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ワンダフルコネクト ~エミルとドラゴンの大冒険~  作者: 稲葉トキオ
第1章 エミル・スターリングと水晶竜の少年
7/21

第7話 冒険のはじまり

 ソルン村を旅立ったエミルは、お父さんのおさがりの旅行カバンを右手に、パートナーのシロンを肩に乗せて、木立にはさまれた小道を歩いていました。


 まわりからは聞き慣れない鳥のさえずりや虫の声、ケモノの遠吠えなどが聞こえてきて、まだこのあたりはふだんから見ている景色とあまり変わらないのに、どこか新鮮な気持ちになります。


 それと合わせて、エミルはこれから待ちうける大冒険と、大好きなお姉ちゃんとの再会に思いをはせて、わくわくしていました。シロンも『ぼっうけん、ぼっうけん、たーのしーいなー♪』と楽しそうに歌っています。肩の上、エミルの耳のすぐそばなので、ちょっとうるさいと思わなくもありませんでした。


 すると、近くのやぶがガサガサとゆれて、そこからシュバッとなにかが目の前に飛びだしてきました。


「おっ」『わお』


 それに対し、エミルとシロンはとくにびっくりするわけでもなく、小さく声をもらしただけでした。幼いころからお姉さんと村のまわりを冒険していたおかげで、この手のハプニングはすっかり慣れたものです。


 それはそうと、飛びだしてきたのは二体の野生のワンダーでした。


 5~60センチくらいの大きさのシイタケに、ぴょこんとした足が生えて、ちょんちょんとした目がついた、シンプルでかわいらしい見た目の【アルキノコ】という、歩くキノコのワンダーです。


 【アルキノコ】は、わりとどこにでもいる種類のワンダーで、エミルたちも村のまわりでよく見かけているものでした。ですが目の前の二体は、エミルたちの知っているものよりいくぶん荒っぽく見えます。のどかなソルン村の中と外の環境のちがいのせいでしょうか。


 二体のアルキノコは言葉こそ発しませんが、キリッと目つきをするどくして、エミルをとおせんぼしようと立ちはだかりました。どうやら、戦いはさけらないようです。


「これがわたしたちの旅の、最初の戦いってわけだね! シロン!」『おっけー!』


 エミルは不敵でステキな笑顔を浮かべ、カバンを地面に置いて、ふところから指揮棒のような細長い木製の杖を取り出しました。4年前に使っていた間に合わせの木の棒とはちがい、れっきとした魔法使いの杖です。これもエイルの剣とおなじく、パートナーとの心のつながりを強くするためのアイテムです。


 肩に乗っていたシロンも勇ましく跳び降りて、キッとアルキノコたちをにらみました。アルキノコたちもおなじくシロンをにらみつけて、戦いのはじまりです。


 まず二体のアルキノコは、ダバダバとジグザグに走ってシロンに突撃してきました。


「《ライトウォール》!」


 エミルが杖を振って叫ぶと、シロンは目の前に半透明な光のカベを発生させました。


 向かってきたアルキノコたちは光のカベにぶつかって、いきおいのままばいーんとはね返され、ゴロンとあおむけになって倒れました。


 ひっくりかえったアルキノコたちはうまく起きあがれず、両足をじたばたさせるばかり。他人の不幸を笑うのはよくないですけれど、エミルはちょっとおもしろいと思ってしまいました。


「いまだよ! 《ファイアボール》!」


 スキあり、とみたエミルが杖をもうひと振りすると、シロンは口をパカッと開けて、メラメラと燃える火の玉を吐き出しました。


 火の玉は片方のアルキノコに命中すると、その体は一気に燃えあがり、となりにいたもう片方にも燃えうつりました。こころなしか、食欲をそそる香ばしいにおいがしてきます。エミルとシロンは口からよだれをたらしそうになりますが、すぐにハッとわれにかえりました。


 炎上したアルキノコたちは、熱さの拍子にぴょーんと起きあがって、これはたまらんとスタコラ逃げていきました。


「やったね、シロン!」『やったよ、エミル!』


 エミルは、パタパタと飛びこんできたシロンのちいさな前足となかよくタッチを交わしました。


 エミルとシロンは旅の初戦を、見事に勝利でかざることができました。ブラッドッグの群れをこわがっていた8年前、お姉さんと聖獣の戦いを見ているしかできなかった4年前とはちがい、ふたりはずっと強く、たくましく成長したのです。


 そして杖をふところにおさめ、ふたたびカバンを手に取り、シロンを肩に乗せて旅を再開しました。



 ☆ ☆ ☆



 エミルたちは、村からずっと続いていた小道を抜け、明るい緑色のカーペットがしかれたような、草生いしげる"サンタート平原"へと出ました。


「わあ……」『ピー……』


 エミルとシロンは感激の声をもらしました。


 村のまわりではとても見られなかった、見わたすかぎりの果てのない地平線と、なにひとつさえぎるもののないひろがる青空に、外の世界の広さを感じて心がおどります。ひと足先に村を出たお姉さんもきっと、おんなじ気持ちだったにちがいありません。


 そしてやっぱり、野生のワンダーの姿もたくさん見えます。地上には動物のワンダーが、空中には鳥のワンダー。それらが青空の下、ひろびろとした原っぱのなかでのびのびと生きていました。エミルは、一度にこれだけたくさんのワンダーを見たのははじめてです。


 エミルのいちばんの目的は、お姉さんと再会することですが、どうせならこの広い世界の旅をシロンといっしょにおもいっきり楽しもうと、あらためて思いました。



 エミルたちはおだやかに暮らすワンダーたちを観察しながら、平原を進んで行きます。ですがそういったものばかりではなく、さっきのアルキノコたちみたいに好戦的なワンダーもいて、何度かちょっかいをかけられたりもしました。


 ぽよんぽよんと跳ねる水玉にかわいらしい顔がついた、弾力のあるスライム・【プルリン】。シロンがぎゃおーとおどかすと、逃げていきました。


 翼が刃のようにするどい小鳥・【キリスズメ】。シロンが前足で一発ばしっとたたくと、逃げていきました。


 岩に擬態していた、ちっちゃな子どもくらいの大きさの石の人形・【ガンドール】。シロンがふーっと火の息を吹きかけると、熱さに耐えかねてやっぱり逃げていきました。


 旅立つ前は、自分たちのチカラが村の外でも通用するかちょっぴり不安でしたが、どうやらこのあたりに生息するワンダーは、すでにエミルたちの戦う相手としては不足みたいです。


『なーんだ、おそとのワンダーって、あんまりつよくないんだね』


 シロンは退屈そうにはあ、とためいきをつきました。せっかく鍛えたチカラを存分に発揮する機会がなくて、消化不良みたいです。


「慢心はよくないよシロン。たしかにわたしも、ちょっと手ごたえがなさすぎると思ったけど……」


 サンタート平原は別名"はじまりの平原"とも呼ばれていて、いわゆるかけだしウィザードの修行にぴったりの場所だとは知っていましたが、実際戦ってみるとこんなものか、とエミルも心のなかではちょっと拍子抜けしていました。


『シロンたちが、つよくなりすぎちゃったってことだよね?』


 シロンったら今度は、とくいげにふん、と鼻息を吐きました。


「だから、慢心はよくないって。じゃあ聞くけど、いまのシロンちゃんはあの聖獣に勝てると思いますか?」


『うっ……ムリ』


「でしょ?」


 聖獣……4年前お姉さんが戦い、エミルの心に深いキズを残した【サンライトウルフ】のことです。あの死闘はシロンの記憶にも強烈に焼きついており、いまでも正直まともにやり合える気がしないのです。


 エミルも同じ12歳になったいまでも、当時のお姉さんにまったく勝てる気がしないと思っていました。それだけ姉妹には戦いの才能に差があるのです。これは8年前、お姉さん自身も言っていたことでした。


「けど、わたしたちがこれまでやってきたことは、ちゃんと身になってる。ちゃんと村の外でも通用する。それだけ胸にきざんでおこう」


『……そうだね、ごめんなさい』


「わかればよろしい」


 エミルはしゅんとしてしまったシロンを抱きよせて、その頭をやさしくなでてあげました。


「お姉ちゃんはこの4年で、ウィザードの頂点までのぼりつめるくらい、もっとすごくなってる。お姉ちゃんにすこしでも追いつくために、わたしたちもこの旅で、わたしたちなりの強さを高めよう!」


『うん! シロンにおまかせ!』


 エミルとシロンはそう心に誓い、意気揚々と平原を進みます。やがて、おひさまもしずんでいったので、旅の初日のきょうは、早めに野宿をすることにしました。



 ☆ ☆ ☆



 エミルは平原の川の近くに野営を張って、お楽しみの晩ごはんの準備をしていました。


 晩ごはんのメニューは、カレーライスです。キャンプといえば、やっぱりこれです。それとは関係なく、エミルとシロンの大好物でもあります。


 旅に出てからはじめての晩ごはん、いったいどんな気分で、どんな味がするんだろう。と、ふたりがうきうきわくわくしながら準備を進めていると、


 ――だれか……たすけて……


 エミルの耳に悲鳴が響いてきました。


 この感覚には、何度かおぼえがありました。はじめて感じたのは8年前、森でシロンを助けに行ったときです。


 いまの悲鳴はとくにそのときとおなじ、命の危機がせまっているように感じられて、さっきまでゆるんでいた顔が一瞬で真剣に変わりました。


『また、なにかきこえたんだね?』


 シロンも、目つきをキリッとさせました。


「うん、いくよ! シロン!」


『おっけー!』


 これはほうっておけないと思ったエミルは、ごはんの準備をほうりだして、シロンといっしょに悲鳴の主のもとへと走っていきました。

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