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ワンダフルコネクト ~エミルとドラゴンのアドベンチャー~  作者: 稲葉トキオ
プロローグ エミル・スターリングと太陽の姉妹

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第5話 姉妹の試練 その4 約束

 村長さんが言うには、村の守り神の使いである聖獣【サンライトウルフ】をキズつけるどころか殺めてしまうだなんて、どんな理由があっても、ぜったいあってはならないとのことでした。


 神の怒りをしずめるために、本来なら処刑するべきところですが、エイルがまがりなりにも村を危機から救ったという功績を考えると、永久追放が妥当(だとう)なのだそうです。


 妹のエミルはもちろん、処分を取り消してもらうよう必死に抗議しましたが、聞き入れてはもらえませんでした。きのうの事件、そもそもの原因が聖獣の暴走によるものであることと、聖獣を殺めたのも聖獣自身の意思だということはもちろん伝えましたし、村長さんもエミルがウソをつかない子だと知っているので、話自体は信じてもらえたのですが、だからこそ免罪は永久追放までが限度だと言うのです。


 それに「正しい裁きを与えねば、村に守り神の罰がくだる」と言われてしまえば、押しだまるしかありませんでした。エミルもさすがに、両親や村の人たちにまで迷惑をかけるわけにはいかないと思ったのです。なにしろ神さまの罰は、ほんとうに当たるのですから。エミルたちが生まれるよりずっとむかし、聖獣を捕まえようとワナをかけた村人を見のがしたとき、大嵐が起きて村が滅びかけたこともあったそうです。


 いっぽうのエイル本人はというと、なにも言いわけすることなく処分を受け入れました。やむをえなかったとはいえ、聖獣の命を奪ってしまったけじめはつけなければいけないと、その結果、村を追い出されるのもしかたないと思っていたのです。さすがに処刑されるとなったら、抵抗していたかもしれませんけれど。


「なら、わたしも追放してください! 聖獣のなきがらに火をかけたのは、わたしだもの!」『ピー!』


 追放を止めるのはムリとみて、自分もお姉さんについていこうと、エミルとシロンは村長さんに懇願しました。するとエイルは妹の肩をそっと抱き寄せて、いたずらっぽく言いました。


「この子たちは"生きてる聖獣"にはいっさい手ぇ出してないよ。だからおとがめなしでいいよね?」


 エミルはハッと気がつきました。いえ、気づくのが遅すぎました。お姉ちゃんが「手を出すな」と言ったのは、こうなるとわかっていて、わたしになんの責任も負わせないようにするためだ、ということに。もちろん、エミルとシロンが実力的に聖獣との戦いについていけないから、ということもあったでしょうけど。


 エミルだって、ほんとうは聖獣に手を出すのはまずいとわかっていたはずでした。ですが、あのときは暴走した聖獣の迫力と状況に圧倒されて、頭がまっしろになってしまっていたのです。エミルはいまこのときほど、自分の未熟さ、無力さを痛感し、後悔したことはありませんでした。


 エイルの要求に、村長さんはしずかにうなずきました。エミルのやったことは、聖獣の魂を浄化し、これ以上ないほど手あつい葬送だったということで、とがめる理由がないということになりました。


 ですがそれは、エミルにとってはお姉さんと離ればなれになってしまうという、絶望的なお裁きでした。


 こうしてエイルはあしたの朝、村を追放されることになったのです。



 ☆ ☆ ☆



 村長さんの家から帰ってきたあと、エミルはシロンと自分の部屋のベッドでふさぎこんでいました。あした、大好きなお姉ちゃんが村を追い出される、その事実が受け入れられないのです。


 お姉さんは本来旅に出てもいい年齢なのに、それを自分との約束のせいでがまんしていることに歯がゆさを感じていたので、どんなかたちにしろ、村を出るというのはよろこばしいはずのですが、やっぱり最愛のお姉ちゃんと離ればなれになるのが、エミルにとってはいちばんつらいのです。


 しかし、当の本人であるエイルのほうはカラッとしていて、バーンと部屋のドアを開け「きょうがいっしょにいられる最後なんだから、最後におもいっきり冒険しようよ!」とエミルをさそってきました。きのうの戦いでけっこうなケガを負ったはずなのですけれど、もうすっかり元気なのがちょっとおそろしいです。


 エミルは(人の気も知らないで……)とちょっぴり思わなくもなかったですが、お姉ちゃんからのおさそいです。最後であってもなくても、ことわるという選択はありませんでした。


 姉妹はお母さんに作ってもらったお弁当を持って、きょう一日じゅう村のまわりを冒険してすごすことになりました。


 ちなみに、両親にエイルが追放されることを伝えたところ、反応はわりとあっさりしたものでした。今回の件がなくとも、エイルはいずれ村を出ていくだろうとずっと思っていたため、それ自体はおどろくことではなかったのです。


 聖獣を殺めてしまった件も、村の危機を救ったということをほめられこそすれ、とがめられることはありませんでした。あとついでにエミルも、いっしょにほめてもらいました。


 とにかく両親ともに、長女のエイルに似てどこかのんきで楽天的なので、しっかり者の次女エミルは突然変異の存在なのかもしれません。



 ☆ ☆ ☆



 まる一日使って、姉妹とパートナーたちは、村のまわりのこれまで冒険した場所をかたっぱしからめぐっていきました。


 きのう登った岩山、おばけ屋敷と化した廃屋、オレンジに光る石が埋まっている洞窟、いろとりどりの花が咲く原っぱ、たくさんの魚がピチピチ跳ねる長い川、大小さまざまなキノコが生えている森……どこも何度もくりかえしおとずれた、姉妹の思い出のつまった場所です。一日でぜんぶ回るのは大変そうですが、いまのシロの足ならどこでもビューンとひとっとびなので、移動にそれほど時間はかかりませんでした。


 いつもなら楽しい冒険のはずなのですが、きょうばかりはエミルはずっとしずんだ顔のままでした。そんなパートナーを見ているのがつらくて、シロンも悲しそうな顔を浮かべます。


 これがお姉ちゃんといられる最後の一日なのに、楽しまないといけないのに、お姉ちゃんとおわかれしなくちゃいけない、という悲しみのほうが、どうしても大きいのです。


 そうしているうちにおひさまはしずみ、お月さまが輝く夜がおとずれました。姉妹の最後の冒険の時間も、のこりわずかです。


 最後にやってきたのは、4年前シロンと出会い、エミルがはじめて冒険したあの森でした。


 暗くて不気味な森の中というのは、思い出めぐりの最後におとずれる場所としてはあまりふさわしくありませんが、エイルはどうしても最後にここへ来たかったみたいです。


「なつかしいなあ。ここでエミルが私のこと追っかけて、迷子になっちゃったんだよね」『ワン!』


 エイルはよくものを忘れますが、かわいい妹との思い出だけはどれもはっきりと覚えているのです。まあ、森に入った理由が「流れ星を探しにきた」ということは、完全に忘れているみたいですけど。


 お姉さんがしみじみ思い出を語っていても、エミルはあいもかわらずしょぼんとして無言のままでした。シロンもシロも心配そうです。


「エミル」


 すると、お姉さんがぬっと顔を近づけてきたので、エミルは思わず「わっ!」と声をあげてびっくりしました。


「どうしたの? きょうはずっとしょんぼりしてるじゃん。せっかく最後の冒険なんだから、お姉ちゃん、エミルにはいつもみたいに笑っててほしいなあ」


 と、ふだんと変わらない調子で言うものなので、エミルの心のなかの「人の気も知らないで」という気持ちが一気にふくらんで、口からあふれ出てきました。


「……どうして」


「ん?」


「どうして、あのとき、「手を出すな」なんて言ったの? わたしとシロンが戦いにくわわってれば、わたしもいっしょに追放されたのに。お姉ちゃん、こういうことになるって、いつもの"なんとなく"でわかってたんでしょ!?」


 涙をこらえながらうったえる妹に、さすがのエイルもとまどいました。シロンとシロも、びっくりしてぎょっとしていました。


「お姉ちゃん、ここで約束したよね。「わたしたち姉妹は、ずっといっしょ」だって。だったら、ずっといっしょにいさせてよ、いっしょに戦わせてよ! どうして、約束をやぶるようなことするの。お姉ちゃんの、うそつき……!」


 言葉も感情もなにもかもあふれだして、エミルは泣きだしてしまいました。


 シロンも悲しそうに『ピィ……』と声をあげて、エミルをなぐさめるようにほっぺにすりよりました。


 エイルはまいったなあ、と言わんばかりのこまり顔で頭をかくと、ぎゅっとエミルを胸に抱きしめました。


「おねえ、ちゃん……?」


「……ごめんね。私はただ、エミルにはいい子のままでいてほしかったんだ」


「いい子の……まま……?」


 エミルはまぶたを開けて、お姉さんの顔を見上げました。


「エミルの言うとおり、あの聖獣をキズつけたら、バチが当たるっていうのはわかってた。でもやっつけなきゃ、村がやばかったしね。だから、私ひとりでぜんぶ受け止めようって決めたの」


「……わたしとの約束を、やぶることになっても?」


「約束は大事だよ。でも私にとっては、約束より、エミルのほうがずっと大事なんだよ」


「おねえちゃん……」


「それに、いっしょに村を出ることになってもさ、正直、いまの私じゃ、いまのエミルを守りきれる自信がないんだ。だから、こうなるのが私たちにとって、いちばんよかったんだよ」


 自信がない、なんて、お姉さんの口から聞きたくなかった言葉ですが、できないことはできない、とはっきり言えるのが、お姉さんの数多くあるいいところのひとつだと、エミルは思い出しました。


 なにより、まだ8歳のエミルは、外の世界に出てもお姉さんの足手まといにしかならない、ということはじゅうぶん自覚しているので、納得するしかありませんでした。


 エイルは基本考えなしですが、かわいい妹のエミルのことはいちばんに考えているのです。だからエミルは、お姉さんが大好きなのです。


「約束、やぶることになっちゃって、ホントにごめんね。好きなだけ、うそつきって言っていいからね。ダメなお姉ちゃんで、ごめんね……」


 それは、生まれてはじめて聞いたお姉さんの弱音で、その声は、かすかにふるえていました。


 エミルは、またもうしわけなく、くやしい気持ちになりました。元気と前向きさがとりえのお姉さんにそんなことを言わせてしまい、悲しい気持ちにさせてしまったことに。


 だからこそ、そんな気持ちなんかもういらないと、強く思ったのです。


「……お姉ちゃんは、ダメなんかじゃないよ。わたしの、自慢の、最高の、大好きなお姉ちゃんだよ」


「エミル……」


「……わたし、決めた。わたしもあと4年、うんと強くなって、12歳になったらシロンといっしょに村を出る。それからお姉ちゃんに会いに行く。どれだけかかっても、ぜったいに会いに行く! だから、先に行って、待ってて!」


 エミルは泣きはらした、決意に満ちた顔で宣言しました。


 エイルは自分についてくるのがせいいっぱいだった妹の成長した姿にうれしくなって、ニカッと笑って言いました。


「……じゃあそのときまで、エミルが来るの待っててあげる。そしたらふたりで、またいっしょに冒険しよう!」


「……うん!」


 エミルもまた、にっこり笑ってうなずき、今度は姉妹で抱き合いました。


 シロンとシロも、うれしそうに『ピーピー!』『ワンワン!』鳴いてはしゃぎまわります。


 こうして姉妹とパートナーたちは、笑顔で最後の夜をすごしました。



 ☆ ☆ ☆



 そして、夜が明けて、エイルの追放のときがやってきました。


「この村ともこれでおわかれかぁ。なんかちょっとさみしいや」『ワン!』


 エイルとシロは村の門の前で、感慨深そうに村の景色を目に焼きつけていました。


 旅立ちの場面ではありますが、村人はだれも見送りに来てはいませんでした。ですが、これは村人がエイルをきらっているわけでも、薄情なわけでもありません。


 エイルはその奔放さからよくも悪くも村の中心人物で、才能を期待され、旅立ちをせっつかれるほどの大きな器の持ち主であり、村人たちにとっても、エイルが村を出るのは待ちに待った瞬間なのです。村から世界にとどろく英雄が生まれるかもしれないということに、心をおどらせているのです。なので、ほんとうは盛大に見送りたかったのですが、永久追放という名目上、送り出すというかたちをとるわけにはいかなかったのです。


 聖獣を殺めてしまったことも、村を守るためにやむをえなかったということで(エミルが話したいきさつを、村長さんが村じゅうに伝えてくれたのです)、とがめる人はだれもいませんでした。むしろ、みずからの立場を犠牲にしてまで、村のために行動を起こしてくれたエイルを称賛する声ばかりです。それだけ姉妹とくにエミルには人望がありましたし、村全体が陽気な雰囲気を持っているおかげかもしれません。


「じゃあね、村のみんな」


 エイルがくるっと振り向いて、村の外へ出ようとすると、


「おねえちゃーん!」


 最愛の妹、エミルが走って、呼び止めてきました。


「どしたの、エミル? お見送りしたらバチが当たるって言われたじゃない」


「家族ひとりだけなら、神さまも大目に見てくれるかもって、村長さんから聞いた!」


「おー、さすがわが妹、抜け目ないねえ」


「だって、せっかくの旅立ちなのに、だれにもお見送りしてもらえないの、さみしいと思って……」


「うん! 私もちょうど、そう思ってたとこ!」


 エイルがニッと笑うと、エミルもつられて笑顔になりました。


「お姉ちゃん。きのうは、うそつきなんて言ってごめんなさい」


「あははっ、いまさらあやまらなくたっていいよ。ホントのことだし」


「ううん、お姉ちゃんはうそつきじゃないよ。だって、あの約束はまだつづいてるもん」


「どういうこと?」


「場所が離れてたって、わたしたちの心はずっといっしょだってこと!」


 エイルの問いに、エミルは両手を胸に当ててこたえました。


 わたしたち姉妹は、いつだって、ずっといっしょ……おたがいがおたがいを想い合っていれば、距離なんて関係ないんだということを、エミルは伝えたかったのです。


「……そうだね!」


 エイルは、ニカッと笑いました。


『ピー! ピー!』『ワンワン!』


 シロンとシロも、しばしの別れを惜しむようにじゃれあっていました。


「じゃあ、またね、エミル。ずっと待ってるから」


「うん、またね、お姉ちゃん。きっと会いにいくから」


 姉妹は最後にぎゅっとあつく抱き合ったあと、エイルはシロといっしょに村から追放……いえ、旅立っていきました。


 そして、そのうしろ姿が見えなくなってから、エミルは誓いました。頭のなかに、聖獣やウッディア、命を落としてしまったワンダーたちのことを思い浮かべて。


「シロン、わたしたち、強くなろう。もう二度とあんな想いをしないように、お姉ちゃんに追いつけるように、どんな困難にだって、負けないように!」


『ピー!』



 それからさらに、4年の月日が流れました……

ここまでお読みいただき、ありがとうございました。

これにてプロローグはおしまい、次回から12歳になったエミルとシロンの冒険がはじまります。

おもしろかった、つづきが気になる、と思っていただいたら、

ブックマーク登録や下↓の『☆☆☆☆☆』を『★★★★★』に評価していただけるとうれしいです。


あしたは12時、17時、21時ごろ計3話公開予定です。よろしくおねがいします。

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