第12章
鏡水家——作戦会議
部屋を満たすのは、沈黙と、張り詰めた冷気だった。
鏡水家の本部、漆黒の石で築かれた作戦会議室。
長机の前に、重厚な椅子が幾つも並ぶ。幹部たちはすでに着席し、一人、少女が立っていた。
「…我が家の”計画”を妨げる異分子が、雪月花に保護されているようですね。」
鏡水初音———鏡水家の第十五代目当主。
艶やかな黒髪を結い、艶やかなオカリナを胸元に揺らす。
その表情は微笑みすら浮かべていたが、放たれる言葉は容赦ない。
「名は—―一ノ宮悠歌。異世界から来たものであり、”共鳴の力”を有する可能性がある。実験施設壊滅後、その名が幾つかの記録に残されてありました。」
「”共鳴の力”…まさか、本当に?」
そう口にしたのは、眼鏡の奥で目を光らせる赤石紅。
隣の椅子で、鏡水真李奈が無邪気な笑顔を浮かべながら、机の端をトントンと指で叩いていた。
「じゃあ、探しに行かなくっちゃねぇ。実験台として、どのくらい耐えれるか…ふふふ、見ものです。」
「止めろ、真李奈。」
鏡水陽良が低く制した。
バイオリンケースを背にしたまま、苛立ちを隠さずに初音へと向き直る。
「”共鳴の力”は確かに価値がある。だが、子供を実験に使うのはもう…。」
「陽良、何か言いましたか?」
初音の一言が一瞬だけ冷え込む。
陽良は黙し、目を逸らした。
そのやり取りを、鏡水柚葵は静かに眺めていた。
ポニーテールの赤髪を揺らし、いつものようににこやかに—―だが、内心は酷く騒がしい。
(あの子まで…巻き込まれるなんて。)
柚葵はわざと話題を掘り下げるように、無垢な調子で問いかけた。
「その、”共鳴の力”って、どんなものなんでしょう?異世界人しか持てないっていうのも…本当なんですか?」
初音は目を細める。
「珍しいですね、柚葵。貴方が自ら口を開くなんて。」
「いえ、ただ…気になってしまって。私たちの未来のためになりますし。」
「ふふ…確かに。」
初音は笑う。
だが、その奥でどこまで察知しているかわからない。
柚葵は会話を続けた。
「その”悠歌”という子は、雪月花の特任奏士と一緒に行動しているのですよね?でしたら奪うのは難しいのでは?」
真李奈が軽く手を挙げる。
「ねぇ、それって…雪月花に内通者でもいない限り、無理じゃない?誰か情報回してくれないかなぁ?」
柚葵は笑顔を崩さないまま、心の奥で一つ、小さく息を吐いた。
(私が…貴方を守る。悠歌)
その日、鏡水家は「悠歌ダッシュ作戦」を極秘裏に進行させることを決定した。
だが—―
その中心にいた一人が、すでに雪月花へ向けて静かに、確かな裏切りの情報を流し始めていた。