第八話:「ごめんを伝える配達」
「これ、配達じゃなくて……告白代行じゃん」
神原ユウトはスマホの注文詳細を見て、思わず苦笑した。
【備考欄】
「高校生の息子がいます。
最近うまく話せなくて、本人に言えないことを託します。
“ありがとう”と“ごめん”を、もし伝えられたらお願いします。
受け取ってくれるだけで構いません。」
ウーバーの備考欄には、たまにこういうメッセージが来る。
でも、ここまでストレートなのは珍しい。
(親子の距離って、近いようで一番遠いもんな……)
ユウトはため息をついて、店で弁当を受け取り、配達先へと向かった。
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指定されたのは、郊外の住宅地にある二階建ての一軒家。
インターホンを押すと、出てきたのは、制服姿の高校生だった。
髪は少しぼさっとしていて、目元はどこか眠たげ。
あからさまに、「ダルい」って顔。
「ウーバーです。弁当、こちらっす」
「あ、はい……」
ぶっきらぼうに受け取り、ドアを閉めようとしたその時――
ユウトは、ふと思い出した。
(……いや、伝えるだけでも、価値があるんだよな)
「……あの、ひとつだけ。
おうちの人から、“ありがとう”と“ごめん”って伝えてくれって」
「……え?」
少年は手を止めた。
ユウトは笑って肩をすくめる。
「俺、ただの配達員なんで。
中身に関してはノータッチっすけど……一応、言っときました」
「……」
しばらく沈黙。
少年は袋を見下ろして、ぽつりとつぶやいた。
「……言うなら、直接言えばいいのにな」
「まあ、そうなんだけどさ。
言いたくても言えないとき、あるじゃん。誰でも」
「……知らね」
でもその声は、最初よりずっと小さかった。
「じゃ、また」
ユウトは軽く手をあげて、バイクに戻った。
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配達を終えた帰り道。
信号待ちの間、スマホに通知が入った。
「評価:★★★★★
丁寧な配達ありがとうございました。」
それは、たった一言のレビュー。
だけど、ちゃんと伝わったってことだと思った。
【配達員メモ】
今日のお客様:言えない“ごめん”を誰かに預けた人
自分の代わりに謝ってほしいなんて、
簡単にできることじゃない。
でも、受け取る人がそれを“受け入れる余白”を持ってたら――
それはもう、立派な一歩だと思う。