第77話 エスメラルダの伝説 その1 キャンプ地とキラキラガール
おひさまがしずみはじめる時刻、エミルたちはウシさんに教えてもらった"エスメラルダ湖"に到着しました。
エスメラルダ湖は、まわりを草原と森にかこまれた円形の大きな湖でした。湖面も夕陽の光を反射してキラキラとゆらめいていて、たしかにウシさんの言うとおり、観光目的だけでおとずれても損はなかったとエミルは思いました。自分たち以外にも、おなじようにウィザードたちが何人か集まっているようですし。
「よし! きょうはここでキャンプにしよう!」
エミルは胸を張って、どーんと宣言しました。
「キャ、キャンプはいいけど……そんなにはりきることかなあ?」『クー?』
ユーリとクリスはノリについていけてないようすで、首をかしげました。
「え? だって、湖といえばキャンプかなって。このおっきな湖を見たら、気もおっきくなっちゃって」
エミルはまたスベったのかなと不安になったのか、ちょっとはずかしそうに言いました。
『エミルってば、さっきのシロンみたいなこといってるー!』
「うるさいなあ!」
などとわいわいさわぎながら、エミルたちはキャンプの準備をはじめました。
いままではベッドロールとお鍋だけの簡素な野宿でしたが、こんなこともあろうかと、アドレスでテントをはじめとしたキャンプ道具一式も買いそろえておいたのです。なにしろソルン村では、こんな道具は取りあつかっていなかったものですから。
準備にはもちろん、パートナーたちも手伝ってくれました。とくに人型になれるシロンとシルヴィアのはたらきはすばらしいもの……とはいきませんでしたが、なかなか役に立ってくれました。シロンは手作業に不慣れで、シルヴィアは世間知らずだったものの、ふたりとも物おぼえはよかったためです。
テントの設置を終え、たき火の用意もできたところで、日没……夜の一歩手前の時間となりました。
「わーお! そのコって、【クリスタルドラコ】だよね! かーわいい!」
そこに、あかるい声をあげながら、ひとりの大きな少女がやってきました。
くせっ毛でくすんだ色の、きれいな長い金髪のポニーテールに、シルバーブルーの大きなひとみ、ごつごつとした岩石のようで、ほどよいやわらかさを残している、引きしまった健康的な肌と肉体、身長はシルヴィアより少し低い、けれどエミルたちよりだいぶ高い、160センチ後半といったところです。
服装は割れた腹筋があらわになったへそ出しタンクトップと、太くたくましく長い脚が伸びるショートパンツ、背中には大きなリュックを背負っていました。
「すみません! このコ、さわってみてもいいですか?」
少女ははきはきとした大きくて元気な声で、ユーリにたずねてきました。
「ぼ、ぼくはなんとも。クリス、どう?」『クー!』
自分より背の高く、体も声も大きい少女につめよられてたじたじのユーリが意思を確認すると、クリスは「いいわよ!」という感じの笑顔でおへんじしました。
「ありがとうございます! それじゃ、失礼しますね! ひゃあっ! お肌もちもち! 水晶の羽もひんやりして、気持ちいい!」『クー!』
少女は実にうれしそうに、クリスの全身をやさしくなでまわしていました。クリスも同じく、うれしそうです。
エミルとユーリ、それからシロンはおどろいていました。見ず知らずの人間相手に、クリスがここまで心を許すなんて。とくになんのためらいもなく、体をさわらせたうえによろこぶなんて、よっぽどのことです。
「ふうっ! 満足満足! ありがとうね、ちいさなドラゴンさん!」『クー!』
少女はひとしきりなで終わったあと、汗をぬぐってクリスにお礼を言いました。すると、
「あああっ! 【ダークエルフ】! すごい! ホンモノだ! 感激! あの、握手してもらってもいいですか!?」
今度はシルヴィアのほうに目をつけ、そちらにつめよりました。シルヴィアもユーリと同じく、すこしたじろぎました。
『え、ええ。私でよければ』
シルヴィアは引きつった笑顔を浮かべながら、少女に右手をさしだしました。
「ありがとうございます! わおっ! なんてきれいですべすべな手! それにぽかぽかあったかーい!」
少女はこれまたうれしそうに、シルヴィアの手をやさしくなでまわしました。少女は背だけでなく手も大きく、はたから見るとシルヴィアの細長い指を折ってしまうんじゃないかとハラハラします。
「それに、お顔もうっとりするぐらいきれい……! スタイルだってばつぐんにいいし、わたしも筋肉には自信あるんだけど、やっぱりエルフは造型がちがうって感じ……! すてきです!」
『あ、ありがとうございます……』
ほめ殺しにあったシルヴィアはさらに顔を引きつらせますが、ほほは赤く染まっているので、まんざらでもないと思っているみたいです。
「はあ~っ! さらに、人化したドラゴンに【グレイトウルフ】までいるし、【プルリン】も【コイシカメ】もちまっとしててすごくかわいい! こんなにキラキラしたパートナーを連れてるあなたたちと、あたし、ぜひ友だちになりたいな!」
「あのー、友だちはいいんですけど、そろそろあなたがだれなのか教えていただけませんか?」
興奮状態の少女に、エミルは苦笑いしたまま右手をぴっとあげて、たずねました。
「あっ! ご、ごめんね! 先に自己紹介するべきだったよね! ほんとうにごめんね!」
少女はぺこぺこと何度も深く頭を下げました。エミルは思わず「そ、そこまでしなくても……」と制止しました。自分たちよりずっと背の高く、体の大きな相手にそうされると、こちらのほうがもうしわけない気持ちになってしまいます。
「あたしはレイチェル! レイチェル・ブライトネス! 12歳だよ! よろしくね!」
レイチェルと名乗った大きな少女は、胸にぽんと手を当てて、満面の笑顔であいさつしました。
「よろしく、レイチェルさん。わたしはエミル……って、え? じゅうにさい??」
エミルも、ユーリもぎょっとしてしまいました。
目の前の少女は、たしかに顔は年相応に幼い気がしなくもないですが、14歳のアンナよりさらに背も高いですし、みごとな肉体美を誇り、出るところも大きく出ているので、とても自分たちと同い年には見えないのです。
「あっはっは! あたし、ちっちゃいころから体大きかったから、よくそんな反応されるんだ!」
レイチェル本人はまったく気にしていないというふうで、あかるく笑い飛ばしていました。ブライトネス……名は体をあらわす、とはまさにこのことです。
「……こほん。失礼しました。あらためまして、わたしはエミル。白い子はシロンで、オオカミはグレイ、エルフの彼女はシルヴィアだよ」『よろしく、レイチェル!』『ワン!』『よろしくおねがいします』
シロンは大きく手を上げ、オオカミモードのグレイも素直に鳴いて、シルヴィアはうやうやしく頭をぺこりと下げました。
「ぼくはユーリ。ドラゴンのクリスに、プルリンのアクア、それから、コイシカメのジェム」『クー!』『プルー!』『クォー!』
ユーリのパートナーたちも、みんな元気よくあいさつしました。
「わお~! パートナーたちはもちろんだけど、エミルちゃんも、ユーリくんもみーんなキラキラしてるね!」
「キラキラ?」
エミルは首をかしげました。
「うんっ! あたしね、生命力の輝きっていうのかな? 相手がキラキラしてるのかどうかが見えるんだ!」
「そうなんだ、すごいね」
エミルが素直に感心すると、今度はレイチェルがきょとんとして、
「……あれ? エミルちゃんは笑わないんだね。この話したら、だいたいみんな笑うかバカにするかするのに……」
「そんなことしないよ。わたしだって見えないものが見えちゃうし、聞こえないものが聞こえる耳だってある。それにくらべたら、キラキラが見えるなんて、ずっとステキな目を持ってると思うよ。うらやましいくらい」
エミルがほほえむと、レイチェルは感激したように大きなひとみをうるませて、バッと飛びこんできました。
「エミルちゃんっ! ありがとおっ! そんなふうに言ってくれたの、エミルちゃんがはじめてだよおっ!」
「ど……どういたしまして……」
レイチェルのほどよく鍛えられた体にぎゅうと抱きしめられて、エミルは苦しみと気持ちよさのはざまであえいでいました。
「ねえ! やっぱりあたし、エミルちゃんたちと友だちになりたいよ! だから、ぜひあたしとお友だちになってください!」
レイチェルは抱きしめたエミルの鼻先にかわいらしい顔をずいと近づけて、熱烈な告白をしました。
「も、もちろん。わたしも、レイチェルと友だちになりたいな」
「ほんと!? ありがとおっ!」
レイチェルはうれしさのあまり、さらにエミルを強く抱きしめました。エミルは天国と地獄のはざま、煉獄の気分を味わっていました。
「ユーリくんも、あたしとお友だちになってくれる?」
すると、レイチェルがくるりとユーリのほうを振り向いたので、ユーリもあの肉体で抱きしめられるのかとびくっとして、すこしあとずさってから言いました。
「う、うん、もちろんだよ……」
「わあっ! ありがとう! やったあ! 新しい友だちがふたりもできたっ!」
レイチェルは右腕でエミルを抱いたまま、左腕でがばっとユーリを抱きしめました。
パートナーたちは一歩引いたようすで、あわれみの目で主人たちを見守っていました。
「そういえば、レイチェルのパートナーはどんな子たちなの?」
ハグを解かれたエミルは、まだ顔をほんのり赤く染めたままたずねました。
「あ! それなら、友好のしるしとして、あたしとバトルしようよ、エミルちゃん!」
レイチェルは、元気よく笑顔で提案しました。
「バトルって、決闘だよね? でもそれが、友好のしるし?」
エミルは疑問に思いました。エミルにとって決闘は、よくてライバルとおたがいを高め合う程度のもので、友だちと仲良くなるための手段というのは、想像がつかないのです。
でも前にライカから、決闘をすればおたがいのことがだいたいわかると教わってはいたので、そのたぐいなのかな、とは思いました。
「うん! たしかにバトルは、おたがいをキズつけ合うことになっちゃうけど、心と心をおもいっきりぶつけあって、とってもキラキラしあうための、友好の儀式でもあるんだよ」
祈るようなポーズを取り、うっとりとした顔で語るレイチェルを見て、エミルはふしぎと関心をひかれました。この子の言っていることはなんとなくでしかわからないけれど、戦ってみればきっとはっきりした答えがわかる、そう思えたのです。
「わかった。戦おう、レイチェル。みんな、準備はいい?」『オーライ!』『ワンッ!』『はい!』
エミルとパートナーたちはやる気もじゅうぶんに、レイチェルとの決闘にのぞむことになりました。
ここまでお読みいただき、ありがとうございました。
連載開始からちょうど一か月、話数もラッキーセブンとなりました。
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