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ワンダフルコネクト ~エミルとドラゴンのアドベンチャー~  作者: 稲葉トキオ
第1章 エミル・スターリングと水晶竜の少年

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第27話 その後のライカとクリスタイドと国内某所にて

 エミルたちと別れたあと、ファーブリアとは別の方角に【ハシリクガメ】を走らせていたライカは、


「おおうっ!?」


 と、ひとつ身ぶるいしました。


 彼女をコウラに乗せているハシリクガメが、『どうかした?』と言いたげなのんびりした声をあげます。


「いえ、いまとてつもなく尊い場面を見のがしてしまったような気がして……」


 ちょうど同じ時刻、ユーリの辛い過去を聞いたエミルが彼を抱きしめていました。


「うーん、正直、あのふたりをなりゆきをずっと見守っていたかったですねー」


 そんなふたりのことを思い浮かべて、ライカはざんねんそうにぼやきました。


「まあ、そうも言ってられない事情があるわけですけど」


 ライカはポケットの中のなにかをまさぐって、チラリとコウラの後ろ側でぐるぐる巻きになっているヴァイトのほうを見ました。


「クソッ! あんなクソガキの言うことなんか聞かなきゃ、こんなことには……!」


 ヴァイトはうらみがましく言いました。クリス強奪の依頼を引き受けたばっかりに、たいしたことないと聞いていたユーリにかみつかれ、エミルにほぼ一方的にボコボコにされ、あげくのはてに商売道具であるパートナーを、逆にすべて奪われてしまったのですから。


 そしてこれからどこかの町の警察に引きわたされ、彼に待っているのはオリの中の生活です。ちなみにカメラマンであるライカによって、犯行の証拠となる写真もバッチリ撮影されていました。抜け目がありません。


「ぜんぶあなたが選んだ行動の結果でしょう。自業自得です」


 ライカは心の底からあきれた顔でため息をつきました。


「でも、あなたはむしろラッキーだったと思いますよー」


「どこがラッキーだ! 俺はすべてを失ったんだぞ!」


「わからない人ですねー、命があるだけツイてるってことですよ。……あの子たちがやられてたら、私があなたを殺してましたから」


 ライカが、これまでのへらへらしていた彼女の態度からは考えられないほど、けわしい顔で冷たく言い放つと、ヴァイトはあまりの恐怖で全身に寒気を感じ、体じゅうから水分をたれ流しはじめました。



 ☆ ☆ ☆



 いっぽうところ変わって、ここはユーリの故郷・クリスタイドの村。


 多種多様な鉱石が産出される鉱山や、色とりどりのクリスタルが映えに生える"水晶の洞窟"を有していることで、辺境の地においても、とても栄えている村です。


 その村の中で、ひときわりっぱなお屋敷のバルコニーに、これまたりっぱな身なりの小太りの少年が立っていました。彼の名はダスト。この村の鉱山主のひとり息子です。


「おそい……! ヴァイトのヤツめ、なにをモタモタしてるんだ!」


 ダストは腕を組んで、足をトントンと踏み鳴らしてイライラしていました。


 彼はポケットマネー(おこづかい)でやとった(ダーク)ウィザード・ヴァイトに奪い取ってくるよう依頼した、村につたわる伝説の"水晶竜の子"、【クリスタルドラコ】を待っているのです。約束の時間から、すでにまる一日オーバーしています。


「待ってもムダですよぉ、ぼっちゃま。どうやらヴァイトは、しくじったようですからねぇ」


 するとうしろから、そんな甘ったるい女性の声が聞こえてきました。


 ダストが「なんだと!?」と振り向くと、そこにはハチミツ色のセクシーなドレスに身をつつんだ、美しい女性が立っていました。


「そんなワケがあるか。いくらヴァイトが格安のザコとはいえ、ユーリなんかにやられるワケがない! アイツは、ウィザードですらなかったんだぞ!」


 ダストはこぶしをぎゅうとにぎりしめて怒鳴り散らしました。その血走った目には、ユーリへの憎しみがみなぎっているようでした。


「私もそう思いましたよぉ。でも実際に見ちゃったら、信じるしかないじゃないですかぁ。ぼっちゃまも、ごらんになりますぅ?」


 そう言ってハチミツドレスの女性は、どこからともなく板状の機械を取り出し、そこにはめられた画面をダストに見せつけてきました。


 これは、まだ王都やその近辺の大きな町でしか普及していない"タブレット"という機械で、画面に情報を映し出したり、遠くにいる人と通信したりできる便利なアイテムです。


「バ、バカな……!」


 ダストはがくぜんとしました。タブレットの画面には、ゆうべのエミルたちとヴァイトの戦いの一部始終が動画として映し出されていたのです。そう、ユーリがヴァイトに一泡吹かせた場面も。


 ……ただし、一部のとあるシーンだけは、意図的にカットされていましたが。


「こ、こんなの作りモノのニセモノだろう! あるいは幻覚の魔法とか、そんな感じのヤツにちがいない!」


 おカネ持ちのおぼっちゃんとはいえ、辺境の田舎村育ちのダストには、中央のハイテク技術は受け入れがたいもののようでした。


 なにより、あろうことかあの弱虫ユーリが、闇ウィザード相手に勇敢に戦っているだなんて、とても信じられないのです。


「ザンネンながら、これはホントに起こったコトですよぉ。あたしのハチちゃんが見たものをそのまんま出力してるんでぇ。なんだったら、直接、そのおめめで見せてさしあげましょうかぁ?」


 女性は気だるげな声で、ニタリといやらしく笑って断言しました。ダストは思わずぶるっと寒気を感じて、これ以上反発するのはまずいと、しぶしぶ信じることにしました。


「くそ……ユーリめ……! どうあっても、水晶竜をボクにわたさない気か……!」


 ダストはいまいましげに、かつての同居人の名前を口にしました。


「オマエがその気なら、こっちも思い知らせてやるぞ。ボクにはむかったら、どうなるかをな!」


 ダストはいきどおりにまかせて、近くのテーブルに置かれていた花ビンをなぎ倒しました。


「ミツバ! 今度はオマエの出番だ。どんな手を使っても、水晶竜をボクのもとまで持ってこい!」


 ダストに指さされて、ミツバと呼ばれたハチミツドレスの女性は、待ってましたと笑みを浮かべました。


「どんな手を……ってコトはぁ、なにしてもいいってコトですよねぇ?」


「ああ、ボクが許す!……あ、でも、ひとつだけ」


「なんですかぁ?」


「……ヴァイトにも言ったが、殺すのはダメだ。それだけは、ぜったいに許さない」


 ダストは真剣なまなざしで命じました。


「……もちろんですともぉ。あたしたちは依頼人第一がモットーの、優良ギルドですからねぇ」


「ならいい、まかせたぞ」


「おまかせくださいませぇ、ぼっちゃま。かならずや、水晶竜をあなたさまに献上いたしましょう」


 ミツバはそのぷるっとしたくちびるをぺろっとなめて、邪悪な笑顔でうやうやしく一礼しました。


「うむ、急げよ。時間はあまり残されてはいないんだ」


「りょーかいでぇす。それでは、ごきげんよう」


 ミツバはバチンとウインクして、部屋を出ていきました。


「いまに見てろ、ユーリめ。水晶竜は、ボクのものだ。このボクにこそ、ふさわしいんだ……」


 ひとりきりになって、ダストは勝ちほこった顔でつぶやきました。


 そして、腰をくねらせながら廊下を歩いているミツバは、


「あのコたちの行き先はファーブリア……たのしいコトになりそうねぇ。ユーリちゃんはもちろん、あのコと仲よさげにしてるエミルちゃん……だっけ? 会うのが楽しみだわぁ」


 ぷるっとしたくちびるを指でぷにっとふれながら、任務におもむくのでした。



 ☆ ☆ ☆



 さらにところ変わって、また日づけも変わって、アストライト王国西部にある、けわしい山岳地帯にて。


「うーん、気持ちいい風。あのときを思い出すなあ、シロ?」『ワン!』


 やまぶき色の長い髪とひとみを持つ、ペールオレンジのマントをはおった少女が、パートナーの巨大なオオカミとともに、ガケっぷちに立っていました。


「いやー、どうもどうも、お待たせいたしましたー!」


 そこに、こげ茶色の髪をしたメガネのカメラマンが走ってやってきました。


「あー、カラスのねーちゃんじゃん、ひさしぶりー」


「ちょ、ちょっと。この姿のときはライカと呼んでくださいって言ったでしょー、おねがいしますよー」


「えー、そうだっけ? まあいいや。で、なにしにきたの?」


「まったく、あいかわらず忘れっぽいヒトですねー……」


(ホント妹さんとは大ちがいだな)


「なんか言った?」


「いえ、なーんにも! それよりきょうは、怪鳥【メテオライトバード】の討伐任務でしょ? 撮影のために同行させてくださいって、言っておいたじゃないですかー」


「おー、そういやそうだった。撮るならカッコよく撮ってよね」


「いやー、あなたを撮りにきたわけではないんですが……」


「えー、つまんないの」


「……ところで、この任務が終わったあとのご予定は?」


「んー、とくになかったと思うけど。マスターウィザードになったばっかだし、いそがしくなる前にしばらくは自由にぶらぶらするつもり」


「でしたら、"ファーブリア"の町に行ってみてはどうですか?」


「ファーブリア! 食べもののおいしい町だ! いいねえ!」


「それにもうすぐ、春のお祭りがおこなわれますから……」


「おまつり! 食べもののおいしいイベントだ! いいねえ!」


(こういうところは、姉妹そっくりなんですねー……)


「ん? またなんか言った?」


「いえ、なーんにも! ……って、ああ! 来てます来てます! 怪鳥来てます!」


 カン高い声をあげ、翼をはためかせ強風を起こしながら、隕石を思わせる炎のようなオーラをまとった灰色の巨大鳥、【メテオライトバード】が現れました。


「んじゃ、お楽しみがひとつ増えたところで、ちゃちゃっと終わらせちゃおうか、シロ!」『ワン!』


「……お楽しみは、ひとつだけじゃないですけどねー……」


「ん? またまたなんか言った?」


「いえ、なーんにも! ほらほら、来ますよ!」


「よーし、かかってこい!」『ガルルル……!』


 腰に差した、二本の白銀の剣を引き抜いて、史上最年少のマスターウィザード、エイル・スターリングは、目の前の怪鳥をニヤリと見すえました。



 かくして、いくつもの意思と思惑が、次なる舞台・ファーブリアを中心に、交差しようとしていたのでした……

ここまでお読みいただき、ありがとうございました。

これにて、第一章はおしまいです。

次回からの第二章は、ファーブリアまでの旅路のおはなしになります。エミルたちの新しいパートナーをはじめ、もっとたくさんのワンダーやウィザードが登場する予定です。

おもしろかった、つづきが気になる、

エミルとシロンとユーリとクリスを応援したい、と思っていただいたら、

ブックマーク登録や下↓の『☆☆☆☆☆』を『★★★★★』に評価していただけるとうれしいです。


あしたからは12時、21時ごろの毎日二回更新になります。よろしくおねがいします。

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