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ワンダフルコネクト ~エミルとドラゴンのアドベンチャー~  作者: 稲葉トキオ
第2章 エミル・スターリングと陽緑の旅路

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第93話 ユーリの試練 その5 尋問と宣戦布告

「や……やったね……クリス……」『クー……』


 ミツバとの決闘を制したユーリとクリスは、そのままへなへなと地面にへたりこみました。ドラゴンの生命エネルギーそのものを放つ強力な魔法、《ドラゴンブラスター》をはじめて使った反動です。エミルとおなじ気持ちを味わえたことに、ユーリはちょっぴりうれしくなりました。


「ユーリー!」『クリスー!』


 そこにエミルとシロンが、満面の笑顔でふたりに抱きついてきました。


「うわあっ!?」『クー!』


 ユーリはドキッとあわてふためき、クリスはうれしそうにふたりのハグを受け止めました。


「すごいよユーリ! クリスも、ジェムも、アクアも! 自分たちだけで、刺客をやっつけちゃったじゃない! もうすっかり、一人前のウィザードだね!」


 エミルはまるで自分のことのみたいに、誇らしげにユーリたちを絶賛しました。


「ううん、そんなことないよ。エミルの助言と応援がなかったら、きっと負けてた」


「なに言ってるの。たしかにわたし、いろいろと口を出したけど、それを実際に行動にうつしたのはユーリたちだよ。そういうのもふくめて、これはユーリたちのチカラでつかんだ勝利なんだよ」


 やさしい顔と声でそう言ったエミルは、ユーリを抱く腕の力をぎゅっと強めました。


 ユーリはエミルの体を通じてその想いまで伝わってきたようで、なにも言わずただハグを受け入れました。


『クリスはもっとすごいよー! シロンもおぼえるのにくろうした、ドラゴンブラスターがつかえたんだもん!』『クー!』


 シロンとクリスのほうは、おたがいにっこり笑顔でほおずりしあっていました。シロンも、自分が苦労した魔法をあっさり習得されたくやしさより、クリスの才能がほこらしい気持ちが勝ったようです。


「う……うぅ……」


 エミルたちがよろこびあっていると、ふとそんな弱々しいうめき声が聞こえて、エミルたちはハッとしました。倒れたミツバが、意識をとりもどしたみたいです。


 ユーリとクリスは警戒しますが、エミルが「わたしにまかせて」と提案して、ミツバのほうに歩いていきました。シロンとグレイも、そのあとにつづきます。


「《絶対決闘領域》の契約は、その名のとおりぜったいだよ。あなたはもう、これ以上ユーリとクリスに手出しできない。でもまだ、あなたには聞きたいことがいくつかある」


「そ……その質問にぃ……あたしが素直に答えるとぉ……思ってるのかしらぁ……?」


 ミツバはぐちゃぐちゃになった顔で、悪びれないような表情でエミルを見上げました。


「いったぁ!?」


 そこにエミルは、なにやら動こうとしていたミツバの右手を踏みつけて言いました。


「答えさせるよ。ずっと見てたんなら知ってるでしょ? わたしはワンダーにはやさしいけど、人間にはやさしくしないってことをね」


 そうすごんでくるエミルの冷たい目を見て、ミツバはまたびくっとおびえました。この子は自分から情報をすべて引き出すまで、ほんとうにどんなことでもするだろうという確信を感じたのです。


「あなたの依頼人の名前は、クリスタイドの町の鉱山主のひとり息子、ダストでまちがいないね?」


「そ……そうよぉ……」


 涙目で肯定するミツバを見て、ユーリはわかっていたこととはいえ、ショックを受けているようでした。


 エミルはそんなユーリを横目でちらりと心配するように見ながら、尋問をつづけました。


「ダストはなんのために、クリスを狙うの?」


 ミツバは素直に答えましたが、ダメージで弱っていたことと、エミルにおびえていることで口調がたどたどしくなっていたので、要点だけつまみあげると、こんな感じです。


 ひとつは、ダストはにくたらしい同居人だったユーリが"水晶の儀"で、自分をさしおいてクリスのたまごに選ばれたのが気に入らなかったこと。これはエミルも、ユーリから聞いてすでに知っていることでした。


 もうひとつは、先代の水晶竜……クリスのたまごを生んだ親竜は本来、クリスタイドの創設者にして山の主、つまりダストのご先祖さまのパートナーだったらしく、そのウィザードの末裔である自分こそが水晶竜のあるじにふさわしい、と思っているからなのだそうです。


「そうだったの? ユーリ、クリス?」


 エミルはユーリたちのほうを振り返ってたずねました。


「ご、ごめん、ぼくもそれははじめて知ったよ。家の中での行動は制限されてたし、家の人たちとは会話らしい会話もしたことなかったからね」


『クー……』『クリスもはじめてきいたって!』


「うーん、そっか。でもクリスは親のパートナーの末裔のダストじゃなく、ユーリを選んだ。その理由もナゾのままか。というか、"水晶の儀"自体がナゾなんだよね。なんでわざわざ、毎年ウィザードとして認められる年齢の子どもを集めて、クリスに品さだめさせていたんだろう」


 エミルは深く考えこみました。そしてこうなったら、もう直接ダストと話をするしかないんじゃないか、という結論にいたりました。


『ワンワン!』


 すると、グレイがエミルになにかをうったえるように吠えかけてきました。


「どうしたの? グレイ」


『『そういえばコイツは、なにか板のような機械を持っていたはずだ。それを使って、仲間と通信をおこなっていたのを見たことがある』……だって!』


 シロンの通訳を聞いたエミルは、ピンとひらめきました。それからすぐに、ミツバの体をまさぐって、板状の機械、"タブレット"を発見し、手に取ってみました。


『エミルー、つかいかたわかるの?』


「わかんない。直感的に操作できるみたいだけど……キカイなんてはじめてさわるから、使い方なんてさっぱりだ!」


 エミルはタブレットの画面をぺたぺたさわってみますが、ちんぷんかんぷん、完全にお手上げといった状態で、ミツバに使い方をたずねることにしました。


 ミツバはエミルがおそろしくて、しぶしぶといったようすで、タブレットの操作方法を弱々しい口調でレクチャーし、なんとかエミルはダストへの通信をこころみるところまでいけました。


「じゃあ、ダストにつなぐよ。ユーリ、心の準備はいい?」


 エミルは神妙な顔つきで、ユーリに意思確認しました。


 ユーリはすこしのあいだ、なやましげな顔で考えましたが、覚悟を決めて、勇気を出して言いました。


「……うん、おねがい」


 返事を聞いた瞬間、エミルはうなずいて、タブレットの画面にうつる、通信ボタンをタップしました。


 プルルルル……というなにかがふるえるような音だけがしばらく聞こえたのち、ピッというあかるい音とともに、男の子のもののような声が、タブレットから響いてきました。


『ミツバか! 連絡をよこしたってことは、水晶竜を手に入れたんだな!?』


 その期待に満ちたような声を聞いた瞬間、ユーリはびくっと緊張しました。ずっと自分の心と体をしばりつづけていた、忘れようとしても忘れられない声。


「……期待を裏切るみたいで悪いけど、ちがうよ。わたしの名前はエミル。あなたがクリスタイド鉱山主の息子、ダストだね」


 エミルは通信がほんとうにつながったことに一瞬興奮しましたが、そんな場合じゃないと、すぐにわれにかえって冷静に会話をはじめました。話に聞いていた、ダストのこれまでのユーリに対する仕打ちに腹を立てているので、その声はとても冷たいです。


『エミル……? だれだオマエは!? ミツバはどうした!?』


 想像通りのいばりんぼうな声に、エミルはますますむすっとした顔になりました。


「ミツバはユーリに負けて、わたしの足もとでのびてるよ。あなたの放った刺客は、またみごとに失敗したってわけ」


『なんだって……? ミツバがユーリに負けた? そんなバカなことがあるか! そんなウソなんかに、ボクはだまされないぞ!』


「ウソじゃないよ。証拠を聞かせてあげる」


 エミルはタブレットを倒れたミツバの顔に向けました。エミルの冷たい目が「よけいなことをしゃべったら殺す」とうったえているようで(ほんとうにやったりしません、ミツバが勝手にそう思っているだけです)、ミツバはみっともなくびーびー泣きながら、正直に叫びました。


「本当ですぅ! おぼっちゃまぁ! あたしぃ、ユーリちゃんに負けちゃいましたぁ~!」


『な……なんだとぉっ!?』


 ダストは、タブレットごしからでもわかるくらいに驚愕しているようでした。ミツバのあまりに情けなく必死な口調から、ウソや演技じゃないとすぐにわかったのでしょう。


「もしまだうたがってるなら、いまここにユーリもいるから、直接話してみる?」


 そう言うとエミルは、起き上がっていたユーリに不敵な笑顔で視線を投げかけました。その目は、「一発ぶちかましちゃえ!」と言っているような、強気なものでした。


 ユーリはふぅー、と息をととのえて、目をキリッとさせ、タブレットに向けて声を発しました。


「……ダスト、ぼくだよ、ユーリだ。ひさしぶりだね」


『ユーリ……オマエ、ホントにユーリなのか……?』


「そうだよ。たった一週間で、もう聞き忘れた?」


 ユーリの口調は、強気で堂々としたものでした。ダストはユーリのそんな態度が意外だったのか、しばらくだまったままでしたが、


『ミツバに勝ったっていうのは……ホントなのか?』


「ほんとうだよ。ぼくのパートナーたちが……きみのほしがっている水晶竜、クリスががんばってくれたおかげでね」『クー!』


 クリスの元気な声が聞こえてきて、ダストはますますいまいましい気持ちになったようです。


『……ふざけるなよユーリ! アニキとちがって選ばれなかった、できそこないの弱虫のくせに! 水晶竜はオマエなんかじゃなく、そのあるじの正当な後継者であるボクにこそふさわしいんだ!』


 タブレットから響いてくるどなり声に、ユーリはまたびくっと恐怖がよみがえってきました。見かねたエミルは口をはさもうとしますが……


「……だいじょうぶだよ、エミル」


 ユーリがそんなふうに言ったので、エミルは思わず口をつぐみました。そのときのユーリの顔がなんだかとてもりりしく見えて、エミルはちょっと胸がドキッとしました。


「ダスト、きみがなんと言おうと、クリスに選ばれたのはぼくだ。クリスにふさわしいパートナーになるために、日々がんばってもいるつもりだ。それにくらべてきみはなに? ほしいものはなんでも手に入れないと気がすまないわりに、いつだって人まかせじゃないか。本気でクリスがほしいっていうなら、きみ自身が堂々とうばいに来い!」


 それは、これまでの温厚なユーリからは考えられない、本気の宣戦布告でした。


 エミルはもちろん、シロンもグレイも、クリスもミツバもびっくり仰天です。


『……言ったな……弱虫ユーリのくせに……!』


 ダストは、機械ごしでもブチギレているのがわかるくらいに声がふるえていました。


「それを証明するためにも、ぼくたちだけで決着をつけよう、ダスト。刺客なんかに頼らず、きみ自身のチカラで」


『……どこにいる』


「え?」


『いまオマエは、どこにいるかって聞いてるんだっ!』


「……ファーブリアって町の手前だよ。ぼくらはお祭りに参加するために、しばらく滞在するつもりだから」


『……なら、一週間だ。オマエが旅した期間と同じ一週間後、ボクも直々にファーブリアに行く。そこでボクとオマエの一対一の、水晶竜を賭けた真剣勝負だ! 逃げるなよ!』


「それはこっちのセリフだ。ぼくは逃げも隠れもしないよ」


『ナマイキな……その言葉、忘れるなよ!』


 そのひとことのあと、ピッ、という音とともに、通信はとぎれました。


「はあ~……こわかったぁ……」


 ユーリはすっかり張っていた気が抜けたみたいで、またその場にへなへなとへたりこみました。


「おつかれさま、ユーリ。さっきのタンカ、すっごくかっこよかったよ」


 エミルはしてやったりという満面の笑顔で、ユーリを絶賛しました。


「直接顔を合わせてたら、きっとあそこまで言えなかったよ。機械ごしなら、なんとでも言えるもんだね」


 ユーリは顔を赤くして、苦笑いしながら言いました。


「いまはそれでもじゅうぶんだよ。ユーリ、ほんとうに強くなったね。はじめて会ったときとは、大ちがい」


 やさしくほほえむエミルに、ユーリも同じようにほほえんでこたえました。


「……ありがとう、なにもかも、エミルのおかげだよ」


 エミルは感謝の言葉を素直に飲みこんで、それ以上ユーリに言葉を返しませんでした。その理由のひとつは、ダストが通信中に言っていた、"アニキ"という言葉が気になっていたからです。


 ユーリは亡くなった両親のこと以外、家族のことはいっさい話しませんでした。お兄さんがいるなんて話、聞いてはいませんでした。ですが、ユーリが過去の話を聞かせてくれたあとに、「自分にはまだ言えないヒミツがある」と言っていたことを思い出し、それがもしかして、お兄さんのことだったのかな、と考えたのです。


「それより、ごめんね。ぼくの都合で、ファーブリアに一週間も滞在することになっちゃった」


 ユーリはばつの悪そうな顔でエミルにあやまりました。


「いいよぜんぜん。ふだんはわたしの都合でユーリを振り回してるわけだし」


「そうだったね」


「あ、言ったなー!」


 冗談まじりにほほえむユーリに、エミルは笑顔でつかみかかりました。


 パートナーたちはその光景を、あははっと笑いながらながめていました。

ここまでお読みいただき、ありがとうございました。

次回でついに長かった第二章のエピローグとなります。

おもしろかった、つづきが気になる、と思っていただいたら、

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