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第六十六話 給食

 各クラスが休み時間や放課後の時間を使って合唱練習をして、やっと本番がやって来た音楽会。開演の時間が近づくと、全校生徒たちがバラバラと体育館にやって来た。美術部が、音符やら曲のモチーフやらをイメージしながら担当した体育館の装飾は好評で、生徒の中には先生に頼んで装飾を背景に記念写真を撮ってもらう者もいるほどだ。飾りつけを手伝った香奈も、皆に喜んでもらえて鼻高々であった。午前中は1、2年生の合唱だから気が楽だ。そう思いながら、香奈はステージ上に時々知っている顔が見えると心の中で頑張れ~と唱えつつ、後輩たちが発表する曲をゆったりとした気持ちで聞いていた。ちなみに、2学年下の弟の陽太は、クラス合唱はそれなりに真面目に歌っていたようだが、人数の多い学年合唱では少しサボり気味だったように見えた。帰ったら、少し叱ってやらねば。

 こうして、あっという間に音楽会の午前の部は終了した。この後は、いったん教室に戻って、いつも通り給食を食べることになる。本日の給食のメニューは、牛乳とごはんとキノコたっぷりのお味噌汁、鶏肉のから揚げと梅サラダ、それにヨーグルトがついているらしい。今週はごはんの配膳当番になっている香奈は、手早くエプロンとバンダナをつけ、ちょっと急いで給食室に向かおうとした。ごはん当番は二人いるが、今日はもう一人が音楽会なのに風邪で欠席なのだ。昨日までは元気そうだったのに、かわいそうに。お茶碗によそうのは部活仲間の羊子に手伝ってもらおうと思っているが、給食室からご飯を運ぶだけなら少し重いが一人でも十分だろう。その時、教室を出たすぐのところで「ちょい待ち、香奈ちゃん」と声を掛けられた。


「俺も手伝うよ」


急に呼ばれて少し驚いたが、自分の名前を呼んだのは最近だいぶ聞きなじんだ声だった。香奈は、その声が聞こえてきた方に笑顔で振り向いた。背の高い男子生徒が見慣れた笑顔で立っている。


「今日休みの鴨山って、たしかご飯当番だろ。一人じゃ重いだろうし、俺も給食室まで一緒に行くよ」

「嬉しいけど……悪いよ。あれくらいなら、私一人でも何とかなるし」


給食室は1階の端にあるため、3階にある3年生の教室からだと遠いのだ。給食当番でもない碧人にあそこまで来させるのは、さすがに申し訳ない。香奈はそう思って断ったのだが、碧人はニカっと笑って、


「これくらいお安い御用よ。気になるなら、これからまた勉強みてもらうお礼ってことでさ」


そう言うが早いか、香奈の返事を聞かずに香奈の肩を押してずんずん歩き出した。香奈が「ちょっと、浦田くん!?」と焦っていると、ちょうどその時に横で二人の様子を面白そうに眺めていた浩平と目が合った。


「まあまあ槇原さん。碧人は彼女にカッコつけたいだけだからさ。バカだけど、頼ってやって」


碧人が「余計なこと言うなよ浩平」と照れている横で、香奈は、そういうことならと多少納得する。


「五十嵐くんにそう言われちゃうとなあ。じゃあ、浦田くん、お願いします。ありがとうね」


碧人は、香奈が自分の言葉よりも浩平の言葉に素直に従っているのを一瞬悔しく感じつつも、なんだかんだ頼ってもらえたことが嬉しくて「おうよ」と答えた。



****

 

 香奈と碧人が給食室に着くと、ちょうどそこには見知った顔があった。すらりとした体に長い黒髪、どんな時でもすっとのびた背すじの美少女 清水聖子と、優しく可愛らしい印象の顔立ちをした少年 塚内宗吾だ。こちらに目を向けると、彼らも二人に気づいたため、挨拶を交わす。それから、香奈と宗吾が話し始めた。


「ほお~給食室にまで二人で来るとは。弥生中イチ話題のカップルはいつも一緒なんだねぇ、香奈ちゃん」

「ちょっと宗吾くん、からかわないでよ~。今日は偶然こうなっただけだから」

「え、ほんと~?」


宗吾と香奈の仲の良さそうな様子を見て、碧人は内心焦った、というか嫉妬した。香奈の彼氏は自分だし、宗吾には塾で知り合った他校の彼女がいるらしいという情報も信介から得ているため、もう大丈夫だとわかってはいる。わかってはいるが、香奈とそれなりに仲の良い男子である宗吾は、碧人がかつて恋敵になりうる奴だと警戒していた相手なのだ。碧人はそれとない感じを意識しつつも、咳ばらいをしてグイっと香奈と宗吾の間に割り込んだ。聖子に呆れたような目で見られていた気もするが、気にしない。


「コホン!ホントだっての。今日は大変そうだったから、俺が香奈ちゃんを手伝ってるだけ。まあ、俺たちが仲良しなのは否定しないけどな」

「なるほど、そうなんだね!」


香奈の主張を碧人も肯定したことによって、宗吾も納得したようだ。そのため、碧人は香奈からニコッと微笑みかけてもらえた。しかしその後、香奈と聖子が給食室の奥に運ぶものをとりに行くと、碧人は宗吾からボソッと耳打ちされた。


「浦田、水沢からも聞いてると思うけどさ、そんなに俺を敵視しなくても大丈夫だよ」


急にささやかれたこと以上に、自分の嫉妬心を見透かされていたことに驚いて、碧人は宗吾の方を見た。すると、宗吾は「あのな……」と、もう一度耳打ちしようとしてくる。碧人が何を言われるのかと身構えていると、


「いや~両片思いが一番見てて楽しいと思ってたけど、初々しいカップルもやっぱりいいもんだなあ。二人ともかわいいし、特に彼氏が焼きもちやくシチュエーションっておいしいな。……的なことを思ってるので、俺は浦田のライバルにはならないから安心してくれ」


という意表を突かれることを真面目な顔で言われたため、碧人は思わずポカンとしてしまった。恋愛系の漫画などを楽しむ習慣のない碧人にとっては、宗吾の言葉は理解しがたいものだったのだ。なるほど、敵視はしなくてよさそうだが、変なやつだ。こうして、碧人の中で塚内宗吾は「変なやつ認定」をされたのだった。



****


 聖子は3-2の、宗吾は3-1の牛乳当番だったらしい。流れで、皆で話しながら教室まで歩くことになった。ちなみに、3-3のごはん容器は碧人が一人で平気だというので、香奈は聖子が牛乳を運ぶのを手伝うことにした。そして、話題は当然、この後に控える音楽会の午後の部のことになる。


「清水さんは2組の指揮者だったよね、すごいなあ」

「ね、リハで見た清水さんの指揮ビシッとしてて、きれいだったもんねえ」

「2組なあ、歌はそれほど上手くないっつうか、普通だった気がするけどな」

「浦田くん厳しいわね。塚内くんと香奈ちゃんはありがとう。でも、指揮者を引き受けたからには優勝は2組がいただくわ。いくら清く美しい心を持ったあなたたち相手でも、遠慮はしないわよ」


そこで碧人が不思議そうな顔をして「なんだその、清く美しい心って?」と質問する。香奈と宗吾は顔を見合わせて苦笑いする。美化委員会に行った時に、聖子によって与えられた少し恥ずかしい称号なのだ。


「そのままの意味よ。説明するとなると難しいけど、そうね……。あなたと昔から仲の良い水沢信介くんみたいなちゃらんぽらんとは、正反対のタイプってとこかしら」

「ふーん。にしても相変わらず、清水は信介にはツンツンしてんな~。たまには素直になって、愛想よくしてやった方がいいぞ」

「余計なお世話よ」


聖子が信介のことを好きだと知っている香奈は、この会話を聞いて内心で碧人に激しく同意していた。聖子のことを応援したいとは思っているものの、今の聖子の態度では、信介に告白するどころか、仲の良い友人関係を築くことすら厳しいかもしれない。そして次の瞬間、香奈はドキッとさせられた。宗吾が聖子に直球の質問を投げかけたのだ。


「前から思ってたんだけど、清水さんって水沢のこと嫌いなの?一応、幼馴染なんだよね?」

「もちろん。水沢くんのことなんてきら——」

聖子はいつもの癖でつい、信介なんて嫌いだ、と言おうとしてしまっていた。しかし、途中で言葉を切ったのは、香奈がダメダメと首を振っていたからだ。そして少し考えてから、質問に答え直す。


「——嫌いって訳ではないわ。好きでもないけれど」

「なるほど、そうなんだね」


すると、その返答を聞いた碧人が、実に意外だという表情をしてから嬉しそうに笑う。


「そうかそうか、嫌いではなかったのか。それ聞いたら、信介もきっと喜ぶな。あ、そういえば、清水が女子高行くらしいって聞いた時、あいつ結構寂しそうだったんだぜ」

「ふーん、そうなの……」


碧人はふーんって反応薄っと思いつつ、聖子が信介のことになると毎回へそ曲がりになることに気を使いつつ、聖子に信介と話すように言っておくことにした。


「まあ、今度また和尚のとこ行って、ついでにあいつも構ってやれよ」

「そうね。ついで、なら話してあげてもいいわ」



そんな会話をしつつ、4人はそれぞれの教室に戻ったのだった。



次回の更新は8/1(金)です。

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