前に立つな。邪魔だ」


 魔王と呼ばれていた褐色ギャルはヒトシの横を何食わぬ顔で歩き、開いている窓から吹いてくる風に黒髪を靡かせていた。

 深すぎる青色の綺麗な瞳が魔王の禍々しさを彷彿とさせる。実際に見た魔王の姿と違うが雰囲気は多少似ている気がしなくもない。


「……いちち。容赦なかったな。確かに魔王の素質があるよ」

「おいおい、あんな一撃をくらって気絶しないお前の体、どうなっているんだ?」


 マキオは立ち上がって跳躍しているヒトシのもとに駆け寄る。


「なに、体を鋭い剣で割かれたり、業火に焼かれたり、するより全然マシだよ」

「ヒトシって時々、やばい発言するよな……。どんな家系だよ。漫画の暗殺一家か?」

「いや、普通の一般家庭だよ。父さんが職人で母さんが公務員、あと超可愛い天使の妹」


 ヒトシは妹と一緒に取った写真を胸もとに入れていた生徒手帳から取り出した。


「シスコン……」

「何とでも言えやい」


 ヒトシとマキオは自分達がなぜ一年の教室の前にいるのか、会話の最中に美しすぎる琥珀色の瞳を持つ美少女に見つめられながら思い出した。


「ハーロオー、お二人共、元気ですか~! はーい! 私は元気です!」

「「…………」」


 ヒトシとマキオは美少女が一人で飛び跳ねている姿を見て、固まっていた。

 美少女の美声を聞きヘンテコな喋り方を理解しているが、この世の美を全て詰め込んだかのような少女を目の前に、意識が低迷している。

 マキオは男の性で完全に猿のような顔になっていたが、ヒトシは違った。


 ――な、ウィンディ……。


 ヒトシの目の前にいる美少女が前世の幼馴染にそっくりだった。あまりにも似ていて茶髪のウェーブした長い髪を短髪に切れば、そっくりそのままウィンディになるくらい似ている。目を疑ったが、身長が低く髪が長いくらいしか違いがなかった。

 だが、この場は日本であり、ウィンディがいるはずがない。いわゆるドッペルゲンガーだ。この世界に自分に似た存在が三人いるらしい。嘘か誠か知らないが、ヒトシは妙に胸が暖かくなる。


「こんにちは。えっと、騒がせてごめん。このエロ猿はすぐに連れて帰るから」

「ウキ、ウキキっ! って、誰がエロ猿だ! せめてゴリラにしろ!」


 マキオはドラミングしながら、うほうほとゴリラの真似をして近くにいる一年生たちを笑わせていた。

 少々騒ぎになりすぎたので、先ほどホームルームが終わり解散になった二の八教室に戻った。入学式兼全校集会が行われた後なので授業はない。


「はぁ、昼から部活だりーな。面倒臭いなー。柔道着臭いなー。ヒトシ部活入りなー」

「ラップ調に言っても入らないよ。人数が足りないって言うなら手を貸すけど」

「なんで、習い事で柔道しているのに部活に入らないだよ。あれか? 憎き剣道部にも入部しろって言われてんのか? あの野郎ども、ヒトシの体幹は柔道部でこそ輝くってのに!」


 マキオはくたびれた柔道着を肩にかけ、教室の掲示板に貼られている剣道部勧誘のチラシを睨みながらヒトシの肩を叩く。


「ま、いつでも来いよ。歓迎するからさ」

「ありがとう、関節技を決めたくなったら行くよ」

「うへぇー、おっかね、おっかねえ」


 マキオは肘関節を押さえながら、教室から走り去っていく。


 ――関節技か。関節砕きじゃないんだよな。


 ヒトシは掲示板に貼られている部活動勧誘のチラシを見る。様々な部活があり、どれもこれも楽しそうな雰囲気を感じる。だが、どれも遊びでしかない。

 相手を殺すために死に物狂いで身に着けた体術や剣術とは全くの別物。


 ヒトシは自分が格闘技はやってはいけないと思っていた。この日本では人を殺すことは悪いことなのだ。血に飢えているわけではないが、無我夢中になった時、相手がどうなるかわからない。内に秘められし力が……と中二病だったころの感覚を思い出し、咳払いする。


「プルウィウス流剣術、シアン流斬! なんちゃって……」


 過去、散々使用した剣術は今でも再現できてしまう。だが、周りから見ればただの中二病だ。

 使い道なんて一切無い。剣道の試合中に手癖で出てた時、相手の体が後方に吹っ飛んだ。周りは足払いでコケて前回り受け身を取っただけだと思っていたのが幸いし、問題にならなかった。

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