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第七十一話 テスト結果

 普段なら騒がしい教室内が今はシーンと静まり返っている。というのも、今現在、生徒たちはテストの問題冊子と解答用紙を受け取っているところだからである。つまり、これからいよいよ二学期の期末試験が始まるのだ。

 その中でも、特に緊張している様子の生徒がいた。浦田碧人である。これまでの定期テストには、わかりそうなとこだけ解いてみようというテキトーな精神で臨んできた彼だったが、今回ばかりは真剣に取り組まなければならない。


「テスト、はじめ」


試験監督の教師が合図すると、生徒たちは一斉に問題冊子を開いて問題を解き始めた。この時間の試験科目は社会だ。碧人は社会についても、香奈や浩平から要点を聞いてしっかり対策してきた。そのことに自信をもらって、彼はさっと問題に目を通した。

 すると、驚いた。わかるのだ。これまでのテストでは、見覚えのある問題だって数少なかったというのに、今回は多くの問題の答えを自分の脳が覚えている。しかも、香奈に指示された通りに昨夜早めに寝たからか、最近ボーっとしがちだった頭が妙にすっきりしているのだ。

 これは、香奈ちゃんと浩平には本当に感謝しないとな。碧人はそう思いつつ、問題に解答し始めたのだった。



****


 あっという間に三日間の期末テスト期間が終了し、その翌日からは国数英理社に技術家庭科・音楽・美術・保健体育を加えた全9教科のテストが徐々に返却されていた。テストが終わってから二日経ったこの日の昼休みまでには、ほとんどの教科のテストが既に返却されていた。そして、喜ぶべきことに、今のところ碧人のテストの点数はどれも60点を超えているのである。なんなら、社会と保健体育なんて70点を超えていたくらいだ。香奈も含め、周囲の友人たちは皆、すごいと褒めてくれている。

 だがしかし、まだ安心はできない。香奈の志望校であるA高にスポーツ推薦で出願するために、担任の田中先生から提示された目標は、期末テストで全科目60点以上をとること。その目標が達成されているのかどうかは、まだ唯一返却されていない教科である国語で決まる。いまのところ良い感じだし、国語も大丈夫だろうと思いたいところだが、碧人にはそう楽観視ができない理由があった。


「なあ香奈ちゃん、国語大丈夫かなあ。俺さ、真面目に勉強して気づいたんだけど、国語が一番苦手みたいなんだよな。説明しなさいとか心情を読み取りなさいとか、もうマジむずいって~」


碧人は教室の後ろのロッカーに背中を預けつつ、隣に並んで立っている香奈にそう言って、あーあと天を仰いだ。そんな碧人の顔を見上げて、香奈はクスリと笑った。


「あのね、浦田くん、絶対大丈夫だと思うよ」


そう言われて驚いた碧人は、思わず目を丸くする。


「え?いや、さすがに絶対は言いすぎじゃ——」

「言いすぎじゃないよ。だって、どの教科でも優秀な成績をとってる優等生の私は、実は国語が得意教科なんだよ。そんなすごい私が、得意教科について、テストに出そうって思ったところを浦田くんにしっかり教えてあげたんだから、浦田くんは国語も良い点取れてること間違いなし!」


碧人は、自信満々に大丈夫だと語った香奈の顔を見つめた。おとなしい性格の香奈は、普段はあまり自慢をするようなことを言わない。そんな香奈が、「優等生の私」とか「すごい私」とか口にするのは滅多にないことなのだ。だから、碧人はニヤニヤと指摘する。


「顔が赤くなってるぞ。柄にもないこと言うからだろ~」

「あ、赤くなんてなってないよ!?本当のこと言っただけだし……」


赤くなった頬を隠そうとする香奈をからかいつつ、碧人は香奈に感謝する。香奈は自信のある人間のように振舞うことで、国語のテスト結果を心配する碧人を元気づけようとしてくれていたのだろう。


「ありがとな、香奈ちゃん」


碧人がそう伝えると、香奈はふふっと優しい微笑みを返してくれた。



 昼休みが終わって、午後の国語の時間になり、テストが返却された。碧人は教壇の前でテスト用紙を受け取ると、その場ですぐに点数を確認した。そして、自分の席に戻る気力もないかのように、その場にしゃがみ込む。そんな様子を見た香奈は、ヒュッと呼吸が苦しくなった。もしかして、まさかとは思うけど、だめだったのかな——そう思った次の瞬間、碧人が勢いよく立ち上がり、香奈の方を見てヘニャっと嬉しそうな笑顔を見せたのだった。



****


 国語のテストが返ってきた日の翌日の放課後。碧人は香奈に珍しく恨みがましい視線を向けられ、文句を言われていた。


「もう~私まだ怒ってるんだからね。昨日は急に浦田くんがしゃがみ込むから、もうダメだったんじゃないかって、心臓がバクバクしたんだから」

「香奈ちゃん、ごめんって!あれは安心したら、思わずよ~」


碧人が香奈に頭を下げて謝罪しているのを、横で見ておもしろがっているのは、彼の友人である庄司と信介だ。


「いや、碧人くん。あれは、俺だってドキドキしたもん。槇原さんが怒るのも当たり前だよ」

「そうだぞ、碧人。お前が全面的に悪い。彼女に許してもらえるように、せいぜい謝っとけ」

「井出も信介も俺の肩持ってくれないのかよ!?他人事だと思って、お前らな~」


碧人が「あとで覚えとけよ~」と言って拳を上げると、庄司はへへっと笑って、


「彼女に怒られた時は、謝るに限るんじゃない。まあ、俺は理沙といつでも仲良しだから、そんな状況になったことはないけどねー」


そう言い残してから、理沙と二人で、ではなく、理沙の親友の花も入れた3人で帰って行った。最近は、庄司と花が自分の方が理沙と仲良いんだと張り合いつつ、3人で過ごしていることも多いのである。

 続いて信介も、


「じゃ、俺も行くわ。なんか今日は、聖子が大量にもらった冬瓜をうちの爺ちゃんに渡すから、運ぶのに付き合えってさ。一緒に帰ることになったんだわ」


と言って、荷物をまとめ、聖子のいる隣のクラスに向かっていった。

 聖子の信介への恋心自体には気づいていない碧人も、信介と聖子が仲良くしようとしていることは微笑ましく感じている。一方、聖子の恋心を知っている香奈は、「清水さん、水沢くんに一緒に帰ろうって誘えたんだ、頑張ったんだな~」と思って感動したのだった。

 信介と聖子が親しくしていることへの喜び、という同じ感情を共有したからだろう、香奈の先ほどまでの怒りは溶けたように消え、碧人と顔を見合わせてよかったよかったと頷き合ったのだった。

 その時、コホンと咳ばらいをする音が聞こえてきた。そちらを見ると、浩平が少し変な顔をして立っている。変な顔と言っても、端正な顔立ちをした彼の顔のイケメン度合いが下がっている訳ではない。なにか言いたそうにしている顔という意味だ。そんな浩平の様子を不思議に思って、碧人が「なんだよ?」と尋ねる。


「槇原さんの碧人への怒りが静まって、二人が仲直りしたのはいいんだけどさ、」

「いいんだけど、なんだ?」

「さっきから黙って見てたらさあ……。碧人も庄司も信介も、なんっでお前ら、誰一人として、槇原さんのテスト結果に触れないんだよ!?そりゃあ、俺も碧人が全教科60点以上取れたことはすごく喜んでるし、そっちを話題にしたくなるのもわかってるよ!?でも、今回の槇原さんのテスト結果やばいだろ、すごすぎだろ!?少しくらい、そっちの話題にも触れろよ!!」


普段は冷静で落ち着いている浩平が声を荒げて口にしたのは、香奈のテスト結果がすごすぎる問題についてであった。

 弥生中学校では学年の上位10人については、結果が張り出されるのだが、今回の1位は槇原香奈。その総合得点は2位に大きな差をつけて、900点満点中856点だった。碧人は浩平の方を向いて、へらっと笑う。


「いやいや1位だろ、やっぱ香奈ちゃんはすごいなって思ってるぜ。さすがだよな~」

「いや、碧人、お前は今回の槇原さんのすごさを全く理解しきってない」


856点。つまり平均で考えると、全教科95点以上をとっているということである。5教科の中間テストであれば意外と難しくないかもしれないが、9教科と科目の多い期末テストでそれを成し遂げるのは並大抵のことではない。香奈には負けるが、秀才の浩平(今回の期末テストは4位だった)は、そのすごさがどれほどのものか、よくわかるのだ。そう熱く語ったところ、碧人もさすがに今回のすごさを把握したらしく、目を丸くして香奈の顔を見た。


「香奈ちゃんって、なんか、やっぱすごいな……。今回はずっと俺に勉強教えてくれてたのに、いつの間にそんなに勉強したのよ?」


そう問われた香奈は、エヘッと可愛らしく笑って、小首をかしげた。


「浦田くんが頑張ってるの見てたら、私も負けてられないなって思って、ね。いつも以上に頑張れちゃった」


その返答は、碧人と浩平に、この子やっぱすげぇなと、改めて思わせたのだった。


次回の更新は9/5(金)です。

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