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ワンダフルコネクト ~エミルとドラゴンのアドベンチャー~  作者: 稲葉トキオ
第2章 エミル・スターリングと陽緑の旅路

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第34話 ゾンネの森 その7 とらわれし魂

『《ドラゴンスクラッシュ》!』


 三階層の大広間にて、シロンの振るった光のツメが、こわい顔を持つ大きな木のオバケ・【トオレント】二体をまとめて切り裂き、ノックアウトしました。


「ふぅー、よくやったね、シロン!」『ぷはー、よくやったよ、エミルー!』


 エミルは飛んできたシロンを抱きとめ、ほおずりしました。大技を使ってしまったので、ふたりともちょっとだけ疲れていました。


『いいなぁ……(わたくし)も、あんなふうに……』


 うしろで見守っていたプリンセスはほほを染めて、うらやましく、いとおしそうに、エミルたちのスキンシップを見ていました。


『クー?』


 そんなプリンセスを、さらにユーリとクリスは、ふしぎそうな目で見ていました。



 ☆ ☆ ☆



 ――そんなエミルたちの快進撃をのぞいている存在が、ひとつ。


『ジュフフ……よもや、ダークエルフの姫が協力し、しかも、ニンゲンとパートナーを組もうとは! いままででいちばん、おもしろい挑戦者じゃ! じゃが、次の相手は、ひとすじなわではいかんぞ! この戦いでオマエたちもヤツらの仲間となるか、それともまたいかな手段で打ち破るのか、楽しみじゃわい、ジュフフフ……!』



 ☆ ☆ ☆



 エミルたちは螺旋階段をのぼりきり、四階層のフロアへやってきました。


 さすがにもうかれこれ数時間は階段を歩いたためか、エミルと、ユーリを運んでいるプリンセスにも疲れが見えてきました。少し休憩することも考えましたが、階段上でも何度かワンダーに襲われたために、断念しました。


 森の中、大樹の外とは真逆で、このダンジョンに安らげる場所はどこにもないようです。エミルたちは、あのぽかぽか陽気の下が恋しくてしかたありませんでした。


『このへや、うすぐらいね。シロン、くらいのきらーい!』


 シロンは森だけじゃなく、暗いのも苦手なのです。だいたいグレイが悪い。


 シロンが文句をたれた通り、このフロアはこれまでよりあかりがだいぶ弱く、夜に近い暗さでした。


 そのせいか、つねにすごしやすいあたたかさだったゾンネの森の中にあって、ここだけはうすら寒い冷気を感じます。


 すると。


「この声は……あなたは、だれ……?」


 突然、エミルが両耳をおさえて、苦しそうな顔を浮かべました。


『エミル様、どうしました?』


『エミルはときどき、ふしぎなこえがきこえるの。このへや、なんかいるみたい!』


 心配するプリンセスにシロンが説明すると、ユーリとクリスは「えっ」とおどろきました。エミルのナゾの"声"が聞こえるチカラについて、ユーリはまだくわしく知らなかったのです。


 そのとき、あたりにぽっ、ぽっと、青白くゆらめく光の玉がつぎつぎ現れ、広間の中心に集まっていきました。


 集まった光の玉は大きくなって形を変え、十代後半くらいの少女の姿をとりました。少女の姿をしたなにかは、指輪らしきものがはまっている右手をかまえ、エミルたちを見すえています。


「人間の姿になった!? あれは、いったい……」『クー……』


 これまでにない未知の存在に、ユーリとクリスは不安げに身がまえました。


「……たぶん、幽霊だと思う。わたしたちよりも前に、この森に入った人の……」


「ゆ……ユーレイィ!?」


 エミルが暗い声で言うと、ユーリは声を裏返して、跳ねるようにびっくりました。


 ふしぎなチカラ……"魔法"を使えるワンダーなんて生きものがあたりまえにいるこの現代においても、幽霊という存在は、基本的に信じられないものとされています。生死という究極のことわりを、超越しているからかもしれません。


 ユーリも、エミルがウソを言っているなんて100%信じていませんが、幽霊の存在だって70%は信じていなかったので、残りの30%分信じられず、とまどっていました。


『エミル様の言う通りです。あの方は、約20年前にこの森をおとずれた、とてもおやさしい方……!』


 プリンセスはふるえながら、今にも泣きそうな顔で言いました。


「じゃあ、あれはやっぱり……本物の、幽霊……!」『クー!』


 その瞬間、ユーリの疑念が100%確信に変わり、ごくりとつばを飲みました。20年も前の人間なら、今も少女の姿をしているはずがありません。


「タタカエ……ワタシト、タタカエ……!」


 幽霊らしき少女が、生気のこもっていない声でうらめしくつぶやくと、右手の指輪からなにかが飛びだしてきました。それは鎧をまとった美しい女性で、やっぱり少女と同じく青白くゆらめいています。


「あのワンダー……【ライトワルキューレ】!?」


 エミルはおどろきました。【ライトワルキューレ】は天使系のワンダー、さらに完全な人型のため、パートナーにしているウィザードは、極端に少ないと言われています。


 このタイプのワンダーは、心の清らかな人間にしか従わないというのが通説で、それはつまり目の前の少女がゾンネの森の進入条件を満たしていたことを証明していました。


「どうするの、エミル?」


「どうもこうも、ここまでとおなじで、戦って勝たなきゃ通れないんでしょ!」


「た、戦うって……幽霊相手に?」


 心配するユーリをよそに、エミルが強気にひとり歩み出ると、少女とエミルをぐるっと取り囲むように、青白い半透明の光のカベが出現し、ユーリとクリスとプリンセスは、カベの外に押し出されました。


「エミル! これはいったい……!」


「見た感じ、決闘用のリングだよ! どうやら彼女、わたしとの一対一の戦いをおのぞみみたい!」


「け、決闘……!」『クー!』


「指輪の数からして、彼女のパートナーはあれ一体だけ……けど、きっと手ごわい! プリンセス!」


 エミルは、カベの外にいたプリンセスを指輪の中に戻しました。カベが透けているせいか、隔たれていても指輪はちゃんと働くようです。そして、「いくよ! シロン!」『まっかせて!』と、少女とライトワルキューレに対峙しました。世にも奇妙な、幽霊との決闘のはじまりです。


「《ライトアロー》」


 少女は取り出した杖を振ると、ライトワルキューレは右手を大きく振って、矢のような光を発射してきました。魔法の名前以外、ふたりともなんの声も発さないのがなんとも不気味です。


 シロンは光をひらりとかわし、いつも通り《ファイアボール》で反撃します。


 しかし。


 放たれた火の玉は、ライトワルキューレの青白い体をスカッとすり抜け、そのまま燃えつきて消えてしまいました。


「ええっ!?」


 エミルたち全員は、驚愕しました。


 まさか幽霊だから、体が透けているから、攻撃が当たらないとでもいうのでしょうか。だとしたら、とんでもなくズルいです。


 シロンはその後も、頭など別の部位めがけて何発か火の玉を発射しますが、同じようにぜんぶすり抜けてしまいました。


 エミルは、だったら向こうの攻撃もこっちには効かないんじゃ? と一瞬思いましたが、さっき《ライトアロー》が着弾した木の床がうっすらコゲていることから、そうではないと思い直しました。つまり……


『なにこれー! あのコにだけこうげきがきかないなんて、めちゃくちゃズルい!』


 シロンの叫んだ通りです。


「そんな……それじゃ、どう戦えばいいんだ!」『ク~……』


 ユーリとクリスも、なげくような声をあげ、不安がつのっていきました。


 エミルも打つ手が思いつかないという感じで、歯をかみました。いまはよけることに徹して、攻略法を見極めるしかない、そう思ったのです。


 それから数分にわたり、シロンはいっさい攻撃をしかけず、ライトワルキューレの攻撃をしのいでいました。


 《ライトアロー》にくわえ、強化版の《ライトジャベリン》、広範囲に降り注ぐ《ホーリーレイン》、追尾能力のある《ライトボール》など、相手は多種多様な魔法を使ってきました。


 シロンはさすがに、それをすべてかわしきることはできず、何発かはかすったり直撃したりしましたが、【ホワイトドラコ】は現象魔法と光の属性に対する耐性がとても高いため、見た目ほどダメージを負ってはいませんでした。


 しかし、長く飛び続けたことと、ここまでの連戦の疲れで、シロンの体力は確実に残り少なくなっていました。


『クー……』


 そんなシロンの奮闘を、クリスはつらそうな顔で見ていました。代われるものなら代わってさしあげたい、と思っているのでしょう。


「いくらなんでも、あんなの相手が悪すぎる、エミル……」


 ユーリも戦いのゆくえにハラハラしながら、ふとエミルのほうに目をやりました。


 すると、エミルはなんと、杖を振ることもシロンに指示を出すこともせず、ただ目をつぶって、両手で耳をすませているではありませんか。つまり、いまシロンは、いっさいエミルのアシストなしで戦っているのです。


 なにをやってるんだと思いましたが、エミルのことだから、またとんでもない作戦を考えているんだろうと、ひとまず信じることにしました。

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