チョコレートになった男
ある日、チョコレートになっていた。
右手も左手も右足、左足も。
少し暖かい場所では、表面がぬるっと、して
溶けてくる。
少し涼しいところなら、なんとか普段どおりに生活可能である。
ある日を境に、厄介な体質というか、身体になってしまった。
古くからの友人である、葉山君に頼み、ぼくの溶け出した身体について、大学の研究施設で成分を調べてみたところ、カカオとココアバターがかなりの割合で含有されていたことがわかった。
わたしは、どんなことにも動じない性格なので、そうなのかと内心、少しは驚きはしたが。それ以上に動揺する訳でもなかった。
身体の表面をカッターのようなもので傷をつけても、チョコレートそのものなので、痛みもなく、出血もなかった。切断されても、切断面同士をしっかりと温めて圧着すれば、なんとか元に戻ることがわかった。
普段、外出時に身体が溶け出すと大変なので、暖かい日の外出は避けるようになった。
不便ではあるが、利点もあるし、不都合もなかったので、なるべく、普段どおりに生活することにした。
大学での学生生活はいままで通り続けることにした。
チョコレートの身体になってから、
すでに10カ月は過ぎただろうか。
朝の10時に開始する大学の講義に参加するため、ぼくはいつもの電車に乗り、学校近くの駅から徒歩で学校に向かう最中の出来事だった。
「ねえ、あなたもチョコレートになったひと、でしょ?」
歩道をすれ違い、数歩過ぎたところで、後ろから声をかけられた。
「え、俺のこと?」
「そう、あなたもチョコレートになってるように思えたのだけれど、違うかしら?」
「間違ってないよ。でも君はチョコレートの身体になってるようには見えないけど...」「どうしてわかったのかな?」
スラリとした長身のスタイルの良い、透明感のある白いワンピースの彼女は、少し涼しい顔をして、覗き込みながら、僕のことを眺めていた。
「ふ〜ん、ただ、なんとなく、直感で、そう感じたの」と言い、チョコレートの香りがして瞬間的にわかったと理由を述べながら、彼女は僕の瞳をじっと見つめ続けていた。
あとからわかったことであるが、彼女はすぐ近くにある別の大学で学生をしていて、インターンでチョコレート会社の工場に何度も行き来しているからわかるということだった。
「わたしはチョコレートになった人を見るのは初めて」
じっと見つめられ続けていたので、恥ずかしく感じた。
「瞳の中にある光がほかのひとと違ってとても透き通って見えるけれど、何も問題はないのかしら」
「チョコレートになったから、暖かいところだと少し具合が悪いことがあるんだ」
「お風呂だって、水風呂じゃないといけないし、冷え過ぎても、身体がコチコチに固まって動けなくなるから、とてもデリケートなんだ」
「そう、とても大変なのね」
僕らは、近くの喫茶店に場所を移し、チョコレートの身体のことについて話を続けた。
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