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第七十二話 二学期終了です

 今日の弥生中学校の生徒たちは少し浮かれ気分になっている。と言うのも、この日は二学期の終業式であり、明日から冬休みが始まるからだ。冬休みと言えば、年末年始の行事が盛りだくさんで楽しみだが、年頃の学生たちにとってはもっと重要なイベントがその前にあった。


「明日から冬休みだねぇ、香奈ちゃん。というか、明日はクリスマスイブだよね~」


休み時間に、ニコニコといつも以上に楽しそうに話しかけてきたのは、クラスメイトの理沙である。キラキラとした表情の理沙を見た香奈は、これはイブの話を聞いてほしいのだろうなと推理した。


「そうだね~。理沙ちゃんはイブは何かするの?」

「よくぞ聞いてくれました!あのね、明日は庄司とデートなの!映画見て、ご飯食べて、プレゼント交換するんだ~」

「うわあ~なんか恋人っぽい!いいね!」


楽しそう!という香奈からの良い反応を得られて嬉しそうにしている様子の理沙のうしろから、スラッとした人影がニュっと現れた。香奈が目線を上げると、そこにいたのは理沙の親友の花だった。花は香奈に向けてニッコリとわざとらしく可愛らしい微笑みを向けてから、なぜか必要以上に大きめの声で話す。


「イブはどこかの誰かさんに譲ってあげたけど、クリスマス当日の25日には私とりっちゃんの二人で遊ぶことにしてるんだ~。ショッピングして、カラオケにも行っちゃうんだから。だよね、りっちゃん!」

「うん!そっちもすっごく楽しみ!」


理沙に楽しみだと言ってもらえた花はとても満足そうだが、かなりボリューム大きめだった花の声は、教室内の少し離れた場所にいた人物の耳にも届いたらしい。理沙の彼氏である庄司は、顔をこちらに向けた。そして、人の良さそうな笑みを作って、花に話しかける。


「西野さん。一応言っておくけどさ、25日は譲ってあげたけど、1日に理沙と初詣に行くのは俺だからね」

「冗談きついよ~。24日は譲ってあげたけど、元旦は私とりっちゃんで初詣に行くんだから!」


二人共にっこりと笑顔のはずなのに、すごくバチバチし始めた。修学旅行前あたりまでは、クラスのマドンナである花と良い仲になりたいと思っていた庄司の姿は、今となってはどこへやらである。

 理沙はそんな二人のやりとりには慣れているのか、気にせず、香奈に「ねえねえ」と話しかける。香奈は花と庄司を放っていてもいいのかとハラハラしていたが、理沙に尋ねられた内容に意識を持って行かれた。


「それで、香奈ちゃんもやっぱりクリスマスは浦田くんと一緒に過ごすの?」

「えっと、その、そういう話は出てないかなあ」

「あれ、そうなんだ。仲良しの二人のことだから、てっきりデートでもするのかと思ってたんだけど」


 香奈は少し動揺していた。昨年までは一緒に遊びに出かけるほどの仲の友人がおらず、12月24・25日をいつも家でダラダラと過ごしていた香奈は、クリスマスは特別なことをするものであるという認識が薄かった。そのため、明日からは受験勉強頑張るぞーと思っていいただけで、クリスマスに向けて碧人と何かを約束しようなどとは考えてもいなかったのである。

 これでは、彼女失格だろうか。いや、碧人もクリスマスについては、何も言っていなかったから大丈夫なはず。お互い様だ、うんうん。とりあえず明日か明後日にメリークリスマスのメッセージを送っておけばいいよね、たぶん。香奈はそう思いながらも、少しばかり「恋人と過ごす楽しいクリスマス」に思いを馳せて、教室の向こう側にいる碧人をちらっと見たのだった。



****


 あっという間に放課後になった。学年集会ではいつもテキトーな学年主任の新藤先生でさえ「冬休みはイベントがたくさんあるから楽しんでね。あっ、でも、受験生の君たちの場合、冬休みでも勉強しないとダ~メかもね~」と言っていたし、先ほどの帰りの会でも担任の田中先生に「受験勉強をたくさんしておいてくださいね」と言われた。そのため、完全に休みを楽しんで満喫できるぞという気分ではないものの、それでも3年3組の生徒たちは二学期が終了したことを喜んでいた。だが、少しばかり困っていそうな顔をした少年が一人いた。二学期の通知表の成績が悪かったのだろうか。いや、そうではない。むしろ彼は、期末テスト勉強を必死に頑張ったおかげで二学期の成績はそれなりに良く、これなら志望校のスポーツ推薦にも問題なく出願できるわねと田中先生からも太鼓判を押されている。では、いったい何を悩んでいるというのか。


「おい碧人。受験も上手くいきそうだし、かわいい彼女とも上手くいってるお前が、なーにを悩んでそうな顔してるんだよ?羨ましいかぎりだよ、チクショー!」

「ああ、信介か。別に何でもねえよ」


碧人は友人からの心配を冷たくあしらったが、信介は気にしない。


「んだよ、水臭えなあ。どうしたよ、お兄さんに言ってみ」

「お兄さん、って誕生日一週間しか違わねえだろ。んーじゃあさ、彼女をクリスマスに家に呼びたいんだけど、どう誘えばいいかアドバイスくれよ」


碧人から相談を受けた信介は、なにっと身を乗り出した。


「槇原さんをお前の部屋に!?おいおい碧人、何するつもりだよ~」


信介の反応に碧人はおおいに動揺した。顔を赤くして、信介の推測をすごい勢いで否定する。


「ち、違うわ!!母ちゃんに香奈ちゃんをクリスマスの夕飯にでも連れてこいってうるさいんだよ。前に野球部で会った時に気に入ったんだと」

「なんだよ、そういうことかよ~。まあ、普通にクリスマスに夕飯食べに来てくれって言えばいいんじゃねえの。でも、せっかく付き合ってんだから、二人でデートとかしなくていいのかよ?」


クリスマスのデートなあ。碧人はそう呟いて、頭をかいた。


「したくないって言えば噓になるけどな……。浩平のやつ、A高の一番勉強ができるクラス目指してるだろ。あいつ、そのためにはかなり勉強しないとって言ってたんだよ。香奈ちゃんは浩平と同じクラス目指してるうえ、奨学金をもらえる特待生まで狙ってるらしくてさ。勉強に集中させてあげたいだろ」

「なるほどなあ。槇原さんの勉強時間を奪わずに一緒に過ごすなら、たしかに夕飯に呼ぶくらいがちょうどいいかもな。にしても、碧人よォ」


信介はニマっと笑顔を作った。


「な、なんだよ?」

「お前、良い彼氏やってるじゃん」


碧人は少し照れた顔をしてから、ニヤリと笑顔を返して「だろ」と答える。そして、彼女を浦田家での夕飯デートに誘うべく、香奈のもとに向かったのだった。


次回の更新は9/12(金)です。

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