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ワンダフルコネクト ~エミルとドラゴンの大冒険~  作者: 稲葉トキオ
第1章 エミル・スターリングと水晶竜の少年
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第23話 闇夜の襲撃者 その2 覚醒

「《エナジーショット》!」


「《ブラッディファング》!」


 クリスの口から放たれたエネルギー弾をひょいとよけながら、ブラッドルフが突進してきます。そして、そのキバにまっかなオーラをみなぎらせ、かみついてきました。


「《クリスタルシェル》!」『クー!』


 クリスは水晶のバリアを張りますが、するどいキバに一瞬でかみ砕かれ、衝撃でユーリもろともふっとばされました。


「うわあっ!」『クーッ!』


 ユーリは、クリスとともに悲鳴をあげ倒れました。


 思えば、戦いで痛みを感じるのはこれがはじめてです。クリスやシロン、エミルは、いつもこんな痛みと戦ってるのか、そしてこんな痛い思いを、ぼくは相手にさせていたのかということを、胸にきざみつけました。そして、


(こんな痛い思いを、クリスにも、エミルにも、ぼくの大切なものの、だれにもさせたくない!)


 そんな気持ちが熱くこみあげてきて、カッと目を見開きました。


 ブラッドルフが、すぐさま追い打ちをかけようとしてきます。ユーリもサッと起き上がり、


「クリス! 前を見て!」


 杖を向け呼ぶと、クリスも『ク!』と立ち上がりました。そして、新たにめばえた想いをぶつけるように、魔法をとなえます。


「《クリスタルシールド》!」『クーッ!』


 クリスは声をあげ、今度は目の前に水晶でできた美しい盾があらわれました。


 盾はブラッドルフのキバをガキーンと受け止め、はね返し、今度はブラッドルフが『ガオッ!?』とうしろにふっとばされました。


「やった!」『クー!』


 ユーリとクリスは歓喜しました。ふたりの心の成長が、新たな魔法を生み出したのです。この盾は《クリスタルシェル》のように広い範囲を守ることはできなさそうですが、そのぶんずっと頑丈なようです。


『クリス、すごーい!』


 エミルを起こそうとしていたシロンも、その手を止めて目をキラめかせていました。


「どういうことだ! カンタンなシゴトのハズじゃねェのかよ!?」


 ヴァイトは歯ぎしりしました。ユーリの抵抗がよっぽど意外だったようです。


 ブラッドルフはすぐに態勢を立て直し、ユーリはむかえ撃とうとサッと杖をつきつけました。


 相手とパートナーをキズつけることをイヤがっていたユーリですが、いまはそれ以上に、自分の大切なものたちをおびやかすものが許せない、という想いで満たされていました。昼間、エミルの言っていたことがいま、完全に理解できたのです。


 そして、その想いはまた魔法というカタチとなってあらわれました。


「《ダイヤミサイル》!」『クーッ!』


 クリスのまわりに無数のとがった結晶が形成され、ブラッドルフめがけて一気に発射されました。


 これはライカの【クリスタートル】も使っていた魔法です。一度見ていたからこそ、同じく体に水晶を持つクリスにもできるんじゃないかという思いも合わさって、生まれたチカラなのです。


『ガオオオッ!?』


 結晶のミサイルはブラッドルフにズドドドッと全弾命中し、大きなダメージを与えることができました。


 ブラッドルフはドサッと倒れ、ピクピクとふるえています。


「ちょっとちょっとユーリくーん! 私のパートナーから名前ばかりか、魔法までパクるつもりなんですかー!」


 ブラッドッグの群れを相手にしながら、ライカがぎゃーぎゃー抗議してきました。どうやら彼女のクリスタートルの名前もクリスというらしいです。戦いで興奮ぎみになっているユーリは「知りませんよ!」とバッサリ切り捨てました。


「なにやってるブラッドルフ! あんなガキにいいようにやられてんじゃねェ!」


 ヴァイトは怒鳴り声をあげました。ブラッドルフは言われなくともという感じで、よろりと立ち上がります。


「遊びは終わりだ! 総員、《野生開放》!」


 そしてヴァイトが号令を下すと、ブラッドルフとブラッドッグの群れがいっせいに『アオーン!』と遠吠えのハーモニーを響かせました。


 すると、黒い犬たちの目が一様に赤く光り、全身の毛が逆立ち、うっすらとゆらぐ赤いオーラをまといました。シロンとクリスはただならぬ雰囲気を感じてか、ブルッと身ぶるいしました。


「やれッ!」『ガオーン!』


 ヴァイトのかけ声とともに、凶暴化した黒い犬の群れがユーリたちに襲いかかります。


「ク、《クリスタルシールド》!」『クー!』


 ユーリはとっさに、クリスに水晶の盾を出させますが、凶暴化したブラッドルフの迫力に圧倒され、また、さっきの攻防で気持ちを発散してしまったために防御力が落ちており、盾ごとふたりともふっとばされてしまいました。


「ユーリくん! のわあああ!」


 ライカもユーリたちのほうを振り向いた瞬間、同じく凶暴化した九体のブラッドッグに跳びかかられ、悲鳴をあげました。


 ユーリたちはその後も必死に抵抗しましたが、黒い犬たちはさっきまでより大幅にパワーアップしており、太刀打ちできずに形勢は逆転、健闘むなしく敗北してしまいました。


「う……」『ク~……』


 キズだらけでうめくユーリのそばには、クリスが目を回して倒れていました。


 ブラッドッグたちの相手を引き受けていたライカも同様で、パートナーの【テッコウキ】も、その重厚な鉄鉱石のコウラがあちこちボロボロに欠けており、敵の凶暴化による攻撃力の高さがうかがえます。


『みんなー! ……もう! エミル! はやくおきて! みんながやられちゃうー!』


 シロンは心配の声をあげ、このピンチをなんとかできるのはエミルしかいないと、いまだに眠りつづけているパートナーの体をさらに強くゆすりました。


「少々てこずったが、まァこんなモンか。ガキとカメラマンの分際で、ムダなマナ使わせやがって」


 ヴァイトは頭をポリポリかきながら言いました。彼のパートナーである黒い犬の群れは、輪になってユーリたちをとりかこみ、妙なマネをしないようにらみをきかせています。


「さて、そいつとの契約を破棄しろ。そうすりゃ、命までは取らねェでやるよ」


 ヴァイトは倒れているユーリの顔をにらみつけて言いました。


「い……イヤだ……」


 ユーリは追いつめられてもなお、要求を拒否しました。指輪の中にはまだ戦える状態のアクアやジェムがいますが、敵があまりにも強すぎるため、いまのままではパートナーたちをムダにキズつけてしまうだけだと悟って、呼び出しはしませんでした。


「ホンット、ナマイキなんだよッ!」


 イラッときたヴァイトは、ユーリのおなかを踏みつけました。


「うあっ!」『クー!』


 ユーリはうめき、となりで倒れているクリスもひとみをうるませて声をあげました。


「ガキがッ! このオレ様にッ! たてつくんじゃねェッ!」


 ヴァイトは怒りのままに、ユーリを何度も何度も踏みつけました。ユーリはそのたびうめき声をあげますが、その声はだんだん弱く、小さくなっていきます。


『ユーリをいじめるなーっ!』


 シロンはエミルを起こすのを中断して、ヴァイトを止めようと飛んでいきました。


『ガルッ!』『むぎゃ!』


 しかし、あっけなくブラッドルフの前足に踏みつけられてしまいました。


「ハァ、ハァ……これが最後通告だ。そのドラゴンをわたせッ!」


 興奮と踏みつけ疲れで息が荒くなったヴァイトは、これまででいちばん大きな声で要求しました。


「……ダ……ダメだ……! ぜったいに……わたさない……!」


 息をするのも苦しそうなユーリは、それでも要求をつっぱねました。そのひとことに、ヴァイトの怒りは最高潮に達して、


「じゃあ、くだばっちまえェ!」


 ユーリの頭を踏みつぶそうと足を大きく振り上げました。


『クーッ!』


 すると今度は、倒れていたクリスが最後の力をふりしぼって、ユーリをかばおうと立ちはだかりました。


「クソうぜェ……お前を殺しちまったら、元も子もねェだろうが……!」


 ヴァイトは、クリスに当たる寸前で振り下ろす足を止めて、いまいましげに吐き捨てました。蹴っ飛ばしてどかしてやろう、と思っていたら、


『ガウガウ!』


 そこに、ブラッドルフがうったえるようにヴァイトに吠えかけました。そして、眠っているエミルに顔を向けながら、身振りで要求を伝えます。


「ふーん、なるほど。そいつはいい手かもしれねェな」『ガウ!』


 ヴァイトが悪い笑みを浮かべると、ブラッドルフはシュバッと、いまだに眠っているエミルに向かって駆け出しました。


「や……やめろ……!」


 ブラッドルフがエミルを襲う気だと察したユーリは弱々しい声をあげ、手をのばして止めようとしますが、もちろん聞き入れてはもらえませんでした。


『エミルにさわるなーっ!』『クーッ!』


 シロンとクリスはエミルを守ろうとブラッドルフに飛びかかりますが、前足でバシッとはたかれて、やっぱりあっけなく地面に倒れてしまいました。


 ブラッドルフはグルルとうなりながら、にくにくしげにエミルの顔を見下ろします。仲間たちが倒れたこの絶体絶命の状況においても、エミルはたまごを抱いてすやすやとやすらかな寝息を立てていました。


「コイツ……この状況で爆睡かますとか、どういう神経してんだ……?」


 ヴァイトもちょっと引きながら、けれども感心したように言いました。エミルからどこか大物の雰囲気を感じ取ったのかもしれません。大物といえば……


「ん? そういやあの顔、どっかで見たことあるな……?」


 エミルは寝るときは帽子をはずしているので、当然浮き毛はあらわになっています。ヴァイトもその寝顔からエミルのお姉さん、エイル・スターリングの影を見たようです。


「まあ、いいや。おいガキ、そこの眠り姫を痛い目にあわせたくなきゃ、契約を破棄しな。これなら従わざるをえないだろ?」


 ヴァイトはニヤリと口角を上げて、ふたたびユーリに要求しました。自分をここまで不快にさせた相手を、ただ殺すのではなく、最大の苦痛を味わわせる。わがパートナーながらナイスアイディアだと、ブラッドルフをほめてやりたい気分です。


「ぐ……!」


 さすがにエミルが人質にされたとなれば、ユーリも考えてしまいます。クリスとエミル、どちらかだけを助けるなんて、選べるわけがありません。


「フン、いっちょまえに悩みやがって。だが、お姫さまのかわいい顔にキズでもつければ、気も変わるだろ! やれッ!」『ガウッ!』


 ブラッドルフはエミルのしあわせそうな寝顔にツメを立てようと、前足を振り上げました。


「や、やめろーーーっ!」


 ユーリは必死に叫び、起き上がろうとしますが、体がいうことを聞いてくれません。


 そして無情にも、エミルの顔が切り裂かれ……



 げしっ!



『アオッ……!』


 ……ようとした瞬間、ブラッドルフの脇腹に衝撃が走りました。そしてそのまま、地面にドサッ……と倒れました。


「な……!?」


 ヴァイトとユーリは、そろって驚愕しました。ブラッドッグの群れも、リーダーが突然蹴っとばされたことでおくちあんぐりです。


 二人はたしかに見ました。ブラッドルフがエミルの顔をひっかこうとしたそのとき、毛布からぬっと出てきた足が、脇腹にめりこんだその衝撃的なシーンを。


 まわりの時間が止まったような静けさがおとずれた、数秒ののち、


「……ったく、さわがしいなあ……」


 そんな気だるげな声とともに、蹴りをくらわした張本人である眠り姫、エミルが、ひとつ大きなあくびをして目をさましました。

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