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第二話 隣の席の君の名は

「槇原さん、13番?俺12番引いたんだ、よろしくな~」

「よ、よろしく。え…。」


 穏やかなタイプのクラスメイトと隣の席になりたい。香奈が席替えに対して抱いていたささやかなその希望は見事に打ち砕かれた。

この少年は陽キャである。3年生になって初めて同じクラスになった彼に関してほとんど何も知らない香奈も、碧人が陰キャである自分とは対照的な位置に属している人物であるという認識は持っていた。いつも大きな声で堂々と話し、友人が多いうえ、野球部に入っている彼は運動神経も良い。加えて、背が高く顔立ちも整っているため同級生の女子からも比較的モテているようだ。


私とは正に正反対って感じの子と隣の席になっちゃうなんて。しかもこの人って、さっき女の子たちが隣になりたいって言ってた人じゃなかったっけ…。私なんて声小さいし、愛想もなくて暗いから、それほど仲のいい友達もいない。運動神経も最悪な万年文化部。おまけに地味で特別かわいくもない。それなのにこんなキラキラ系の子と隣になったら、他の女の子から恨まれそう、うう、今からおなか痛い。


「なんかめっちゃフリーズしてるね。もしかして俺の隣、嫌だった?ごめんな~、そんなにうるさくしないから許してください」

「あ、ううん何でもないです!全然嫌とかじゃないし(嘘だけど)」

「よかった~!仲良くしようぜ。そういえば槇原さんって俺の名前覚えてくれてる?」


え、この男の子の名前、何だっけ?やばい、思い出せない、ここまで出て来てるんだけどな~。ていうか、どうしてこの子は私みたいな地味な奴の名前を覚えてるの~?いや、新学期が始まって二週間も経ってるのに、こんなに目立つタイプのクラスメイトの名前すら覚えてない私が悪いんだけどさ。どうしようー、あっ、名札見ればいいんだ!我ながら名案!


「うえ、もっ、もちろん!えーと、その、浦田くんだよね(下の名前は名札に書いてないから、わからないけど)」

「そうそう、嬉しいー、覚えてくれてたんだ」


香奈に名前を呼んでもらえた少年は、心底嬉しそうに笑顔を見せた。ずるい方法で彼の名字を答えた香奈は、彼のその屈託のない明るい表情を見ると、多少罪悪感を感じる。だが、その罪悪感があっという間に吹き飛ぶほどのさらなる苦難が、香奈を襲うことになる。


「おー、碧人。俺たちと席近いな~。俺、お前の後ろだぜ」

「俺は碧人くんの前だよ」


ああ、そうだった、この子の下の名前って碧人だったな。近くにやって来て浦田碧人に話しかけた二人の少年の言葉を聞き、彼の名前を思い出してすっきりした気分になったのも束の間。香奈は重要な事実に気づく。彼らは自分たちが碧人の前後の席であると言っていた。そしてその彼らとは誰か。


「浩平と井出じゃん!まじか、なんかいい感じの席順だな」


そう、彼らは五十嵐浩平と井出庄司。香奈の決して多くはない彼らに関する記憶によると、浩平はこの中学校の生徒会長で、スポーツ万能なイケメンだ。一方、庄司は碧人と同じ野球部員であり、彼とは大の仲良しという印象がある。二人とも碧人とは仲の良い友人で、そして香奈にとっては、何よりも大切なことだが、彼らは両者ともに碧人と同じく目立つタイプの騒がしい系男子だったのである。


「だな、悪くない席順だよな」

「でもさあ、碧人くん。俺、一番前の席なんだけど、だる~」

「いや、井出お前、一番前の席だろうと気にせずいつも寝てるじゃねぇか」

「うわ、ひで~、そんなこと言うなんて。まあでも確かにそうだけどさぁ」


香奈は、彼ら三人の会話を近くで聞きながら、絶望的な気分になっていた。そんな…。浦田くんが隣ってだけでも不安なのに、この二人とも席が近くなっちゃうなんて。ていうか、やっぱりこの人たちノリ軽いな…。ああ、さようなら、私の穏やかな日常。どうか願わくば、この人たちが私にそんなに絡んでこないでくれますように。



 6時間目と帰りのHRが終わった後の放課後。3年3組の教室には、まだちらほらとクラスの生徒たちが残っている。その中には碧人、浩平、庄司の姿もあった。ちなみに今日は美術部の活動がない日であるため、香奈はとっくに家に帰っている。仲の良い友人のいない彼女は、放課後まで友達とダラダラとおしゃべりをして過ごすという時間の使い方なんてしないのである。


「いや~しかし、よかったな、碧人。槇原さんと隣の席になれて」

「はぁ、何言ってんだ、浩平。何がよかったな、なんだよ。別にそういんじゃねぇよ」

「いやいやー、碧人くんたら照れちゃって。さっき浩平くんも俺も見てたんだよー。碧人くんが槇原さんに嬉しそうに話しかけてるところ」

「何見てんだよ、お前ら!まあ、そりゃ、隣になって嫌なわけじゃないけど…」


浩平と庄司は、ふーん、へーと言いながら、にやにやと顔を見合わせる。碧人は少し照れた様子だが、1対2では分が悪いと思ったのだろう、早々に逃げることにしたようだ。


「なんなんだよ、お前らのその感じはー。井出、先に部活行ってるからな!」

「逃げたな」

「逃げたね」


浩平と庄司は、再度にやにやと互いに顔を見合わせながら、彼らの友人のかわいらしい一面をおもしろがるのだった。



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