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ワンダフルコネクト ~エミルとドラゴンの大冒険~  作者: 稲葉トキオ
第2章 エミル・スターリングと陽緑の旅路

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第60話 集う新星たち その6 白と緑の激突

 ギャラリーのいなくなったアドレス敷地内の広場で、エミルとアスタは向かい合っていました。


 エミルはやっぱり、ユーリからまた杖を貸してもらっていました。これは手抜きのできない真剣勝負、使い慣れないルミエールの杖の出る幕は、まだないのです。


「オマエら、もともとここへは休憩しに来たんだろ? なら手っ取り早く、ドラゴン同士のタイマンでケリつけようぜ!」『ギャオー!』


 さっきの人払いもそうですが、このアスタという少年、粗暴なように見えて気づかいが行きとどいています。人は見かけによらないということを、ユーリはまたひとつかみしめました。


「わたしもそれでいいよ! ね、シロン?」『やるぞー! おー!』


 シロンはいつになく燃えているようでした。なにしろ、クリス以外の同族と出会って、しかも決闘するなんて、はじめてなのですから。


「ふたりとも、がんばって!」『クー!』


 今度はユーリとクリスが、エミルとシロンに声援を送ります。いつものユーリなら緊張する場面ですが、今回はさわやかな熱血少年のアスタが相手なおかげで、健全な決闘になりそうなので、安心して見ていられるのです。


「悪いがオレは、どんなヤツにも先頭はゆずらねえ主義だ! 《ダッシュアタック》!」『ギャオー!』


 いきなり、アラシは先制攻撃をしかけてきました。大きな翼をひろげて、猛スピードでシロンにつっこんでいきます。その姿はまるで、緑色の流星のようです。


「シロン!」『うん!』


 エミルは杖を振り上げ、シロンは急上昇して突進を回避しました。


「やるな! この先制パンチをよけられたのははじめてだぜ!」


「そっちこそ! いきなりこんなにあせらされたのは、はじめてだよ!」


 アスタとエミルはおたがいを認め合うように、そろって笑みを浮かべました。それを見ていたユーリは、ちょっとうらやましいな、と思いました。


「エイルは剣を使ってたけど、妹のアンタは杖を使うんだな」


 そういうアスタの手には、穴あきグローブだけで、道具を使っていないようです。


「あなたも、杖は補助輪だとか言うタイプ?」


 エミルは、ちょっといじわるっぽくたずねました。


「いいや、そんなのは人それぞれでいいと思ってるタイプだぜ。オレはただ、手がふさがるのがイヤってタチなだけさ」


 さわやかに笑ってこたえるアスタに、エミルはなにか思うところがあったようで、


「いいね。だったらわたしも今回は、それにならってみようかな!」


 すると、なんとエミルは手に持った杖をローブにしまってしまいました。


「エミル!?」


 ユーリはおどろきました。まさか、杖がかっこいいなんて豪語していたあのエミルが、みずからそれを手放すなんて。


「なんのマネだ? まさか、ハンデのつもりじゃねえだろうな?」


 アスタは、わずかに顔をしかめました。戦いで手を抜かれることがキライなタイプのようです。


「逆だよ! いまはこっちのほうが、気分があがるってこと!」


 さらにエミルは、紺色のベレー帽とローブまで脱ぎ捨て、オレンジのベストと白いシャツにミニスカートとが残った、学生のような見た目に早変わりしました。


「へへっ、そうか、そういうことなら、オレもひと肌脱ぐとするかなっ!」


 言葉の使い方はまちがっていますが、アスタも身につけていたジャケットをバサッと脱ぎ捨て、黒いランニングシャツ姿になりました。コジカもユーリも、びっくりです。


「……バッカみたい」


 遠くからそのようすを見ていたツインテールの少女が、あきれたようにつぶやきましたが、だれの耳にも聞こえはしませんでした。


「《ドラゴンフレイム》!」「《ドラゴンブリーズ》!」


 エミルとアスタはたがいに右手をつきだし、シロンとアラシはたがいに火炎と風の息吹を吐きました。


 すさまじいいきおいで放たれたエネルギーがぶつかり合い、スパークし、突風となって敷地内を吹き荒れます。


「のわああ!」『クゥ~!』


「わあっ!」『ク~!』


 見守っていたコジカやユーリたちは、ふっとばされまいと思わず身をかがめました。とても立っていられないほどの強風なのです。にもかかわらず、エミルとアスタは平然としたまま決闘を続けています。


「飛び道具の威力は互角か! なら《グライドチャージ》だ!」『ギャオー!』


 アラシはまた翼をひろげ滑空し、猛スピードでシロンにつっこんできました。


 エミルは手振りで指揮をおこない、シロンも飛行で回避をこころみます。


「遅いぜ!」


 しかし、スピードを落とさないまま急旋回したアラシに追いつかれ、体当たりを受けてふっとばされてしまいました。


「シロン!」


「どうだ! 飛行能力とスピードにおいて、グリーンドラゴンの右に出るものはいないぜ!」


 アスタが豪語する通り、ドラゴンの中でも緑色のものは風の属性をつかさどっており、空を飛ぶことと風をあやつることにかけてはナンバーワンなのです。


「《ドラゴンウイング》!」


 だったらとエミルは叫び、シロンの翼が大きくなって、飛行能力がパワーアップしました。


「おもしれえ! そうこなくっちゃあ!」


 戦いは空中でのぶつかり合いに変化し、その光景はまるで、白と緑の流星が何度も火花を散らし合っているかのようでした。


『むぅーっ!』


 シロンはむくれていました。《ドラゴンウイング》でパワーアップして、やっとアラシと互角に戦えているという状態なのです。いつまでたっても自分が優位に立つことができなくて、不満がたまる一方でした。


「エミル! オマエ、相棒とつき合ってどれくらいになる!?」


 ふいに、アスタがそんなことをたずねてきました。


「8年!」


「オレは12年だ! 生まれたときからいっしょだからな! けどそんな年数なんて、ドラゴンの長い寿命からしちゃ誤差でしかねえ! 大事なのはいっしょにいた時間じゃなくて、どれだけ強くて深い絆で結ばれてるかだ!」


 アスタが宣言すると同時に、彼の目の前でアラシがピタッと静止しました。


「見せてやるぜエミル、シロン! オレとアラシの、絆の強さってヤツを! 《進化》!」『ギャオー!』


 アスタが右手の人さし指を天にかかげると、アラシの小さな体が緑色の光につつまれていきました。エミルもシロンも、見守っていたユーリたちも、思わず目をうばわれる輝きです。


 その光は大きくなり、姿を変え、なんとアラシは大きさ2メートル弱の、ドラゴンに変身していました。


「成長……進化……」


 エミルはごくりと息をのみ、つぶやきました。シロンも、びっくりしています。


 ワンダーはある一定の成長期をむかえると、体がいままでとはちがう姿に変化するのです。この現象を《進化》といいます。【コイシカメ】が大きくなると【イワガメ】になるのも、【ブラッドッグ】が【ブラッドルフ】になるのも、進化です。


 また、進化をとげたワンダー、とくにウィザードのパートナーの中には、マナの消耗をおさえるために、平時はあえて進化前のすがたに戻っているものもいます。そう、さっきまで小さい【グリーンドラコ】だった、アラシのように……


「そうだ。ドラコの成長進化系、【グリーンドラゴ】だ。オレたちの絆は、次のステージに到達するくらいに強い! なのにシロン! おどろいたってことはオマエはまだ、チビッコのままなのか!?」


 アスタにビシッと指摘されて、シロンはぎょっとしました。


 シロンだって、ずっと気にしているのです。8年もエミルといっしょにいるのに、ずっと修行をつづけているのに、人の言葉は話せても、ぜんぜん進化のきざしすら見えてこない、自分の体のことを。


「し……進化できるかどうかは関係ないでしょ!? わたしとシロンの絆だって、だれにも負けないくらい強いんだから!」


 これにはさすがにエミルも憤慨しました。こういう問題は、他人が踏みこむべきではない領分の話だと思ったからです。


「わかってるよ。オレだってこんなこと、言うべきじゃねえってことくらい。だが、もったいねえって思っちまうんだよ。それだけ、オマエらがスゲエって思うからこそな」


 アスタはうつむいて、くやしそうに歯をかみしめて言いました。彼は本心から、エミルたちのことを認めてくれているのです。ですが、


「気持ちはうれしいけど、よけいなお世話だよ! わたしたちには、わたしたちのやり方がある! そうだよね、シロン!」


『う……うん、そうだよエミル! ちっこいままだって、エミルといっしょのシロンは、ムテキなんだから!』


 エミルとシロンはアスタの言葉を否定し、なおさらこの決闘、負けられないと、真っ向から立ち向かう覚悟を決めました。


「なら、オレたちに見せてみろ! オマエらの絆の強さってヤツを! アラシ!」『ギャオオーン!』


 大きくなったアラシはその大きな口を大きく開け、その中に多くの風のマナが集まっていきました。


「言われなくても! わたしたちの全力をぶつけるよ、シロン!」『うんっ!』


 シロンも口を大きく開けて、マナをチャージします。


 そして、双方のチカラがじゅうぶんに溜まった、その瞬間、


「《ドラゴンブラスター》!」「《ドラゴンストーム》!」


 それぞれの口から、光線と大嵐が放たれました。


 ふたつの強大なエネルギーがぶつかり合い、さっきよりもずっと強い衝撃があたりを揺るがします。外に点在するテントも、地面からひきはがされそうないきおいです。


「うわああっ!」「ひょええ~っ!」


 ユーリとコジカは、ふっとばされて転んでしまいました。


「はあああっ!」「うおおおっ!」


 ウィザードとパートナーたちが、全身全霊をしぼりだそうとした、そのとき、


「双方、そこまでだ!」


 そんな大きな声が響いて、二組ともびっくりして、魔法も決闘も中断してしまいました。


 戦っていたエミルたちも、ひっくり返っていたユーリたちも一様にきょとんとして、声のしたほうに視線を集めます。


「なんだテメエ!? いいところだったのに、ジャマしやがって!」


 アスタは声の主に向かってどなりつけました。決闘でテンションが上がったままなので態度も荒っぽくなっています。


 声の主は、紳士的な黒いスーツに身をつつんだ、紫のメッシュが入った銀髪のスラッとした美少年でした。年齢はカナトと同じく、エミルたちよりちょっと上くらいに見えます。


 また、彼のうしろには、つきしたがうように黒髪の背の高いメイドさんが立っていました。大きくてつぶらな灰色のひとみと、長い髪をしばっている大きなピンクのリボンが特徴的です。


「熱くなる気持ちはわかるが、お前たち、ここが休憩所であるという事を忘れていやしないか?」


 スーツの少年は、凛としたたたずまいで、おごそかに言い放ちました。年のころは自分たちとそう変わらないというのに、エミルたちはえもいえぬ威圧感を感じていました。


「わ……悪い。そうだったな。アンタの言う通りだ、つい、熱くなっちまった……」『ギャオ……』


 アスタは素直に反省して、頭をかきながら謝罪しました。スーツの少年の威圧感に気圧されたわけじゃなく、彼自身の性格と人柄によるものです。


「わ、わたしたちも……ごめんなさい」『むう……』


 エミルも、つづけてあやまりました。シロンだけは、消化不良といった感じですけれど。


「わかってくれたなら、いい。マナーはともかく、実に見ごたえのある勝負だった。俺の名はミスリオ。縁があればいずれ、戦う事になるだろう」


 そう言うと、ミスリオと名乗った少年は、くるりと振り返ってL字型の建物へ入っていきました。メイドさんも、にっこりと笑顔を残して、彼についていきました。


「……なんかエラソーだったけど、悪いヤツじゃなさそうだな」


「……そうだね、わたしもそう思う」


 ふたりを見送ったアスタとエミルは、それぞれ脱ぎ捨てた上着をひろいながら言いました。


「ま、水入りになっちまったが、楽しかったぜ、オマエらとのバトル」『ギャオー!』


 アスタはジャケットを肩にかけて、ニッと笑って言いました。アラシもいつのまにか【グリーンドラコ】に戻っていて、アスタの肩の上に乗っかっています。


「うん、わたしも」『シロンは、つまんなかった!』


 エミルもいつものベレー帽とローブ姿に戻り、シロンはその肩の上でぶーたれていました。


「だが、オレは自分の言ったことを否定する気はねえぜ。シロン、オマエのチカラは、まだあんなもんじゃねえはずだ。いつかオマエがマジの本気にめざめたとき、またやろうぜ」『ギャオ!』


『……』


 アスタは最後にそう言って、建物の中に入っていきました。そのうしろを、一時的にあずかることになった【ミルネーク】のハクがついていきます。


 シロンはその背中を、なやましげな顔で見送っていました。


「シロン……」


 エミルにも、わかっていました。小さいころからずっと、シロンが見えないカベにぶつかっているということを。8年たっても、エミルがウィザードとして成長しても、ずっと進化できず、小さなドラコのままなのを、心のなかで悩んでいるということを。


 旅に出て、新しい刺激を受ければ解決するかもと期待していましたが、とくになんの変化もなく、それがよけいにシロンをあせらせているということも、伝わってくるのです。


 むかし【ブラッドッグ】だったグレイが今や【グレイトウルフ】にまで進化しているということも、そのあせりをよけいに深めてしまったことでしょう。


「……ね、ねえ、そろそろおひさまもしずんできたしさ、そろそろぼくたちも中に入って休まない? ここ、休憩するための場所だもんね。ぼく、もうくたくただよ」『クー!』


 そんなエミルたちを見かねて、ユーリが気づかうように提案しました。


「……そうだね、わたしもなんだか、疲れちゃった」


 エミルは苦笑いしながらそうつぶやいて、一行はアドレスの施設内へと入っていきました。

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