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ワンダフルコネクト ~エミルとドラゴンの大冒険~  作者: 稲葉トキオ
プロローグ エミル・スターリングと太陽の姉妹
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第1話 流れ星とお姉ちゃんとドラゴンと

はじめての連載です。どうぞお楽しみください。

 ここは人間と、"ワンダー"と呼ばれるふしぎなチカラを持つ生きものたちがともに暮らす、ふしぎな世界。


 ワンダーのすがたかたちはさまざまで、動物に植物、妖精にドラゴン、モノやヒトの見た目をしているものなど、数えきれないくらいたくさんの種類がいます。


 人間はふしぎなチカラを使えたりはしませんが、ワンダーたちと絆を結び、パートナーとなることで、そのチカラをかしてもらうことができました。そんな人間のことを"ウィザード"と呼びます。


 これはそんな世界を舞台にくりひろげられる、あるひとりの女の子と、そのパートナーのドラゴンのおはなしです。



 ☆ ☆ ☆



「うっ……ぐすっ……ひっく……」


 4歳の女の子エミルは、暗い暗い森の中をとぼとぼ歩きながら、めそめそ泣いていました。


 ここはエミルが住む村の近くにある深い森で、一度入ったらなかなか出られないというやっかいな場所です。村の大人たちもふだんから、子どもだけでこの森には入っちゃダメだと、口をすっぱくして教えていました。


「おねえちゃあ~ん……!」


 エミルは助けをもとめて叫びました。エミルがいちばんたよりにしているひとへ……



 ――エミルのお姉さんは、毎日のように野山を駆けまわっているような、超がつくほど元気な女の子です。


 ひとりで危険な場所に行ったりするなんていうのは日常茶飯事で、大人たちもこまっていましたが、いつもなんだかんだ無事で帰ってくるので、そのうち「あの子は心配も注意もするだけムダだ」と、ほっとかれるようになってしまうほどたくましい子どもなのです。


 そのありあまる元気を仕事のお手伝いや人助けのために使ったりもしていたので、大人たちもあんまり強く言えなかった、というのもありますけれど。


 さて、そんなお姉さんとは正反対に、妹のエミルはひかえめでおとなしい子で、大人のいいつけをやぶるようなことはしない子でした。


 ですがその反面、元気いっぱいでいつも自分を引っぱってくれるお姉さんのことをかっこいいと思っていて、ひそかにあこがれていました。なにより、自由奔放でありながらも、妹の自分のことはとてもかわいがってくれるお姉さんのことがだいすきでした。だからいつか、自分もいっしょに冒険に連れていってほしい、と思っていました。


 そんなある日の夜のこと、エミルたち姉妹が家の窓から空を見上げていると、森のほうにキラキラ光る流れ星が落っこちたのが見えました。


 お姉さんはすぐに「流れ星ひろいにいってくる!」と、思いつきのまま家を飛びだしていってしまいました。そこで、エミルもいい機会だとおもいきって、お姉さんのあとをこっそりついていくことにしたのです。


 ――そして森に入ったところ、あっというまにお姉さんを見失ったうえ、迷子になってしまい、今にいたる……というわけなのでした。



「うう……ぐすっ……」


 夜の森はまっくらでまわりがほとんど見えず、おまけに、エミルの耳にはケタケタとブキミな笑い声のようなものまで聞こえてきて、まるでおばけ屋敷の中にいるみたいな気分です。


 エミルには、ときどきこういうことがありました。まわりにはだれもいないはずなのに、なにかの声が聞こえてくるのです。最初はこわかったですし、夜眠れないこともありましたけれど、そのたびお姉さんが元気づけてくれましたし、いまはもうすっかり慣れたので、なにごともなく暮らしていました。


 ……のですが、いまこの状況では最悪でした。あたりはまっくらで、自分ひとりきりなんですもの。この不安と恐怖は、慣れではどうにもなりませんでした。


「う……」


 泣き疲れたエミルは、その場にしゃがみこんでしまいました。そんなとき、



 ――たすけて……だれか……たすけて……!



 どこかからそんな声が、エミルの耳に響いてきました。


 エミルは顔を上げてきょとんとしました。一度は気のせいかと思いましたが、そのあとも何度かおなじような声が聞こえてたので、どうやらそうじゃなさそうです。


 その声は自分の心に直接うったえかけてくるようで、なんだかほうっておけない気持ちになったエミルは、勇気をふりしぼって声のするほうへと駆けていきました。



 ☆ ☆ ☆



『ピー! ピー!』


『ガルルルル!』


 向かった先でエミルが見たのは、翼が生えた白いトカゲのような小さな生きもの……ドラゴンの子どもが、黒い犬のワンダーに襲われているところでした。


 どうやら助けをもとめる声は、あのドラゴンのものだとエミルは直感しました。ドラゴンの白い体がうっすら光を放っているおかげで、暗い中でもこのあたりのことはなんとか見わたすことができ、状況をつかむことができました。


 目の前のワンダーたちを、エミルは図鑑で見たことがあったので知っていました。白いドラゴンの子どもは【ホワイトドラコ】、黒い犬のほうは【ブラッドッグ】という種のワンダーです。


 ドラゴンはワンダーのなかでもとくにめずらしく、なんでこんなところにいるんだろうと疑問に思いましたが、いまはそんなことを考えている場合じゃありませんでした。


(どうしよう……あの子をたすけなきゃ……)


 けれど、名前のとおり血に染まったようなまっかな目をした、見るからに凶暴そうなブラッドッグを前にして、エミルはふるえて動けずにいました。


(おねえちゃん……!)


 エミルは目をつぶって、心のなかでまたお姉さんのことを呼びました。


 すると、いまよりもっと小さいころ、野生のワンダーに襲われたとき、お姉さんが必死になって助けてくれたことを思い出しました。それはエミルにとって、お姉さんがだいすきになるきっかけになった、たいせつな思い出でした。


(そうだ、わたしも……おねえちゃんみたいに……!)


 お姉さんをあてにするんじゃなく、自分でどうにかしよう、と思ったエミルはキッと目を開き、そばに落ちていた手ごろな大きさの石をひろって、ブラッドッグにおもいっきり投げつけました。


 ドカッ!


『キャンッ!』


 うまいこと脇腹に石をぶつけられたブラッドッグは、びっくりして森の奥へと走って逃げていきました。


 それをおっかなびっくり見とどけたエミルは、心のなかでごめんね、とあやまりながら、ホワイトドラコのもとへ駆け寄りました。


「だいじょうぶ!?」


『ピー……』


 ホワイトドラコは息を荒くしていて、とても弱っていました。ブラッドッグにさんざんやられたのでしょう、体じゅうあちこちキズだらけです。ほうっておけば命があぶないと、幼いエミルにも理解できました。


 エミルはどうしようどうしよう、とあたふたすると、腰のあたりでなにかがコロン、と動いたのを感じて、ハッと思い出します。そして服のポケットから、きれいな青色の液体が入った小さなビンを取り出しました。


 この液体は、ワンダーのキズを治すための薬です。人間にもある程度効き目があるというので、しっかり者のエミルがもしものため、出かけるときはいつも持ち歩いているものです。


 エミルはビンのフタをきゅぽんとあけて、中身をホワイトドラコに飲ませてあげました。すると、その体のキズはみるみるふさがっていき、顔色もよくなっていきました。薬を実際に使ったのははじめてなので、思った以上の効き目にエミルもびっくりです。


『ピー!』


 ホワイトドラコは元気を取りもどし、笑顔で小さな羽をパタパタと動かしました。エミルも「よかったね」とにっこり笑いました。


『ピイ! ピイ!』


 ホワイトドラコはあかるい声をあげて、あまえるようにエミルにすりよってきました。自分の命を助けてくれたエミルに感謝しているみたいです。


「えへへ……」


 エミルは、だれかを助けられたということがうれしくって、顔をふにゃりとゆるませました。さっきまで迷子になって泣いていたことなんて、すっかり忘れてしまったみたいです。


 エミルがあまえてくるホワイトドラコを抱きしめようとした、そのときでした。


『ガウガウガウガウ!』


 なごやかな雰囲気をぶちこわすように、さっき逃げていったブラッドッグがたくさんの仲間たちを連れてこちらに向かってきました。どうやら、エミルに石をぶつけられたしかえしに来たみたいです。


「きゃーっ!」『ピーッ!』


 エミルとホワイトドラコはびっくりして抱きあって、飛びあがるほど大きな悲鳴をあげました。


『ガウガウガウガウ!』


 ブラッドッグの群れが、どんどんふたりにせまってきます。


 エミルはとっさにホワイトドラコをかばうように、犬たちの前に立ちはだかりました。この子を守らなきゃと思ったら、体が勝手に動いていたのです。


『ガオーン!』


 ブラッドッグの群れは、エミルにキバをむいて跳びかかってきました。


『ピーッ!』


 ホワイトドラコが涙目で声をあげ、エミルが観念して目をつぶった次の瞬間、


 ゴオーッ!


『キャオーン!』


 突然、どこかから放たれた炎に、ブラッドッグの群れはまとめてふっとばされました。


「え……?」


 なにが起きたの、とエミルがおそるおそる目を開けると、そこには白い犬を連れた、やまぶき色の長い髪とボロ布のマントをなびかせた女の子が立っていました。


「おねえちゃん!」


 すると、恐怖でくもっていたエミルの顔がぱあっとあかるくなりました。


「よっ! エミル!」『ワン!』


 マントの女の子は、エミルのほうを振り向いて笑顔でこたえました。髪と目の色以外、エミルとうりふたつの顔の彼女こそ、エミルの4つ上のお姉さん、エイルです。いっしょにいる雲のように白い中型犬は、彼女のパートナーのワンダー【クラウドッグ】です。


『グルルル……』


 姉妹の感動の対面のあいだに、ふっとばされたブラッドッグの群れは起きあがって、ふたたびこちらに襲いかかろうと態勢を立て直していました。


 エミルとホワイトドラコが「う……」とおびえて身じろぎすると、エイルは妹の頭をぽん、となでて、


「だーいじょうぶ、おねえちゃんにまかせて」


 安心させるように言うと、ブラッドッグの群れのほうに向きなおりました。そしてパートナーといっしょに犬たちをキッとにらみつけて、


「帰れ」


 と、ひとこと発すると、今度はブラッドッグの群れがビクッとおびえだし、


『クゥ~ン……』


 そのままもと来た森の奥へ、すごすごと逃げていきました。


 エミルとホワイトドラコは、ぽかーんとしていました。


 ブラッドッグたちの姿が見えなくなると、エイルはくるりと振り向いて、


「もう安心だよ。あいつら、しゅーねんぶかいけど、ぜったい勝てないってわかった相手には、むかってこないから!」『ワン!』


 ニカッと笑って言いました。


 エミルは緊張の糸が切れて、ひとみにうるうると涙を浮かべながら、


「おねえちゃーん!」


 エイルの胸に思いっきり抱きつきました。


「ったく、この森には入っちゃダメって言われてるでしょ、いけない子だなー」


「ぐすっ……ごめんなさ~い……」


「わかればよろしい!」


 日ごろから立ち入り禁止の場所に入り放題の自分のことは棚にあげる、もっといけない子のエイルおねえちゃんは、抱きついている妹の頭を何度もなでまわしました。


 そうしていると、エイルは妹の足もとにいるホワイトドラコに気づいて、たずねました。


「そのコは?」


「あ、えっとね、さっき、くろい犬におそわれてたのを、たすけたの」『ピー!』


 ホワイトドラコも『そうだよ!』と言いたげにうれしそうな声をあげました。


「へー! えらいね! さすがわたしの妹だ!」


 エイルはとても誇らしげに笑って、さっきより多く妹の頭をなでまわしました。


「えへへ……」


 だいすきなおねえちゃんにほめられて、エミルはふにゃりととろけた笑顔になりました。まるで子犬のようです。


「でもこのコ、トカゲじゃないよね? ドラゴンだよね? わたしもはじめて見たよ。そんなコと友だちになっちゃうなんて、わが妹ながらすごいな~」


 エイルは、またまた妹の頭をなでまわしますが、エミルの顔が今度はすこしずつしょんぼりとしていきました。


「……ぐうぜん会っただけだよ。おねえちゃんのほうがずっとすごいよ。わたしは、あんなにたくさんのワンダーを、おっぱらったりできないもん……」


 エミルはうつむきながら、自分の無力さをなげくようにつぶやきました。まだ4歳なのでしかたないといえばそうなのですが、エミル本人にとってはそんなこと関係ないのです。


「そうだね、戦うチカラなら、わたしのほうがずっとすごいね」『ワン!』


 そんな妹に対して、エイルはきっぱりと言い切りました。クラウドッグも、それに同調するように鳴きました。せめてもうちょっと、言い方とかなかったんでしょうか。


 と思っていたら、お姉さんはエミルの頭を一度ぽんとたたいて、つづけて言いました。


「でもね、ウィザードの才能なら、エミルのほうがずっとすごいと思うよ」


 お姉さんの言葉に、エミルはハッとしてたずねました。


「どうして、そうおもうの?」


「んー、なんとなく!」


 そう笑いとばしたお姉さんを見て、エミルはきょとんとしたあと、「なにそれー」といっしょになって笑いました。さっきまで落ちこんでいた気分は、ウソみたいにふきとんでいきました。


「ふあ~っ……じゃ、そろそろ眠たくなってきたし、わたしたちも帰ろっか! ……あれ? そういやわたしって、なにしにこの森に来たんだっけ? まあいっか」


 大あくびをかましたエイルは、流れ星を探しに来たことなんてすっかり忘れていました。エミルもホワイトドラコを助けたことなどで必死で、どうでもよくなっていました。


「それはいいけど……かえりみち、わかるの?」


「んー、だいじょーぶだよ、この森おねーちゃんもよく迷うけど、走りまわってりゃいつか出られるよ。でも、またエミルがはぐれたりしたらやだからなぁ、だから、ほいっと!」


 エイルは、身につけていたボロマントをはずして、妹にかぶせて、ひょいっとおんぶしてあげました。


 エミルは一瞬「ひゃっ!」とびっくりました。おねえちゃんてば8歳なのに、ずいぶんな力持ちです。


「これなら、はぐれっこない! じゃ、いっくよー……」


「ま、まって!」


 エミルは、走りだそうとしたお姉さんを呼び止めました。そして、足もとでさみしそうな目でこちらを見上げるホワイトドラコに、マントのあいだから手をさしのべて、


「おいで! いっしょにいこう!」と、笑顔でさそいました。


『ピーッ!』


 暗かったホワイトドラコの顔が、ぱあっとあかるくなって、ぴょーんとエミルの肩の上に飛び乗ってきました。エミルとホワイトドラコはおたがいに、これからもずっといっしょにいることを、パートナーになることを選んだのです。


「へへっ、それじゃあ、あたらしい家族がふえたところで、みんなでおうちへレッツゴー!」


「おー!」『ピー!』『ワン!』


 妹とホワイトドラコを背負ったエイルは、オトナ顔負けの猛スピードで森の中を駆けていきました。パートナーのクラウドッグも、それに合わせて追走していきます。


「わーっ!」『ピーッ!』


 お姉さんの背中の上でエミルとホワイトドラコは、興奮して声をあげました。


「ねえ、おねえちゃん」


「なーに?」


「つぎからは、わたしもぼうけんにつれてってくれる?」


 かわいい妹からのおねがいに、エイルは一瞬きょとんとしたあと、にっと笑ってこたえました。


「……もちろん! わたしがどこにだって、つれてってあげる! これからわたしたち姉妹は、いつだって、ずーっといっしょだ!」


「やったあ! おねえちゃん、だーいすき!」


 エミルは満開の笑顔を咲かせて、お姉さんにぎゅっとしがみつきました。


「わたしもだよー!」


 エイルも妹のまっすぐな愛情がうれしくて、にっこり笑顔を浮かべます。


『ピー!』『ワン!』


 パートナーたちも、とってもうれしそうです。


 こうして姉妹とそのパートナーたちは、森の中を爆走しつづけ数十分後、自分たちの家へと帰りつきました。



 ――わたしたち姉妹は、ずっといっしょ。


 約束どおり、次の日からエイルは毎日のように、エミルをいっしょに冒険へと連れだしてくれました。もちろん、エミルとパートナーになったホワイトドラコもいっしょです。


 村の大人たちは、エイルの奔放さに妹のエミルまで巻きこまれたと一時はなげきましたが、やっぱり、そのうちなにも言わなくなりました。


 お姉さんとの冒険は、エミルにとってはハラハラドキドキの連続で、ついていくのでせいいっぱいでしたけれど、あこがれの、だいすきなおねえちゃんといっしょにいられることが、なによりもうれしかったのでした。


 しかし4年後、ある事件をきっかけに、姉妹のしあわせな日常は終わりをむかえるのです。

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