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ワンダフルコネクト ~エミルとドラゴンのアドベンチャー~  作者: 稲葉トキオ
第1章 エミル・スターリングと水晶竜の少年

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第13話 魔法と杖の話

 ランチタイムを再開していたときのことです。ユーリはさっきの決闘で気になったことがあったので、エミルにたずねました。


「思ったんだけど、さっきの彼……エースは杖を持ってなかったよね? ウィザードならみんな、杖を持ってるものじゃないの?」


 エミルがふだん使っていて、いまは仲間のアクアとの戦いで自分も使った、パートナーとの心をつながりを強くするためのアイテムのことです。たしかにエースは、それらしきものは持っていませんでした。


 エミルはサンドイッチをごくんと飲みこんだあと、口をぬぐってこたえました。


「うーん、それは人によるね。杖はむかしからウィザードのあいだで使われてるアイテムで、初心者でもパートナーと心をつなげやすいっていう利点はあるけど、近年はほかのアイテムを使う人もいれば、べつにいらないっていう人も多いんだよ」


「え? そうなの?」


 ユーリはあっけにとられて、目を丸くしました。


「うん、たとえばお姉ちゃんは、剣を使うし」


「ああ、そういえば、新聞記事の写真でも剣を腰に下げてたね」


 エミルが旅立つ前日に出たマスターウィザード認定記事の写真にも、二本の剣を腰に差したエイルお姉ちゃんがうつっていました。ちなみに、エミルはいまも旅行カバンの中に入れて持ち歩いています。


「お姉さんは、どうして剣を選んだの?」


「かっこいいから」


 しれっと答えたエミルに、ユーリはまたあっけにとられて、さらに目を丸くしました。


「か、かっこいいからって、そんな理由で?」


「"そんな理由"がだいじなんだよ。ウィザードにとっていちばん重要なのは心、精神、気持ちだもん。わかるでしょ?」


 エミルに言われて、ユーリはハッと思い出しました。さっきのアクアとの戦いのとき、クリスを想う気持ちのおかげで魔法を覚え、勝利をつかんだことを。それに杖をにぎっていると、ふしぎと勇気がわいてくるような、物語の魔法使いにでもなったような、気が高ぶる感じがしたことも。


「なるほど……気持ちか。たしかに自分がかっこいいと思ってるものになりきってると、気分が盛り上がるもんね。それなら杖なんかいらない、っていう人も、それ以外のものを使いたいっていうのもわかるかな」


 ユーリにもはずかしながら、そんなおぼえがあるみたいです。小さいころはひとりでごっこ遊びとかしてたのでしょうか。


「お姉さんがすごいのは、そういう気持ちをずっと大事にしつづけてるからなんだね」


「それだけじゃないよ。"健全な精神は健全な肉体に宿る"って言うからね。体の強さも心の強さ、ウィザードのチカラにつながって、それはパートナーのチカラにつながるの。お姉ちゃん、体力オバケだから、そのぶんパートナーもすっごくパワフルなんだよ」


『シロ、すっごくちからもちで、足もはやかったもんねー!』


 エミルとシロンはもう何個目かのサンドイッチを手に取って、ひとかじりしました。ほんとうによく食べるなあ、とユーリは心のなかでつぶやきました。


「すると、ウィザードの強さって、パートナーのワンダーの強さだけで決まるわけじゃないんだね」


「そうだね。ウィザード自身の体力や精神はもちろん、知識だって重要になる。ただ強いワンダーをパートナーに持ってるってだけじゃ、すごいウィザードとは言えないんだよ」


 シロンもとなりで『そうそう!』と声をあげました。


「そうか、やっぱり強くなるのって、大変なんだね」『クー!』


 ユーリはかたわらのクリスの頭をなでながら、ためいきをつきました。


「そうだよー、たいへんなんだよー」『だよー』


 エミルはかたわらのシロンの頭をなでながら、いたずらっぽく言いました。


 エミルは軽く言ってのけていますが、きっとほんとうに大変な思いをしたんだろうな、とユーリは思いました。はたしてへなちょこの自分は、彼女のようになれるのでしょうか。


「そういえば、エミルはお姉さんみたいに、剣を使おうとは思わなかったの?」


 お姉ちゃん大好きっ子のエミルなら、お姉さんをマネて剣を使っていてもおかしくないのに、と思っての質問です。


「わたしも最初はそうしようと思ったんだけど、剣って重たいからねえ。お姉ちゃんみたいにバカ(ぢから)じゃないから、小さいころにあきらめちゃった。いまならけっこう振り回せるとは思うんだけどね」


「お姉さんって、そんなに腕力あるんだ……」


 ユーリはちょっとおののきました。お姉さんもそうですが、剣を振り回せると言ってのけるエミルにも。


「そうだよー、何段も積みあがった木箱だって、ひとりでひょいひょい運んじゃうんだから。なんだったら、そこらの野生のワンダーなら、パートナーにたよらず自力でやっつけちゃうくらい」


 大好きなお姉ちゃんのことなので、エミルはふふーんと自慢げに語りました。


「そ、そうなんだ、すごいね……」


 ユーリは驚嘆を通り越して、驚愕しました。だからこそ最年少でマスターウィザードになれたのか、と納得もしました。


「だから、わたしは杖を選んだの。ほら、剣士と魔法使いの組み合わせは冒険物語のお約束だし、なによりウィザードは魔法使いっていう意味でもあるし、かっこいいもんね!」


 エミルは取り出した杖をしゅっと振って、とくいげな顔で言いました。きっと頭のなかでは、剣を持つお姉さんと、杖を持つ自分がならび立っているところを想像しているのでしょう。


「へえ、ウィザードって言葉、魔法使いっていう意味なんだ」


「そうだよ。むかしワンダーがまだ魔物とかモンスターとかって呼ばれてた時代、魔法を使える人たちのことをそう呼んでたみたい」


「え? でも人間は魔法を使えないはずじゃ?」


「うん。実際は人間と契約を結んだ精霊によるものだったんだって」


 精霊……火や水に風や土など、自然が意思を持ったような生命体のことです。もちろん、現代では魔法生物(ワンダー)に分類されています。


「なんだか、いまのウィザードとパートナーの関係みたいだね」


「まさにそう。でも当時は精霊と契約できたり、それどころか姿を見ることができる人も少なかったらしいよ。だからそういう人たちからは人間が魔法を使った、って思われてたみたいで、魔法使い(ウィザード)って呼び方が定着したんだって」


「なるほど、つまり、むかしはウィザードは限られた人しかなれなかったわけか。でもいまは、だれもがワンダーとパートナーになれるんだよね」『クー!』


「うん、そう考えると、わたしたちってすごくいい時代に生まれてこれたんだなって思えて、うれしくなっちゃう」『シロンも! エミルとパートナーになれて、すっごくうれしい!』


 そう言ってほっぺをすりあうエミルとシロンを見て、ユーリも胸が熱くなる思いでした。


「魔法使い、ウィザードか……そのなりたちを考えたら、たしかに杖を手に取りたくなるかもしれないね」


 ユーリは自分の杖をじっと見つめて言いました。


「その杖は、とりあえずわたしがあげたものだけど、この先もしかしたら、ほかにユーリにぴったりのアイテムが見つかるかもしれないよ?」


「そうかなぁ……ぼくは、この杖のままでもいいと思うけど」『クー!』


 ユーリは、なによりエミルからはじめてもらったプレゼントなので、ずっと使いつづけたいと思っているのです。


「でもユーリには杖より、剣のほうが似合いそう」


「ど、どうして?」


「だって、いろいろ想像してみたら、それがいちばんかっこいいって思ったんだもん」


 ユーリはボワッと一瞬で、顔をまっかにしました。


『ユーリ、だいじょーぶ?』『クー?』


 まっしろなドラゴン二体の心配する声も、いまのユーリにはとどきませんでした。

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