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通過儀礼ー自由な鳥の教育方法ー

作者: 中村ギボン

子どもたちの瞳は、まだ曇りを知らない空のようだ。

その空に、どんな言葉を投げかけるかは、大人たちの手に委ねられている。

好奇心という翼を広げ、見えない地平へ飛ぼうとする子どもたち。

だが、時に大人は、その翼を無慈悲に折る。

これは、主人公ユウがどのように翼を奪われるのかを描いた物語である。

桜が丘小学校一年三組の教室。


窓の外には春の陽射しが降りそそぎ、桜の花びらが舞っている。

だが、教室の中は重たい空気が漂っていた。


「答えはこれだ。間違った人はノートに三回書いて覚えなさい。」


教師の声が響くたびに、空を見上げていたユウの首は机に沈んだ。


ユウは知りたかった。

なぜ虹は七色なのか、なぜ雲は空に浮かぶのか。


ユウは毎晩、星の図鑑を読み、虫の観察ノートをつけていた。

なぜアリは列をなすのか、なぜ夕焼けは赤いのか――


「なぜ」と問うことは、彼にとって息をするように自然なことだった。

しかし教師は、「今は算数の時間です。余計なことは考えない」と言った。


休み時間、ユウはナナに話しかけた。

「ねえ、なんで雲は落ちてこないと思う?」

ナナは笑って、「また怒られるよ。先生の言うこと聞かないと」と耳打ちした。


放課後、ユウは職員室で担任の教師の前に立っていた。教師にどうしても聞きたいことがあった。


「先生、どうして教科書の問題の答えは一つだけなんですか?」


教師は冷たく笑った。


「ユウ君、それはね、君たちが大人になる準備をしているからだよ。社会では、自由に飛ぶ鳥より、決まった方向に進む鳥が必要なんだ。」


続けて無機質に言った。


「つまり、それが社会のルールなんだよ。ユウ君はまだ小さいからわからないかもしれないけど、答えが一つってわかってる方がみんな安心する。人間ってそういうものなんだよ。」


安心――

その言葉が、ユウの心に鋭く刺さった。


(安心って、なんだろう。ぼくが知りたいのは、安心じゃない。

知らないことを知ったときの、あの胸がドキドキする感じ。

勉強することはワクワクすることだってお母さんは言っていたのに。

ぼくは何を学んでいるんだろう。学校ってなんだろう。)


次の日から、ユウは質問しなくなった。


図鑑も顕微鏡もアリの隊列も意味をなさなくなった。

その代わり、作り笑顔が得意になった。


20年後、ユウは先生になっていた。

一年一組の教室の子供たちは好奇心で目を輝かせている。


一瞬考えて。

彼は静かに微笑み、こう言った。


「まず、これを覚えましょう。」


窓の外では、春の風が吹いていた。


ウグイスが、うららかな風に乗り気持ちよさそうに飛翔した。


際限のない好奇心という翼は学校教育において邪魔でしかない。好奇心旺盛な子供を管理するのは難しい。他にも管理すべき生徒がいるのだから。教育現場では、規律を守る優等生が好まれる。管理しやすいから。

ユウは翼を奪われ、飛べない鳥となった。あとは規律を教え込めば、ちゃんとした大人の完成である。

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