表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
80/82

第七十九話 進学先

 二月末にさしかかり、公立高校の入学試験の前日になった。三年生の階には勉強のための参考書を一心に見つめている者がいる一方で、受験への不安を和らげるために当たり障りのないおしゃべりに興じる者などもいる。

 もうこの時期にもなると、学校での授業という授業はない。あとはもう、授業時間は自習や学級活動などにあてられることになってくる。そんな中、学年集会が開かれた。学年主任の新藤先生が皆の前に出て話し出す。


「えー君たちの多くは明日の公立高校の入試を受けることになっていると、思います」


少しばかり変わり者で通っているこの先生は、今日もやはり絶妙に教師らしくないお言葉を述べる。


「まあ、上手くいくかはわからないけどね。俺にアドバイスできることがあるとしたら、今日は帰ったらよく食べてよく寝て体調を整えること。あ、でも、俺によく食べろって言われたから食べ過ぎてお腹壊しましたとかって文句言われても、俺は責任取らないからねぇ。じゃ、皆、明日は頑張ってね」


生徒たちは、先生からの温かいメッセージに胸が温かくなるという感覚は得られなかったものの、普段通りのどこかとぼけた新藤先生のテンションに安心感を覚えたのだった。その後、新藤先生は話の最後に「あ、もう受験が終わってる私立組の皆は、お友達を応援してあげてね」と付け加えたのだった。




 昼休みになると、香奈は教室で理沙や花と一緒にいた。香奈が入試を受け終わってから、ここ一か月ほど続けていることなのだが、香奈が教科書やらワークやらを見ながらポイントとなりそうなところをクイズとして出題して、二人がそれに答えるという活動を行っているのである。マドンナと噂されている美少女だが、強かさも持ち合わせている花は、勉強が得意な友人がいるなら親友と自分のために利用してやろうという精神のもとに、香奈を捕まえたのだ。香奈も役に立てるなら、と快く引き受けた。

 今回のクイズは理科から出している。しばらくすると、庄司と、それにくっついて来た信介もクイズに混ざってきた。これもここ毎日のことである。ちなみに、碧人と浩平も近くで眺めに来ている。


「次の問題いきます。リトマス紙が赤色に変わるのは、酸性とアルカリ性どっち?」


真っ先に手を挙げたのは理沙だが、それに続いて次々に花、庄司、信介も自信満々に手を挙げた。


「はい、理沙ちゃん」

「酸性です!」

「正解」


その後も香奈は、「顕微鏡では高倍率と低倍率のどっちから観察し始める?」とか「P波が伝える揺れの呼び方は?」とか「コンセントって直流?交流?」とか「銅を熱するとできる物質は?」などなど、様々な問題を出題していった。以前からそれなりに勉強を頑張っていた花だけではなく、つい1か月前くらいまでは理科難しいよ~と嘆いていた理沙、庄司、信介の三人も積極的に手を挙げて正解を出している。どうやら友達とクイズ大会形式で行う勉強が楽しかったようだ。ちゃんと正解を答えられるようになりたいと、毎日少しずつ教科書やノートと睨めっこするようになっているらしい。香奈は、観客として盛り上げ役に徹している碧人や浩平と共に解答者に拍手を送りながら、彼らの勉強のための力になれていることを嬉しく感じる。そして、新藤先生に学年集会で言われたように、「明日頑張れ」の気持ちを込めて友達を応援しながら、昼休みが終わるまで問題を出し続けたのだった。



****

 

 あっという間に時は過ぎて、三月に入って一週間ほどが経った。公立高校入試の合否結果も一昨日発表されており、公立の結果の合格不合格はあるが、ひとまず3年生全員の進学先は決定したようだ。教師陣も一安心だろう。いまだ合格者と不合格者の間の気まずさは残ってはいるものの、基本的には生徒たちの中にも穏やかな空気が流れている。

 花と理沙の親友コンビ、それと理沙の彼氏である庄司は同じD高を目指していたのだが、残念ながら理沙は惜しいところで不合格となってしまったようだ。三人とも非常に悲しそうだったが、花と庄司は「学校が別々になっても、絶対りっちゃん/理沙に毎日会いに行くからね」と二人で理沙をギューッと抱きしめていた。では理沙はどこに行くのかというと、併願校の私立として受験していたA高だ。つまり、香奈たちと同じ高校に行くことになる。ただし、香奈や浩平たち成績上位者が入る選抜コースではなく、碧人が入る進学コースに進むことになるそうである。そして実はこのA高、庄司と花が合格した公立高校のすぐ近くにあるのである。そのため、花と庄司による「毎日理沙に会いに行く宣言」はおそらく実現することになるだろう。

 また、少しレベルが高く、ここから離れた場所に位置する女子高であるE高を目指していた聖子も問題なく合格している。

 一方、信介も、彼の学力的にも無理のないB高を志望校としていたこともあり、無事合格した。だが彼は、幼馴染で口喧嘩相手でもある聖子と会う機会が減ることになりそうであることを、口には出さないものの、こっそりと寂しがっている。聖子はバレンタインに義理と書かれたチョコレートを投げつけてきた——おそらく一応は手渡してくれたのだろう——のだから、多少は自分を付き合いの長い幼馴染として認めてくれてはいる、のかもしれない。だが、基本的に自分に冷たい態度をとってくる彼女が、自分と接する時間が少なくなることを寂しがってくれるのかは微妙なところだ。ツンデレすぎる聖子の恋心を正しく読み取ることができていない信介は、そう思っているのだった。



 こうして、皆の進学先が決まっている中、香奈は音楽会に引き続き、美術部の後輩を手伝いに来ていた。今回は来週に迫る「三年生を送る会(略して三送会)」の会場となる体育館の装飾準備である。送られる側が三送会の準備を手伝うなんて変な感じもするが、受験が終わって暇になった3年生が三送会準備を手伝うことは美術部の毎年の恒例行事になっているのである。おそらく部活仲間との最後の時間を楽しめる貴重な時間として、続けられてきたのだろう。香奈、菜緒、羊子とその他の3年生部員たちは、後輩たちや同級生仲間との会話を数か月ぶりに落ち着いて楽しんだ。ちなみに、菜緒は公立には落ちたが、私立のC高に、羊子は第一志望の公立のF高に行けることが決まっている。

 噂好きの元部長である菜緒は、三送会のことについても情報通であるようだった。出し物の内容もいち早く察知している。


「ねえ、香奈ちゃん!今年の三年生からの出し物は、会長たちの特別バンドになるって本当なの!?なんか浦田くんも出るって聞いたんだけど!?」

「うん。最近、碧人くんも五十嵐くんたちと一緒に休み時間とか放課後に練習頑張ってるみたいで」


弥生中学校の三送会では、基本的には教師陣や1、2年生たちから3年生たちへの出し物がメインなのだが、トリとして3年生からも代表者の数人が何かしらの出し物を出すことになっている。その今年の代表者が、元生徒会長である浩平とその友人である碧人、庄司、信介、宗吾なのである。ちなみに、宗吾は浩平とはあまり絡みがなかったのだが、バスケ部仲間の信介と親しいため、このメンバーに入ることになったらしい。また、香奈が碧人から聞いた話によると、出し物をバンドにしたのは、浩平の兄と宗吾の姉が高校の軽音楽部に入っていて、楽器を貸してくれることになったからであるそうだ。

 会長たちのバンドと聞いて、羊子は驚きの声をあげる。どうやら、彼女は三年生からの出し物の内容をまだ知らなかったようだ。


「へぇ~、バンドってまたすごいな!ってか、会長とか浦田くんみたいなイケメンがバンドやったら、女子からキャーキャー声援が上がりそうだね……っと、槇原ちゃんの彼に対してごめん」

「いえいえ、自分の彼氏がかっこいいって言われるのは鼻が高いですから」


香奈はにこにこと笑って、そう返す。そんな香奈を見て、菜緒と羊子は感心したように言った。


「はあ~、香奈ちゃんも浦田くんの彼女が板について来たね~。なんか、感動だあ」

「うわあ、たしかに!でも、美術室で毎日一緒にいた2年生までの頃のことを考えると、私たちの中に三送会の代表でバンドやるようなタイプの彼氏ができるとはびっくりだよね。いやあ、人生何があるかわからなくて、おもしろいわ~」

「ふふ、自分でもいまだにそう思うよ~」


こうして、香奈たちはおしゃべりをしながらも手を進め、三送会の準備に取り組んだのだった。


次回の更新は10/31(金)です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ