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第八話 修学旅行はどこに行く その1

 6時間目の総合の時間になった。


「今日は、修学旅行の自由行動について班ごとに話し合ってもらいます。まずは班長を決めて、それからどこに行きたいかを皆で決めて計画を立ててちょうだいね。」

「「「「「「はーい」」」」」

相変わらず元気で良い子な3年3組の面々は素直に返事をして、班ごとに話し合いを始めた。まあ今回は修学旅行という一大イベントについての話し合いであるため、やる気に満ち溢れた生徒が多いのも不思議ではないかもしれない。


「私たちも話し合いしようか!」


そう言い出してくれたのは今回も、しっかり者の花である。いつもなら、花ちゃん話し合いを仕切ってくれてありがとう~、と内心で感謝している香奈だが、今日は少し違った。香奈は体育の授業の前に花の恋に協力するように頼まれていたが、この6時間目が始まる前の休み時間にも花から廊下に呼び出されて「じゃあ香奈ちゃん、今日の総合の時間でもいい感じに私に合わせてね!約束ね!」と言われていたのである。こういう女子同士の約束みたいなのって面倒臭いし、得意じゃないんだよなー。香奈は内心ため息をつきながら、この時間を迎えたのだった。


「まずは…、班長は誰がやる?」


花がそう言った時に、この班の6人中5人は、残りのもう1人の人物を思い浮かべた。班長というのは多少は責任を負わされる面倒な役目である。班長を指名するということは面倒ごとを押し付ける行為に等しい。しかし、その思い浮かべた人物の名を遠慮しないで躊躇なく口にしたのは碧人だった。そしてそれに便乗するのはもちろん庄司である。


「やっぱ、そこは生徒会長だろ」

「まあ、浩平くんが適任だろうね」

「ああ?お前ら、何を人に押し付けようとしてるんだよ」


浩平は男友達二人からの意見にすぐに異議を申し立てた。だが、花と理沙も、男子二人が言い出してくれたのを幸いに、浩平を班長として推した。特に花は、浩平がやらなければ自分が班長をやらされる気がしていたので、本気で浩平にやってほしいと思っていた。班長になってしまったら、碧人と二人きりになろう大作戦を立てにくくなってしまうだろう。そのため、どうしても班長になりたくなかったのだ。花はその思いを、自分の協力者である香奈にも念と目線で送った。


なんか花ちゃんがすごくこっちを見てる気がする。笑顔なのに、怖い。さっき花ちゃんに話を合わせろって言われたんだから、きっとこの花ちゃんからの目線は、班長になりたくないから五十嵐くんを班長にさせろってことだよね。


一方、浩平は最後の期待を込めて、香奈に誰が班長になるべきか尋ねることにした。班長をやりたくなかった彼にとって不幸だったのは、香奈が花からの念をかなり正確に理解して、それに逆らうのは怖いから従っておこうと思っていたことである。


「槇原さんは、俺よりもほかのやつが班長の方がいいと思うでしょ?たとえば、ほら、西野とか俺よりもしっかりしてていいと思うし」

「うーん、でも、私は五十嵐くんが班長をやってくれたら頼りになるし、嬉しいです。お願いしてもいいかな」

「……なるほど、そこまで言われたら引き受けない訳にもいかないな。頼りになる男として、しっかり班長を務めてみせるよ」

「ありがとう、お願いします」


おとなしい香奈にまで班長になってほしいといわれたことで、浩平は班長の役目から逃げることを諦めてそう言った。しかし、嫌々班長を引き受けたはずだったのにもかかわらず、香奈からの「ありがとう」という言葉に対して「どういたしまして」と答える浩平の顔には、少し嬉しそうな様子が滲んでいるのだった。


「おい、班長。なーにをデレデレしてるんだよ。さっさと話を進めろよ」

「デレデレなんてしてないだろ。まったく碧人くんは俺が頼りになるって言われたのが羨ましかったのかな~」


碧人と浩平が、女子三人には聞こえないくらいの小さめの声で互いにそのように囁き合ってジト~っとした目でにらみ合っているのを、庄司はニヤニヤとおもしろがったのだった。

 

その後、話し合いは案外すんなりと進んでいった。浩平は碧人と庄司とつるんでいるときにはいつもうるさく騒いでいるものの、実際には生徒会長を担っているだけのことはあって、やはりリーダーシップがあるし皆をまとめて話を進めるのが上手い。香奈が浩平が班長になることを望んだのも、花からの念を受け取ったことだけが理由ではない。仲が良かったわけではないが、1年生の時には浩平と同じクラスだったので、彼がリーダーに向いていそうな人物であることはわかっていたのである。


「じゃあ、行きたい場所決めるぞ。一人一つずつ案を出していくようにー。自由行動の時間は結構長いから、自由に意見出してくれて大丈夫だと思う。ってことで、時計回りで小宮ちゃん、槇原さん、西野、庄司、俺、そんで碧人の順で頼む」


浩平のその言葉に、ほかの5人は了解と言って、それぞれ意見を出していく。


「定番だから金閣寺!キンピカなの、見てみたい!!絶対行きたい!!!」

「伏見稲荷大社の鳥居も見てみたいかも。学業成就をお願いしてもいいみたいだし」

「清水寺に行きたいな。あの、ほら、やっぱり定番だし!行っておくべきだと思うんだよね(本当は恋愛成就のご利益がある場所で、碧人と良い感じになりたいからだけど)」

「三十三間堂にも行った方がいいと思うぜ。なんといっても千手観音像は圧巻だし」

「金閣寺に行くなら銀閣寺も行っといてもいいかもな」

「俺は京都ラーメン一択だな」


6人それぞれが行きたい場所を提案し終わったところで、最後に案を出した碧人に班長からツッコミが入る。


「ラーメンだとぉ?碧人、俺は今、行きたい場所を聞いてるんだよ、場所を。話聞いてたのか!?」

「だから、俺は京都ラーメンを食いに行きたいんだよ。京都に行くからにはラーメン好きとして、食わずに帰る訳にはいかないだろうが」

「…ったく、お前は食い意地が張ってるな。皆、昼ご飯はラーメンでもいいか?もちろん、他のものが食べたい人がいればそっちにするけど。異議なし、みたいだな。碧人、お前は皆に感謝しろよー。なんで京都に行ってまでラーメンなんだよ、仕方ない奴だな」


こうして6人が提案した5つの観光地とラーメン屋を回ることが決まり、話し合いは騒がしくもスムーズに進んだのだった。




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