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潮が満ちてくる頃に・古代遺跡で・小さな絵画を・不審に思い目を細めました。

 それは海の洞の中で見つかった。そもそもその洞に好きで向かった訳でない人間が見つけたので、その解析や発見には些かのタイムラグがあると言わざるを得なかった。本来ならもう少し早くに発見されていたはずの物が、総人口SNS時代になってようやく

浮き上がった産物と言えよう。そのうちの一つが、洞の中に描かれている落書きだった。最初は心ない観光客の落書きだと考えたらしく、啓蒙のつもりでポストしたものが、バズった投稿が研究者の目に留まり、自治体や国が動き出した頃には、もはや一大発見とばかりにSNSは盛り上がっていた。そこでようやく国が自治体がその洞窟への立ち入りを禁止にした。理由は研究者を呼び、保存するためである。その絵は、月のような丸を描いた下に、人のようなものが二つあった。丸はあえて赤い染料を使っているらしく、赤い月を示しているのではと研究者が見解を示す。その赤い月の下にあるのは、砂浜のような斑点である。その砂浜に、二人の人間が描かれている。背の高い女のような胸の膨らみがある人物、彼女よりも背が低いものの胸板がたくましく股間に物がぶら下がっている男性らしき人物がいる。この洞は満潮になると天井まで埋まるはずなのに、よく染料が残っているものだと研究者は感心していた。この染料は画家がほしがる成分になるだろう。

 二人の人物が寄り添い合っているのは、夫婦なのだろうかと研究者は見解を示した。だが夫婦にしては手を握り合う程度の距離感だと別の研究者が言い出す。夫婦であればもう少し頭を近づけるだろう。この点で研究者の中で意見は分かれてしまい、意見の相違がみえて、のちに彼らは決別して激論となる。だが絵画の出来がそこまで古くないものであり、古代遺跡の一部というには少し新しい物だということが分かると、声高々に本腰を入れる者が少なくなったように思える。だが古いものではあるので、研究者が完全に離れることはなかった。夫婦か夫婦でないか、その赤い月の意味を問うて激論が交わされていた。赤い月の下に、夫婦か何とも言えない男女が二人。彼らは砂浜に向かっているのか、あるいは海に向かっているのかでまた研究者の見解が別れてしまっている。その神話的なモチーフは果たして何を示しているのか、未だに研究者が答えの見えない解析を行っている。


 「赤い月の神話ってみんな知らないんですね」

 「マイナーな神話だよ。あまり口伝もされてないみたいだ」

 少女が年若い博士に陽気に話しかける。今日は少女の機嫌が良いようだ。

 「教えてさしあげればいいのに」

 「もしかしたら間違っているかもしれないよ。教えて混乱させたくない」

 「いけずですねぇ」

 少女が心底愉快そうに笑った。

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