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第1章「異世界の旋律」

湿った風が、森の奥を駆け抜けていった。

陽はまだ高いはずなのに、頭上を覆う木々が差し込む光を遮り、昼とは思えぬほど静かな空気があたりを包んでいる。


その静寂を破ったのは、ひとつの”音”だった。


—―パリンッ—―


割れたガラスのような音と共に、空間が軋み、森の中心に一人の少年が落ちてきた。

白い光に包まれた彼の体が、地面に叩きつけられる直前——


「…っ! 誰か、倒れてる……!?」


小走りに駆け寄ってきたのは、霜野(しもの) (るい)

腰まで届くほどの黒髪をツインテールに結び、まだあどけなさの残る顔立ちに鋭い瞳が光る。

小さな背中に背負うのは、癒しの旋律を奏でる銀色のフルート。

彼女は今、雪月花が管理する森の一部で訓練中だった。


「ねぇ、大丈夫……? …ひどい怪我…っ」


少年の身体は土と枝に汚れ、衣服は所々破けていた。肌には細かい裂傷が無数に刻まれており、呼吸は浅い。

涙は即座にフルートを構え、そっと唇を当てた。


—―音が、森に溶けていく。


奏でられた旋律は、癒しの波動を帯びて少年の身体をやさしく包み込む。

微細な音の粒子が傷口に触れ、血が止まり、呼吸が整っていく。


「もう大丈夫…安心して、私が助けるから。」


そう告げたそのとき—―。


「おーいっ! 涙ーっ! どこ行ったー!? …ん? おわっ、なにしてんの?」


黒髪くせ毛の少年が木の影から現れた。

6弦のギターを背に背負い、どこかお調子者の雰囲気を纏っている。


「…あらし、ちょうど良かった。手伝って。倒れてる子を見つけて、癒してたの。」


「うぉ、マジ? てか……この子、どこから?」


「分からない。気づいたら空から落ちてきたの。……普通じゃないよね。」


涙の言葉に、あらし—―黒田(くろだ) (らん)は眉をひそめた。

そして、少年の額にかかった髪をかき分け、閉じたままの瞳を見つめた。


「この子…同い年くらい、かな。名前、わかんねぇか。」


「まだ目を覚ましてない。でも、放っておけないよ。」


「……よし、じゃあこのまま”城”に連れてこう。」


「……うん。そうだね。マエストロにも報告しないと。」


嵐と涙は顔を見合わせ、無言でうなずき合った。

彼らが所属する国家組織《雪月花》の本拠地——”城”へと向かって歩き出す。


その途中、少年の指がぴくりと動いた。

まるで、誰かの”音”に反応するように—―。

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