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ワンダフルコネクト ~エミルとドラゴンのアドベンチャー~  作者: 稲葉トキオ
第2章 エミル・スターリングと陽緑の旅路

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第46話 絶対決闘領域 その1 シカと少女とまたしてもあやしいメガネ

 エミルとユーリはオオカミ型ワンダー、【グレイトウルフ】のグレイの背中に乗って、サンタート平原を疾走中です。


 ソールベリーの栄養のおかげでしょうか、グレイもパワーとスピード、スタミナが格段にアップしているようで、ゾンネの森を出発してから約一時間、ノンストップで走り続けていました。


 ……が、そのとき。


「とまってえー! たすけてえー!」


 目の前に、きゅうに人が飛びだしてきたのです。


 エミルはグレイに急ブレーキをかけさせますが、なんとか人を跳ね飛ばさずにすんだものの、背中に乗っていたエミルたちは、慣性の法則で宙にぽーんと投げ飛ばされ、どしゃっと地面に落っこちてしまいました。


「いたたた……なにやってるの、あぶないじゃない!」


 エミルは強打したおしりをさすりながら、飛びだしてきた人をしかりつけました。たとえこの平原が野生の王国であっても、交通ルールは守らなければなりません。


「ご、ご、ご、ごめんなせえ! わたす、どーしてもこの子をたすけてあげたくてえ!」


 飛びだした人は、半泣きになりながら深々と頭を下げて謝罪しました。


 エミルよりちょっと背の低いくらいの女の子で、ぼさぼさの茶色いおさげ髪とそばかすが特徴的です。


 そして女の子の手がしめす先には、ケガをしてうずくまっているシカ型ワンダーがいました。ツノの形が木の枝のようになっている【ウッディア】です。


 その瞬間、エミルの頭のなかに、4年前の聖獣暴走事件の記憶がフラッシュバックしました。


 あのときは、致命傷を負ったウッディアを、手遅れだったために救うことができなかったのです。


 でも……あのときとはちがう。今度こそ、助けてみせる!


 そんな衝動にかられたエミルは、ためらいなくポケットからキズの回復薬を取り出して、ウッディアの口から飲ませてあげました。


 するとケガはあっというまに治り、ウッディアは大きくいなないて、元気に立ち上がりました。


「ああ……! サクラ、よかった、よかったなあ! ありがとごぜーます! あなたは、このコの命の恩人です!」


 そう言って女の子は、今度は大泣きしながらを深々と頭を下げて感謝しました。


「どういたしまして。元気になってよかったね、サクラ!」『クゥー!』


 ウッディアのサクラもエミルに感謝するように、そのほほにすりよりました。4年ごしにウッディアを助けることができて、エミルもほんとうにうれしそうです。


「わたすはコジカ。このコはサクラ。12歳の自由さいただいて、放浪の旅してるかけだしのウィザードです」


「わたしはエミル、この子たちはシロンにグレイ」『よろしくねー!』『……フン』


 グレイはそっけないようすです。気持ちよく走っていたのをジャマされたのでムリもありません。


「ぼくはユーリ、この子はクリスっていいます」『クー!』


 ユーリもなんとか転倒から立ち上がっていました。ダークエルフの仕立ててくれた新しい服のおかげか、あまり痛みもなくケガもせずにすんだようです。


「でもどうして、飛びだしたりしたの? ああいうことしちゃダメだって旅のマナーはわかってるでしょ?」


「も、もちろんです! でもついさっき、こわ~い人からムリヤリ決闘をしかけられて、したら負けちまって、このコも大ケガしたうえ、荷物もおカネもぜーんぶとられちまったんです。だからああでもして、人に助けてもらうしか、なかったんです」


「なんですって!?」『ひどい!』


 エミルとシロンは憤慨しました。


「でも決闘なら、ことわることもできたはずだよね?」『クー』


 ユーリの言う通り、決闘はあくまで双方の合意のもとでのみおこなわれます。なのにムリヤリしかけて荷物を奪ったというなら、それはただの強盗ではないですか。


「わたすもそのつもりでした。けどあの人のワンダーが、みょーな結界を張ったもんで、逃げることができなかったんです」


「妙な結界……?」『それって、どんなの?』


「わかりません……田舎出身で魔法についてはさっぱりの、わたすなんかじゃ」『ジュー……』


「とにかく、こまってる人も、そんな悪いやつもほっとけない。まかせて、わたしがなんとかしてあげる!」『シロンにも、おまかせ!』


「ほ、ほ、ほんとですか?」『クゥー!』


「うん、あなたの荷物もおカネも、ぜんぶ取り返してあげる。そのこわい人に会ったのはいつごろ?」


「かれこれ、30分くれー前だったとおぼえとりますが。そんで、あっちの方角さ行っちまいました」


「じゃあ、まだ近くにいるかもしれない。いまからならじゅうぶん追いつけるはず! いくよ、ユーリ、グレイ!」


「う、うん」『ガルッ!』


 エミルとユーリはグレイの背中にまたがり、コジカのしめした方角へと駆け出しました。


「ま、まってくだせ~!」『クゥー!』


 あわててそのあとを追うように、コジカもサクラの背中に乗って走り出しました。



 ☆ ☆ ☆



 ナゾのこわい人を追いかけて約20分後、エミルたちは小高いガケの上から、決闘の現場を目撃しました。二人のウィザードが向かい合って、おたがいのパートナーを戦わせているのです。


 ですが、その雰囲気はどこか異様でした。決闘の場には、まわりを包みこむように、赤い半透明のドーム状の結界が張られていたのです。エミルもこんなものははじめて見ますし、古今東西の魔法を記した本にものっていませんでした。


「あの赤い結界……ゾンネの大樹で見た、青白いカベに似てる……」『クー……』


 ユーリとクリスがつぶやきました。大樹のダンジョンで幽霊ウィザードとの戦いの際に展開された、決闘場に張られた障壁に、なんとなく似た雰囲気を感じたのです。


「フィニッシュです。《デスサイズクロス》」『ケェーッ!』


 一方のウィザード、深緑色のコートを着た、同じく深緑色の長髪長身、銀縁メガネの男性が、指揮棒のような杖を振ると、巨大なカマキリ型ワンダー、【デカマキリ】の左右の大きなカマが緑色のオーラをまとい、対戦相手のワンダーを十字に切り裂きました。


『ニャア~ッ!』「ぺ、ペローッ!」


 ペロリと出した舌がチャームポイントの、青い子ネコ型ワンダー、【ペロネコ】が血しぶきをあげて倒れ、その主人(マスター)であるウィザードの男の子が泣きながら駆け寄っていきました。


「決闘は私の勝ちです。約束通り、貴方の荷物はすべて頂きますよ」


 メガネの男性はニヤリと笑みを浮かべ、差しだすように右手を男の子に伸ばしました。


「い、いやだ! オマエがムリヤリ決闘をしかけてきたくせに! だれが言う通りになんかするもんか!」


 男の子は、ペロネコをかばうように抱きながら言い返しました。


「おや……いけませんねえ。約束を守れないいけない子には、天罰が下りますよ」


 男性がクイとメガネを指で持ち上げると、赤いドームの天井に、バチバチと電気のような光が走りました。


 すると次の瞬間、なんとそこから赤いイナズマが男の子の体に落ちてきたのです。


「うわあああ~!!!」『ニャアアア~!!!』


 イナズマに撃たれた男の子とペロネコは大きな悲鳴をあげ、気を失って倒れてしまいました。


「……だから言ったじゃないですか」


 メガネの男性はあきれたようにそうつぶやくと、倒れた男の子が背負っていたリュックを奪い取りました。すると、まわりを包んでいた赤いドームも、スーッと消えていきました。


「……なによ、あれ……」


 一部始終を見ていたエミルとユーリは、ごくりと息をのみました。


 りこうなふたりは、状況と話しぶりから、おそらくあの結界が男の子に決闘を強制し、しかも取り決めをやぶると罰を与える性質まで持っている、ということが理解できました。


「あー! あの人です! わたすにムリヤリ決闘させた、こわい人!」『ジュー!』


 そこに、タイミングがいいのか悪いのか、あとから追いついてきたコジカとサクラが叫び声をあげました。


「おや?」


 そのせいで、メガネの男性がガケの上のエミルたちの存在に気づいてしまいました。


 エミルとしては、もともと男性に接触するつもりだったので、大声をあげたコジカたちをせめることはせず、堂々と姿をあらわしました。


「ギャラリーがいたとは気づきませんでしたね。私たちの決闘、お楽しみいただけたでしょうか?」


「そうだね、興味深くはあったかな」


 エミルは男性を見下ろして、軽蔑の視線を向けて言いました。


「興味がおありなら、どうです? 貴女も一戦。私としても、貴女の連れているワンダーには、とても興味があります」


 男性はうやうやしく一礼し、エミルの肩の上のシロンとかたわらのグレイを見やって言いました。


「いいよ、やろうよ、決闘」


 エミルは冷めた口調で合意しました。いつもの冷たい怒りをユーリは感じました。


「お受けいただき、感謝の極み。それでは、どうぞこちらへ」


 エミルは男性に招かれるまま、ガケを下りようとすると、ユーリに呼び止められました。


「エミル、ほんとうにやるの? あの人、なんだかブキミだよ」『クー……』


 クリスも、とくにシロンを心配しているようです。


「だいじょうぶ。前にも言ったでしょ? わたしはできないと思ったことは言わないし、やらないよ。約束通り、コジカの荷物も取り返してきてあげるね」


「エミルさん……」『クゥー……』


 とくいげにウインクするエミルに、コジカとサクラはうるうると涙目になって感激していました。


「あ、そうだユーリ、ちょっと杖貸してくれる?」


「え? もともとエミルのだし、いいけど……集落の長さんからもらった、ルミエールの杖は使わないの?」


「この決闘、絶対に負けられない戦いだから、慣れてない杖を使うのはリスク高いかなと思って。ユーリのはもともとわたしのスペアの杖だし、前のと同じ感覚で使えるからね」


「……わかった、はい。くれぐれも、気をつけてね」


 ユーリは納得して、自分の想いもこめながら、杖をエミルに手わたしました。


「わかってる。じゃあ行ってくるね。シロン! グレイ!」『おっけー!』『ガルッ!』


 こうしてエミルたちは、ナゾのメガネの男性との。恐怖の決闘に挑むことになりました。

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