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演劇を楽しむ

「ば、婆さん。す、すごい元気な子が桃から出て来たぞ……」

「そ、そうですね、こ、こんな元気な子、どうして桃から……」

「理由はわからないが赤子では一人で生きていけぬ。自立できるまで面倒を見るとするか」

「なら、名前が必要ですね……。桃から生まれたのなら、桃太郎と言うのはどうでしょう」


 お爺さんとお婆さんに育てられた桃太郎はすくすくと成長していき、巷で噂になっている悪い鬼たちを対峙しに行くと両親に伝えた。家宝の日本刀とお婆さんが作った黍団子を持ち、道をひたすら歩いていく。


「ぬあはっはっ! そこの犬! 私の相棒になるがいい!」


 桃太郎は黍団子を犬に差し出し、味方に引き入れた。その後、猿と雉も仲間に加えた。

 自作した船に乗り、鬼ヶ島に向かう。その間、わずか二日。桃太郎、一二歳である。


「人間が作った飯、糞うめえな」

「んだんだ、糞うめえ。ただの焼かれた肉より、やっぱり米だな」


 ヒトシとモモカ演じる赤鬼と青鬼が、村で肉と交換した米を炊き、握り飯を作って食べていた。


「こんにちは! 鬼の諸君! 私の名前は桃太郎、女だ!」

「おお、こんにちは。桃太郎ちゃん。握り飯、食べる?」

「食べるっ!」


 桃太郎は鬼からおにぎりを受け取り、迷いなく頬張った。


「うぐっ……! こ、これは……、な、なんてしょっぱさだ……」


 桃太郎が食べたおにぎりはまるで塩を齧っているかのようなしょっぱさだった。あまりにしょっぱく、水をがぶ飲みする。


「ふふふっ、これはおにぎり獄塩味。人間のおこちゃまが食べていい品ではない」


 青鬼は不吉な笑みを浮かべ、食べ物でダメージをくらった桃太郎にコップに入れた粗茶を差し出す。


「く……、苦味が強いが、鼻から抜ける茶葉の香りの繊細さ……。美味い!」


 桃太郎と赤鬼、青鬼、犬、猿、雉は六名で海が綺麗に見える鬼ヶ島の頂上に到着。その場でピクニックを楽しんだ。

 桃太郎は赤鬼と青鬼から海で取れた金塊を受け取る。代わりに、犬、猿、雉を差し出した。その後、金塊を抱えながら、お爺さんとお婆さんの家に帰り、内緒で金塊を地面に埋めた。


 金塊と交換された犬、猿、雉は赤鬼と青鬼に育てられ、末永く仲良く暮らしました。


「お爺さんとお婆さんが亡くなった後、金塊を掘り起こした桃太郎は大金持ちになり、沢山のイケメンの男と一緒に暮らしました。めでたしめでたし……」


 ユウは金塊に見立てた黄色い紙飾りを掘り起こす演技を見せる。


「どこが?」


 ヒトシは首を傾げながらユウのアドリブ満載な桃太郎に物申す。


「普通の桃太郎じゃ面白くありません。たまにはこういう桃太郎もいいと思いましてね。男癖の悪い桃太郎も中々乙ですよね?」


 ユウの感覚は普通の人と大分かけ離れているらしい。


「ユウさんって案外面食いなのかな?」

「イケメンは好きですよ。不細工が嫌いという訳ではありません。私は総じて心が醜い人が嫌いです。イケメンでも心が醜い人は嫌いですし、不細工でも心が綺麗な人は好きです。ごく一般的な考えだと思いますけど」

「まあ、普通はそうだよね」


 ヒトシがユウの発言に納得していると、モモカや三年生の三名が何とも言えない顔を浮かべていた。


「なんか、楽しかった。全然、桃太郎じゃなかったけど……。それはそれで」


 三年生たちがモモカの発言に大きく頷き、演技する楽しさを知ったような雰囲気を醸し出している。その姿を見て、ユウは微笑んでいた。


「まずは演技を楽しまないと駄目ですよね。演技する楽しさを知ったのなら、大きな成長です! じゃあじゃあ、次は浦島太郎でもやりましょうか!」


 ユウは楽しくなってしまったのか、次から次に演技を続けた。

 織姫様を竜宮城から連れ出してしまう浦島太郎や、タヌキと友達になって悪い人間をだまし大金を荒稼ぎするカチカチ山、竹が伸びすぎて斧が届かない位置まで高く成長してしまったかぐや姫などなど、全てアドリブで演技を繰り返し、ユウの起点の訊いた演技が爆笑を攫っていた。彼女は演技の才能もあれば、コメディアンの才能もあるらしい。

 何をやっても才能の塊で、怖いくらいだった。


 何度も演技している間に、ヒトシやモモカ、三年生の三名は気づく。全てユウの演技に乗っているだけで、自分達は何もかも普通であると。

 演劇部の四名はもう少し演技が上手くなりたいと思うようになり、うだうだやっていた演劇部の活動に本腰を入れている様子だった。


 ユウは一日で、演劇部のやる気を湧き立たせ、さらに成長したくなるよう促していた。作戦が成功したからか、にちゃりと笑うユウの顔は大変悪い。その顔をヒトシに見せ、自分で大笑している。何とも変わった少女だった。


「どうですか、ヒトシ先輩。楽しかったですよね? 演劇部に入れば、これからもっと楽しくなりますし、今なら超絶可愛い後輩の女の子がもれなくついてきますよ」


 ユウは両手を猫のように丸め、耳元に持って行き、ニャンニャンとヒトシを招く。超絶可愛い招き猫の真似……。確かに演劇は楽しかった。それは間違いない。ただ、演劇部のように演劇を頑張ろうという気持ちになれないし、遊びで演技している方が気楽だった。


「ユウさん。今日は楽しかったよ。ありがとう。でも、演劇部に入るつもりはないから」


 ヒトシはユウの頭に手を置き、妹をなだめるような手つきで撫でる。


「むぅ、ヒトシ先輩は全然落ちませんね……。私のニャンニャン攻撃をくらっても無傷なんて、どんな精神しているんですか?」

「うーん。そう言われても、可愛い子は見慣れているから」


 ヒトシは過去の世界の人々を思い出す。当時は普通に綺麗だと思っていたが、今さら相当綺麗な人達ばかりだったのだと理解していた。ユウも確かに超絶美少女だが、地球人の範疇に収まっている。息を飲むほどの美しさを誇っていた森の民と比べると目を血眼にするほどでもない。


「ヒトシ先輩って案外女たらしなんですね……」


 ユウは頬を膨らませ、怒った兎のようにぷんすかぷんすかと飛び跳ねている。

ただ、彼女は何度も可愛いと言われ慣れているはずだ。今更、可愛いと言われて嬉しいのだろうかとヒトシは疑問に思う。そこで、ユウが言っていた発言を思い出した。

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