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第8話 悪女と女神と神父

 魔鉄の盗難の捜査を、アンリエッタの名は出さずに、リチャードが率いるダイバス家のツテで憲兵を動かせないか相談を持ちかける。


「分かりました。アンリエッタ様の名前が、表に出ないようにですね」


リチャードは直ぐさま理解して、ダイバス家に繋がりのある憲兵隊を向かわせてくれると約束した。


作戦としては、魔鉄を盗んだ疑いのあるサルデスの流れをくむ教会と、神父クローデルの邸宅を同時に家宅捜索すること。


魔鉄を盗んだことを疑われていると気が付いていないので、取りあえずは教会か自宅に隠してあるだろう。とは言え教会の捜索である。


憲兵は勿論、その上の者たちにもお金を握らせる必要がある。これは必要な投資金だ。


◇◆◇


 あの契約書を見る限り、教会の神父が魔鉄を盗んだことは間違いないだろう。


神父の邸宅か教会に、盗まれた魔鉄が隠してあるはず。


多くの魔鉄を瞬時に隠せるとは思わないが、捜索するなら、相手が気が付かない内に、一気に捜査に入り、証拠の魔鉄を見つけ出さなくてはいけない。


「僕、これから確認の為に、教会と神父の邸宅の捜索の同行を任されました」


リチャードは拳を握りしめる。


「┅┅そう、ですか。危ない事はないのでしょうか?安全を第一にお願いします」


アンリエッタの言葉にリチャードは頷く。


「皆さんは男爵邸で待っていて下さい。行ってきます」


リチャードは教会から少し離れ森の中で、憲兵と集合して一気に捜索を始めるという。


どうか無事に戻られますように。


アンリエッタとモリーはリチャードの無事と盗まれた魔鉄が見付かる事を祈った。


皮肉にも盗んだのは、神に支える神父なのだけど。


◇◆◇


 リチャードが、隊長のオーバン率いる憲兵隊と教会の捜索に入ると、クローデル神父と何十人もの信徒が残っていた。


「あなた方は何ですか?ここは神に支える教会なのですよ」


こうして見ると、罪を犯すようには見えない。


そんな男が何故、魔鉄を盗んだのか。


「神父さん。あなたの娘が、魔鉄を盗んだことはバレているんだ」


リチャードは苦々しく笑う。


「ああ、あの馬鹿な私生児の娘ですか。あの娘なら今頃死んでいるでしょうね」


神父の笑いに同調するように、信徒たちが笑い出す。


「さて、この教会の神父として神に支える私としては、あなた方のような異教徒を放置しておくわけにはいきませんね」


そう言って、神父は、剣を抜き放った。


信徒たちも槍を構える。


「邪魔をするつもりか?俺はこの教会の浄化に来たんだ」


「浄化ですか?魔鉄を盗むつもりでしょう」


神父が、顔を歪ませてニヤリと笑った。


「我々は神に仕えるものです。その神に仇なす異教徒を浄化するのも、神の思し召しでしょう」


「はっ!何が神の思し召しだ。お前らは金目当てで娘を脅して、魔鉄を盗ませたんじゃないか!」


リチャードの怒声を聞いて、神父は剣先をリチャードに向ける。


「仕方のない事なのですよ。魔鉄はこの国の権力者にとっては価値がある。それを私利私欲で盗む奴等がいるのでは、私が魔鉄を預かるしかなかったのです」


それから神父は、信徒たちに鬼気迫る表情で命じた。


「異教徒を殺せ!神に仕える神の使徒として恥じぬようにな」


「はっ!」


信徒たちは槍をかまえて、気迫だけは戦士さながらに襲いかかってくる。


隊長のオーバンは振り向いて、憲兵たちに向き直し号令をかける。


「制圧しろ!」


鍛えぬかれた憲兵たちの刃が、信徒たちの槍を難なく切り落としていく。


「何!?」


神父はあまりにも、あっけなく信徒たちが制圧されていくので、驚きの声をあげた。


「ほう、中々やるようですな。これならどうです?」


それでも、信徒たちは倒されても倒されても次々と襲い掛かってくる。


信徒ちは、槍がなくなると肉弾戦で迫ってきたので、憲兵たちはそれをなぎ倒しながら、神父との間合いを詰めていく。


「なら、これでどうだ!土魔法アースウォール」


神父は最後の手段だと魔法の呪文を唱えはじめる。


すると目の前に、地面が盛り上がり、壁が出来る。


「憲兵隊をなめるな」


全体の指揮をしていた隊長のオーバンは、壁を蹴って飛び上がると、その勢いのまま剣を振るった。


憲兵隊が制圧してきた中には、魔法使いもいたと言うことなのだろう。


壁は隊長のオーバンの鋭い剣に切り裂かれ、神父も、剣を受けて一歩下がる。


神父は咄嗟に剣で防ごうとしたが間に合わず、肩口から腹にかけて切り裂かれ、血飛沫が舞っている。


「ぐふっ」


神父はその場に崩れるように倒れていく。


隊長のオーバンは、神父に近付き、剣先を神父の顔面に突き付けながら見下ろしている。


「さて、どうして魔鉄を盗んだのか話してもらおうか?」


神父は苦痛に顔を歪めながらも、不敵に笑った。


「ふ、ふふ┅┅話すとでも?」


「ならいい」


隊長のオーバンが神父に縄をかけようとすると、隠れていた信徒たちが立ち塞がった。


隊長オーバンは、まだ抵抗するのかと、舌打ちした。


信徒たちを相手にしている間に、神父は魔法で回復してしまうだろう。


「やれ!」


隠れていた信徒たちは、最後の抵抗とばかりに槍を突き出してきた。


隊長オーバンは信徒たちの槍をかわしながら、神父との距離を見極めつつ、ナイフを放つが、信徒たちに阻まれて当たらない。


その隙に、また信徒たちが迫ってくる。


オーバンは剣を振るいつつ、間合いをつめた。


「何だっぐ」


そこへ教会の長椅子に姿を潜ませて、後ろに回っていたリチャードが、神父を押し倒して馬乗りになっている。


「オーバン隊長、早くしてくれ」


「隊員は、神父を捕まえよ」


隊長オーバンの後ろから信徒の動きを封じていた憲兵の1人が、リチャードの側に駆け寄ってきた。


「捕縛します」


憲兵は優秀なようで、リチャードが馬乗りになっている神父の腕をネジあげて、あっという間に縄で縛り上げていく。


神父が捕縛されると、信徒たちはあっけないほど、簡単に捕まえる事が出来た。


「隊長、使われていない告解室に魔鉄が積み上げられていました」


「良かった」


リチャードは、その場にペタンと膝を付いて安堵している。


「俺も安心したよ。お前に頼まれたが、教会から何も出なかったら、俺の出世は終わってただろうからな」


「ああ、ああ、オーバン、ダイバス家はこの恩を忘れないぞ」


リチャードは立ち上がって、オーバンに握手を求めた。


「気にするな。今回の事で点数も稼げたし、ダチじゃないか」


実は、リチャードとオーバン隊長は同じ年の幼馴染みで、困りごとがあると真っ先にお互いを頼る間柄である。


「今度、旨い物でもおごってくれ」


「勿論だとも」


さあ、ここから魔鉄を盗んだ実行犯にも会わなくちゃな。

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