表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
76/82

第七十五話 碧人の結果

 三学期の始業式から一週間ほど経った頃、碧人は昼休みに担任教師の田中先生に呼びだされた。

3年の最初の頃までは、忘れ物や授業中の居眠りをすることも多々あったため、呼び出されて叱られることもたびたびあった。しかし、最近は香奈に影響を受けたこともあって、それなりに真面目に生活しているため、呼び出しとはすっかり縁が切れたと思っていたのだが……。

碧人はいったい何のことで叱られるのだろうと首をかしげながら、野球部仕込みのビシッとした挨拶をしながら職員室に入った。いらっしゃいと田中先生に迎えられた碧人は、今現在の彼の頭を占めている疑問を口にした。


「それで、田中先生。俺、今日はなんで叱られるんですか?わりと心当たりがないんすけど」


すると、田中先生があらあらと微笑んだ。碧人と顔見知りの周囲にいた教師たちも、碧人の方を見て、おもしろがるようにニヤニヤとしている。


「なるほど。君の中では、職員室イコール叱られる場所なのはよくわかったわ。でもね、今日は叱るために浦田くんを呼んだわけではないんですよ」


碧人は、そうなんすか!?と目を丸くした。では、いったい、なぜ自分は職員室に呼び出されたのか。わかりやすく不思議がっている碧人を見て、田中先生は「浦田君ったら、忘れちゃったのね」と言った。


「二学期に君の願書をA高のスポーツ推薦で出した時に、言ったでしょう。合格発表は中学にも来るから、その時は職員室に呼びますよって」


そう言われて記憶をたどった碧人は「ああ、そうだった!」とその時のことを思い出した。これから受験を控えるクラスメイト達の前で、合否を発表するのは精神衛生上よくないから、職員室で合否を伝えるという話だった気がする。

 ということは、今まさに、自分はA高からの合否発表を知ることになるのだ。そう意識すると、碧人は急に緊張してきた。A高は香奈や浩平も受験予定の高校なのだ。あの二人なら絶対合格するだろう。だからこそ、自分もどうしても合格して、二人と、というか特に香奈と、同じ高校に行きたい——。


「せ、先生!結果はどうだったんですか?……うわ、やっぱ聞きたくねぇ!なんか怖っ!」


そう問われた田中先生は、手に持った紙を見て下を向いた。


「浦田くん……合格です!」


そう言った先生はパッと満面の笑みで顔を上げた。そして、手に持っていた合格通知を碧人に手渡してくれた。



 職員室を出た碧人は、急いで教室に戻ろうとした。走っていたら、野球部顧問の厳しい荒川先生と学年主任のテキトーな新藤先生が並んで歩いているのに出会った。二人とも数学の担当教師であるため、数学の授業に関する情報共有をしていたようだ。


「おい、浦田ぁ!廊下は走るな!!」

「走ると危ないからねぇ、早歩きにしときなさい。ま、でも、元気そうでよろしいっ」


碧人は「すみません!!」と謝ってから、二人に近づいて、


「荒川先生!新藤先生!俺、A高に受かったみたいっす!!」


とこそっとしつつも、喜びを報告した。すると、二人とも「おお~!!そうかそうか!!」と笑顔になる。特に、野球部顧問としても碧人を見てきた荒川先生は、碧人の頭をわしわしと撫でて、強めに喜びとお祝いの気持ちを表現してくれたのだった。

 教師二人にひとしきり褒められた碧人は、再び怒られないように、走らずに早歩きで教室を目指すことを再開する。そして、ついに教室に戻ると、真っ先に香奈のもとに向かい、廊下に連れ出した。そして、彼女の耳元でコソッと喜ばしい報告を伝えた。すると、香奈は顔をキラキラと輝かせて、


「うわあ、碧人くん!頑張ったもんね!おめで——」


と言いかけてから、ハッとした顔になって口を手で押さえた。3年生たちは、三学期の始業式の日に教師陣から、これからはデリケートな時期に入るから、皆に聞こえるように「おめでとう」とか「落ちた」といった言葉を言わないようにとのお達しを受けている。真面目な香奈は、そのことを思い出して、「おめでとう」と言うのを我慢したのだろう。

 碧人がそういう真面目な良い子なところが可愛いんだよな~と思っていると、突然、香奈に両手を握られてブンブンと振られた。香奈がそんな子供っぽく見える行動をとることは初めてだったため、かなり驚きだった。びっくりしているし、それ以上に、好きな子に手を握られているという状況は照れる。実は彼ら、付き合い始めはしているが、まだ手をつなぐなどをあまりできていなかったのだ。碧人は思わず、


「か、香奈ちゃん!?」


と声を出した。香奈は、碧人の両手は解放せずに、嬉しそうな顔のまま、相手の顔を見上げてきた。


「あ、ごめん。その、大きな声でおめでとうって言えないのが、こう、もどかしくて。つい、喜びを表現したくなっちゃったの。えっと……びっくりさせて、ごめんね?」


そう言われた碧人は、ゴクリと唾をのんでから、天を仰いだ。ああ、俺の彼女は、真面目で良い子としての可愛さを持ってる上に、ちょっといたずらっ子らしい可愛さまで持っていたのか。後で庄司にも信介にも浩平にも自慢しよ——。そう考えてから、心が落ち着くまで待って視線を香奈に戻した碧人は、「喜んでくれて、ありがとな」と言ったのだった。



****


 碧人の合格が決まってから二週間ほど経っただろうか。この日の弥生中学校の3年生の階は、いつもとは少し異なる微妙な空気に包まれていた。騒がしすぎる訳でも静かすぎる訳でもないのだが、皆がどこか気を使っておしゃべりをしているような雰囲気があるのだ。

と言うのも、弥生中学校の近隣にある私立高校——A高の一般入学試験が、翌日に迫って来ていたからである。

 このA高は、例年、多くの弥生中学校の生徒が単願・併願共に受験する私立高校である。そのため、多くの3年生の生徒たちは、受験への緊張を隠すために空元気を出したり、受験への不安を訴える友人に気を使いながら励ましたりしていたのだ。

 3組の教室でも、生徒たちはどこか落ち着かない様子だった。その中には、A高を受験する予定の香奈と浩平の姿もある。

 A高は一学年が10クラスほどあり、この近隣では比較的大きな高校だが、そのクラス分けは入学試験の結果の出来に基づいて行われるそうだ。すなわち、入試の結果が良いと、勉強の得意な生徒が集まるクラスに入ることができるということだ。香奈と浩平は二人とも、勉強面で最も一番上とされる選抜クラスを狙っていたため、協力しながら受験勉強の最終確認に取り組んでいるのだ。

 そんな高い目標を持っている二人だが、翌日に迫る入学試験のことについて、意外とあまり緊張していないように見える。彼らをよく知る碧人の目から見ても、香奈と浩平は、他のA高受験者たちよりも、余裕そうに見えた。

 浩平は生徒会長選挙の時でさえ、あまり緊張していなかった記憶があるため、それほど緊張しないタイプなのだろうことは知っていた。一方で香奈も、人前で目立つのを嫌っていたから、最初は緊張しやすいタイプなのかと思っていたが、意外とそうでもないようだ。定期テストやら英語のスピーチ発表やらの際には、毎回堂々としていた。どうやら、勉強がからむと、スイッチが入るようなのである。俺は、こないだの期末はめちゃくちゃ緊張したのに、やっぱり二人共すげえなあ、と碧人は感心したのだった。


最近、涼しくなってきましたね。季節の変わり目、体調崩さないように気をつけましょう。

次回の更新は10/3(金)です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ