第四話:「届かないかもしれない謝罪文」
その通知は、気分のいい夜にやってきた。
『1件の配達が「Bad(最低評価)」を受けました。』
神原ユウトは、バイクを降りてスマホを見つめた。
「……え?」
今日は、特に問題のある配達はなかったはずだった。
むしろ、順調で、スムーズな一日だった。
評価欄にコメントはなし。ただ、☆1がぽつんと残っている。
(気にするな。そういう日もある)
頭ではわかっていた。けれど――
「……やっぱ、ちょっと刺さるな」
空を見上げる。星は見えなかった。
⸻
数日後。
ユウトは、ある注文を受け取っていた。
配達先の住所に、どこか見覚えがあった。
画面には、ひとつだけ備考欄にメッセージが添えられていた。
『もし、前に配達してくれた方だったら――
このメモを読んでくれたら嬉しいです。』
ユウトは戸惑った。
「もし、前に配達してくれた方だったら」――
つまり、この人は、再びユウトが配達を担当する可能性にかけて注文をしている。
(……そんな奇跡、普通は起きない)
でも今、その奇跡は起きていた。
⸻
玄関前には、置き配の指示。
ビニール袋の中に、もうひとつの小さな封筒が入っていた。
手紙。
封を開けると、少し震える文字で、こんな文章が綴られていた。
⸻
『前回、あなたにバッド評価をつけたのは私です。
理由もないのに、ただ気分が悪くて――八つ当たりでした。
配達のミスでも何でもなくて、本当にただのわたしのわがまま。
すぐに謝ろうと思ったけれど、ウーバーの仕組みでは
“あなたにもう一度会えるかわからない”ことを知りました。
だから今日、こうしてもう一度、注文をしてみました。
届かないかもしれない謝罪文。
でも、もしかしたら――と思って。
本当に、ごめんなさい。
そして、ありがとう。
あなたの配達、とても丁寧で、あたたかかったです。』
⸻
ユウトは手紙を読み終えて、ゆっくりと呼吸をした。
届かないと思って書かれた“謝罪文”が、
奇跡みたいに、自分の手に届いた。
彼はゆっくりと、玄関先に頭を下げた。
相手には見えないのに、自然とそうしたくなった。
【配達員メモ】
今日のお客様:“届かないかもしれない謝罪”を書いた人
配達員はランダムだ。
それでも、たった一度の再会に願いを込める気持ち――
そんな真っ直ぐな手紙、ちゃんと届いたよ。ありがとう。