表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/20

第10話 偽物の子供と従者

「子爵家が所有する大型船舶について教えて頂けますか」


アンリエッタは早速アンドレに、大型船舶について聞いてみる。


「今までは、魔岩石を他国へ輸出して、魔鉄を輸入しておりました」


綿花についても同様で、綿花を輸出して綿織物を輸入している。


「それでは今、使われている船舶に問題はありませんか」


アンリエッタは、クルーシェ夫人に引き渡す返礼品について参考になる知識が欲しかった。


「アンリエッタ様の事業がこのまま順調に進めば、大型船舶から中型船舶に変えるのも良いかと思われます」


「大型の方がたくさんの荷物を運べると思うのですが、中型にするメリットは何ですか?」


アンリエッタが知る前世では、小型船舶にする案がアンドレから聞かされていたと思うのだけど、記憶違いだろうか。


「まず今使用している大型船舶は見た目は綺麗ですが、内部が古く数年で買い換えの時期がきます」


「そうなのですね」


だから嵐に耐えることが、出来なかったのだろう。


「魔鉄が自国で生み出せることで、大型船舶ではなくて、魔道具や衣類を輸出する為の中型船舶が足も早くよろしいかと思われます」


「そうなのですね」


なるほど、さすがだわ。


魔道具も衣類も大型船舶に積むような量は準備出来ないんだし、大型船舶を動かす燃料や人材を無駄に使う必要はないって事ね。


「ただ┅┅」


「何かお困りのことがあるのですか」


アンドレのはっきりとしない様子に、アンリエッタは気が付く。


「大型船舶は処分するにも、高額なお金が掛かるのです。しかも保険料もバカ高い」


これだわ。


「今は私、赤ん坊を無事に生むことを一番に考えなくてはいけませんので何もできませんが」


「勿論です」


アンドレは何もなさらないで下さいと言いたそうだ。


「こほんっ、大型船舶をどうするか私に考えがあるので、しばらく保留にして頂けますか」


「かしこまりました」


アンドレの目がキラリンと光り、期待されているのを感じてアンリエッタは上手くいきますようにと祈った。


◇◆◇


 陣痛の間隔が狭くなり、今日、明日中にもお産が始まると担当医に言われて、モリーに使いを頼む。


あらかじめ用意していた遠い村に住む助産婦を子爵家に連れてくることだ。


勿論、ブルークにもアンドレにも反対された。


どこの馬の骨かも分からない人間に、子爵の血を引く子供の出産を任せられないというもっともな意見だった。


けれど女医の少ない時代に、若い助産婦など信用出来ないとヒステリックな真似をして意見を通した。


「くああああっ、痛いっいいいあっ」


声にならない叫び声をあげ続けて、叫び声も出なくなった半日後、赤ん坊の鳴き声が聞こえた。


「おぎゃあ、おぎゃああ」


元気な赤ん坊の声がアンリエッタの耳に聞こえる。


「モリー急いで、その子をアトリエに連れていって」


「かしこまりました」


モリーは生まれたばかりの赤ん坊をおくるみに包んで、大きなカゴに入れる。


そして用意していた紐をくくりつけてベランダから庭へと下ろし始める。


「はあっ、はあっ」


走り回っているわけでもないのに、モリーはゆっくり、ゆっくり、紐を下ろして腕も肩も背中も疲れ始めている。


どちらかといえば赤ん坊を落とさないように、赤ん坊が泣き出さないように、神経を使って疲れたのだろう。


「行って参ります」


モリーが部屋を出ていく。


部屋の外では、ブルークやアンドレがモリーに、部屋の中の様子を聞いている声がする。


「コリーナ様、無事に子供を産む事が出来ました。あと少しだけお力添えお願いします」


アンリエッタは、年老いた助産婦コリーナの手を握り頭を下げる。


「分かっとりますだ。ここでのことは、墓場まで持ってきますだに、安心してつかあさい」


コリーナは皺の刻まれた目元に力を込めて、うなずく。


「子爵家のお子様が、お産まれになりました。中にお入り下さい」


モリーは引き留められて、仕方なく部屋の中に入るように案内したようだ。


「そうか、無事に生まれたのか」


ブルークとアンドレが、ソワソワしながらドアを開けた。


「どうぞ入って下され」


コリーナの招きに部屋の中へ足を踏み入れる。


アンリエッタの横たわるベッドの上にストロベリーミルクの髪を持つ赤ん坊が眠っていた。


「産まれたばかりなのに、しっかりした顔をしている」


「ええっ、髪もたくさんはえていて、お可愛らしい」


ブルークとアンドレは交互に赤ん坊を褒め称えている。


「アンリエッタ、お疲れ様です」


ブルークから聞く優しい労りの言葉だったが、アンリエッタは後ろめたく感じている。


「いいえ。いいえ。ありがとうございます」


アンリエッタは伝えられない謝罪の代わりに、涙を流して感謝を伝える。


アンリエッタが嫁いで来なければ、ブルークも子爵家も子供も危険な目に遭わなかっただろう。


全ては、男爵家から嫁いだアンリエッタの責任のように感じてしまう。


「何を言うのです。これからは、子爵家の跡取りを生んだとふんぞり返っていればいいのです」


「ぷふっ、すみません」


アンドレの言葉にアンリエッタが吹き出すと、ブルークも安心したように優しい目でアンリエッタを見つめていた。


「私たちの赤ちゃんと、この子を支える従者の名前を付けて頂けますか」


アンリエッタは、いきなり従者の話を持ち出す。


「従者の名前?」


ブルークとアンドレは何の事か分からず、顔を見合わせている。


「親のいない赤ん坊が、教会に捨てられていたのです。出来たらこの子の遊び相手に置いて頂けますか」


アンリエッタは自分の産んだ赤ん坊を従者として、偽物の赤ん坊を支える形で、側に置くつもりでいる。


偽物の赤ん坊はコッポラ男爵家から見捨てられた女から産まれた私生児で、実は産まれてから半年経っていた為、身体も大きく髪もフサフサ。


髪はコッポラ男爵家で時々産まれるストロベリーミルク色の髪をしている。


だからこそ子爵家でも男爵家でも、この子が偽物だと気が付く人間はいないだろう。


アンリエッタが処刑されて目覚めてから、1年と半年の月日が流れている。


アンリエッタが赤ん坊を殺すまで、まだ3年と半年位はあるはず。


その間に出来る準備は全てやっておかなければいけない。


この罪のない赤ん坊を殺したくはない。


けれどアンリエッタは前世で子供を殺したと自白していて、どんな理由があるにしろ、ブルークとの子供は隠し守らなくてはならない。


男爵家の罪は、出来れば子供たちではなくて、アンリエッタ1人で背負いたい。


本当の子供と同じように大切に育てて、あなたのことも命にかえて守るから許して。


ただし、男爵家が赤ん坊をアンリエッタに育てさせてくれるか分からないけれど。


出来る限りのことはすると約束するわ。


ごめんなさい。


アンリエッタは自分とよく似た髪色の赤ん坊の頭を優しく撫でた。


ブルークとアンドレの目には、アンリエッタの姿が、母が見せる慈愛のように見えている。


実際には我が子を救う為に、男爵家の血を引く赤ん坊を身代わりにする己の罪深さから憐れみをほどこしているに過ぎないことをアンリエッタは理解している。


「男女どちらなのですか?」


アンドレはブルークが名前を決めるのに、赤ん坊の性別を教えて欲しいと言う。


「男の子です」


「男か、でかした」


ブルークは半分の確率なのに、よくやったと喜んでいる。


「アンリエッタ、元気になったら君の願いを何でも叶えてやるぞ」


ブルークがくれるたくさんの優しさや愛情が、アンリエッタには少しつらい。


「ではいつか私が、罪を犯したら理由を聞いて欲しいです」


「何でも許す。心変わり以外なら」


ブルークはアンリエッタの額にかかるストロベリーミルクの髪を優しく払って、その額にキスをする。


「心変わりした時には、自らの命をたちます」


「そんな言葉を口にするな。夫人がいつか罪を犯した時には、何故その罪を犯したのか理由を聞くと約束する」


ブルークの慌てぶりを見て、アンリエッタの瞳がまた潤んでしまう。


「ありがとうございます」


アンリエッタはいつか犯すであろう目の前の赤ん坊を殺してしまうかもしれない自分こそ、その理由を知りたいと思い続けてきた。


「この子はアルフレッドにしよう」


「従者の名前は?」


「従者も男か?」


「そうです」


ブルークは、アンリエッタが嬉しそうに、幸せそうに従者について話すのが不思議だった。


そして従者の話をするアンリエッタをブルークは、とても綺麗だなと感じる。


「従者はレオン、強き英雄の名だ。我が子を守ってもらわねばならないからな」


「レオンですね。ブルーク様の思いを受けて、強き子に育つと思います」


「子爵夫人、アルフレッド様の名も呼んでやらねば、焼きもちを妬かれますよ」


アンドレは目を細めて、ガラス細工を触るように優しくアルフレッドの顔を撫でている。


「可愛いアルフレッド、ゆっくり大人になりなさい」


アンリエッタは隣で寝息を立てている赤ん坊を見つめながら、アトリエにいるであろう我が子を思っていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ