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ワンダフルコネクト ~エミルとドラゴンの大冒険~  作者: 稲葉トキオ
第1章 エミル・スターリングと水晶竜の少年
10/21

第10話 ワンダーとウィザード(前編) ぼくのはじめての戦い

「ほら、ちゃんと魔法となえて!」


「ワ、ワンダーの相手はおまかせあれって、エミル言ってたじゃない!」


「それはそうだけど、旅する以上は、最低限自分の身を守るすべくらいおぼえなきゃ!」『そうそう!』


 エミルは笑顔で、および腰のユーリの背中をぐいっと押しました。エミルの肩の上のシロンも元気な声援をおくってくれています。


 そんな一行の目の前では、ユーリのパートナーの白いドラゴンの子・【クリスタルドラコ】のクリスと、弾力のある水色のスライム・【プルリン】がにらみあっていました。


 さかのぼることすこし前、ユーリ手作りのおいしい朝ごはんを食べたあと、旅を再開してサンタート平原を進んでいたエミルたちは、野生のプルリンと出くわし、戦いを挑まれたのです。


 プルリンは、すべてのワンダーのなかでも、最も戦うチカラが弱いとの呼び声が高く、ちょうどいいと思ったエミルは、ウィザードとしてはシロウトのユーリに経験をつませてあげようと、戦いを彼らにまかせることにしたのです。そのために、持っていた予備の杖も貸してあげました。エミルが使っているものより質は落ちますが、それなりにいい杖です。


『プルーッ!』


 ユーリがまごまごしているうちに、プルリンが名前のとおり体をプルプルとふるわせて、クリスにぽよよーんと体当たりをかましてきました。


『クーッ!?』


 まだ生まれたばかりだというクリスは、どうすればいいのかわからず、無防備のままドンと体当たりを受けてしまいました。その体は宙を舞って、ユーリの足もとまでぽてっと落ちてきました。


「クリス! だいじょうぶ?」


 ユーリはクリスを助け起こそうとしますが、クリスは力強く『クー!』と鳴いて、自力でぴょこっと立ちあがりました。けなげにも、パートナーを心配させまいとしているのでしょう。


「だいじょうぶだよ、ドラゴンの体はじょうぶなの。ちょっとやそっとじゃ、びくともしないから」


 エミルは不安げなユーリを安心させようと解説しました。


 エミルの言うとおり、ドラゴンのウロコや皮膚はとても頑丈で、それは子どものものでも、そこらのワンダーの攻撃でカンタンにキズついたりはしないのです。


『でもでも! うけてばっかりじゃダメ! こっちからもせめなくちゃ!』


 シロンの言うとおり、いくらドラゴンの体が頑丈でも、けっして無敵というわけではありません。8年前ブラッドッグにボロボロにされた経験があるだけに、説得力があります。


「せ、攻めるっていったって、どうやって……」


 ユーリはおずおずとエミルの顔を見てたずねました。


「杖を振って、魔法をとなえればいいんだってば」


「魔法なんて、わからないよ~!」


 ユーリがおどおどしていると、杖を持つ右手をエミルが両手でぎゅっとにぎってきたので、ドキッとしました。ユーリの右手にほんのりと、おひさまのようなあたたかなぬくもりが伝わっていきます。


「まずは落ちついて、心のなかでクリスのことを想ってみて」


 エミルのやさしい顔と声のおかげで、ユーリはおちつきをとりもどしました。


「こころの、なか……?」


「ウィザードはね、パートナーと心をあわせて、いっしょに戦うものなの」


「いっしょに?」


「うん。ウィザードとパートナーは、見えない糸、絆の糸でつながってるの。だから、ウィザードの心と体の状態がパートナーにも影響しちゃう。いまのユーリみたいに弱気だったら、クリスもうまくチカラが出せない。けど、ふたつの気持ちがひとつになれば、すごいチカラが出せるんだ。まずはパートナーを想うことが、パートナーの助けになりたいって願うのがだいじなんだよ」


 エミルの熱心なアドバイスを受けたユーリは、言われたとおり、目を閉じて心のなかでクリスのことを想ってみました。


 クリスを助けたい、チカラになりたい、いっしょに戦いたい。


 そう願うとユーリは、胸からあたたかいものが全身にひろがっていくのを感じました。それと、自分とクリスがつながったような、ふしぎな感覚も。


(クー!)


(うん、わかる、わかるよ……クリスのチカラが……クリスのできることが伝わってくる!)


 そうしているうちに、プルリンがもう一度、クリスに体当たりをしかけようと体をふるわせてきます。


「来るよ!」『やっちゃえー!』


 エミルとシロンが声援をおくり、ユーリは今度はやらせないと目を見開いて、杖を前に向けて叫びました。


「《クリスタルシェル》!」『クー!』


 するとクリスは鳴き声とともに、自分のまわりに、半透明の水晶でできたドーム状の防壁(バリア)を展開させました。


 跳びかかってきたプルリンの体はバリアにばいんとはね返されて、そのままぼよん、と地面に倒れました。


「いまだよ! 攻撃の魔法!」


「え、《エナジーショット》!」『クー!』


 エミルにうながされユーリが叫ぶと、クリスは口をぱかっと開けて、そこから白く光るエネルギーのかたまりを放ちました。


『プルーッ!?』


 放たれたエネルギーは、プルリンに命中するとバーンとはじけて、その体をうしろへふっとばしました。プルリンはべしゃっと地面に落ちると、そのまま目をグルグルまわして、気を失いました。


「か……勝ったの……?」


 ユーリは杖を前に向けたまま、信じられない、といった顔と声でつぶやきました。


「そうだよ、ユーリと、クリスの勝ち!」


 エミルはそんなユーリの顔をのぞきこんで、にっこりと笑いました。


『クー!』


 クリスは『やったね!』という感じの声をあげて、放心ぎみのユーリの胸にぴょーんと飛びこんできました。


 ユーリはクリスをやさしく受けとめると、ようやく勝利を実感できたのか、笑顔になりました。


「……うん、そうだね、やったねクリス、ぼくたちの勝ちだ!」『クー!』


「ふたりとも、初勝利おめでとう!」『おめでとー!』


 エミルたちも、ユーリたちの勝利を祝福しました。シロンとクリスはおたがいにほっぺをすりあわせました。


「ありがとうエミル。おかげでウィザードっていうのがどういうものか、すこしわかった気がするよ。さすがはエイル・スターリングの妹さんだね」


「えへへ……わたしも正直、人に教えられるほどの立場じゃないんだけど、お役に立てたならよかった」


 ユーリにお礼を言われて、エミルは指でほっぺをかきながら照れ笑いしました。さすがエイルの妹、なんていうのは、お姉ちゃんを尊敬するエミルにとっては最高のほめ言葉なのです。


「この杖も、すごいね。クリスとつながった気になるし、ぼくが思ったところに魔法が出る感じだ」


 ユーリはうれしそうに杖を見つめました。


「杖はパートナーとの心のつながりを高めるためのアイテムなんだ。魔法の効き目もよくなるんだよ」


 エミルも自分の杖を取り出して、ふふーんととくいげに説明しました。


「そうなんだ……」


 ユーリが感心していると、エミルはまたにっこり笑顔で、両手をひろげて言いました。


「だから、その杖はユーリにあげる。わたしからのプレゼント!」


「え、いいの? こんなだいじなもの……」


「いいのいいの。それ、予備の杖だから。ちょっともうしわけないけどね」


 エミルはてれくさそうに笑いました。


「……わかった。受け取らせてもらうよ。ありがとう、エミル」


 ユーリもやわらかくほほえんでお礼を言いました。そして、杖を強くにぎりしめました。はじめての友だちからの、エミルからのプレゼント、ずっと大事にしようと強く思いました。


「どういたしまして!」


『ましてー!』『クー!』


 ふたりと二体がなごやかな雰囲気になっていると、


『プ……プル……』


 クリスに負けて、気を失っていたプルリンが意識をとりもどして、べしゃっとつぶれたままの体で起きあがろうとしていました。


 まっさきに気づいたエミルはとっさに警戒しますが、プルリンの体は弾力を失いふにゃふにゃになっていて、うまく動くことができないようでした。


「……!」『ク!』


 プルリンの弱々しい姿を見かねたのか、ユーリは倒れているプルリンのもとへ駆けよりました。クリスもそのあとをとてとてとついていきます。


「あ、ユーリ!」


 エミルは、ユーリを呼び止めようとしました。いくら相手が弱っているからといって、油断してはいけません。手負いのワンダーほど、おそろしいのです。痛いしっぺ返しをくらうかもしれないのです。エミルは幼いころから、たくさんの野生のワンダーを見てきているので、その危険性も知っているのです。


「だいじょうぶ? ごめん、ちょっとやりすぎちゃったかもしれないね」『ク~』


 ユーリはしゃがみこんで、倒れたプルリンにあやまりました。クリスも、もうしわけなさそうな声で鳴きました。


 エミルの予想と反して、プルリンはしかえしをするそぶりもなく、むしろ、ユーリにやさしい言葉をかけられて安心したのか、ふにゃりとしたおだやかな顔を浮かべました。どうやら、もうこちらに敵意は持っていないようです。


 うしろからようすを見ていたエミルも、そう判断して警戒をときました。それから、ごそごそとベストのポケットから青い液体……ワンダーのキズを治す薬の入ったビンを取り出して、ユーリにわたしました。


「ユーリ、これ、その子に使ってあげて」


「ありがとう」


 ユーリは、受けとった薬のビンを開けて、プルリンの口から飲ませてあげました。


 ビンの中の青い液体が水色の体に吸収されていくと、プルリンはみるみるうちに元気と弾力をとりもどしました。


『プルーッ!』


 回復したプルリンは笑顔でぴょーんと跳びはねたので、ユーリはほっと安心しました。


『プルルー!』


 すると、プルリンがぴょいん、とユーリの体にすりよってきました。ユーリは「わっ」とおどろいて、とっさにプルリンを抱きとめます。


『ねえ、そのコ、ユーリとパートナーになりたいっていってるよ!』


 シロンはプルリンの意外な提案を通訳しました。

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