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63 破滅を乗り越えて、幼馴染と共に

 夢を見た。

 自分と色々な人達が、楽しく日常を過ごしている夢だ。現実のように思えるぐらい違和感のない充実した夢。


 出てくるのは全員学生。もちろん自分もだ。

 仲が良かった人達、あまり絡んでいなかった人達、全く絡んだことがなかった人達、嫌い嫌われていた人達。

 笑っている自分と、視たこともない表情で楽しく話しているクラスメイト達を、天井からただみつめているだけの夢。


(夢か……)


 自身に口はなく、ただそれを眺めているだけ。自分も周りもとても楽しそうで少し羨ましい。


(……あんな風に笑うんだ)


 特に目立ったのが、絡んだことのない人達や嫌い嫌われていた人達の笑顔だ

 どんな風に笑うのか、友人になった時にどんな関係になるのかなんて想像もしたことがない人達と仲良くしている自分を視るというのは、不思議な感覚だ。


 視たことがないのに、鮮明に光景として映し出せるのは夢だからこそ、だろうか。


(……嫌、この光景も、俺の行動やタイミング次第ではありえた世界なのだろうか……)


 少し羨ましいと思ってしまうぐらいに眩しい夢の光景を前に、ついつい感傷に浸ってしまう。

 考えてもきっと意味の無い事なのだと分かっている。そんな世界は有り得ないし、それを望んでいたかと問われれば、そうでも無い。


 不幸なことはあるけれど、今には大満足している。

 きっとこうなっていた世界の自分も幸せなんだろうけれど、そこに狂花との関係がないのであれば、それは不幸な事だ。


 どちらが正解かだなんて誰にも分からない。

 正解の道にも不幸はあるし、間違った道にも必ず幸せはある。


(昔の俺なら、起きた時こうなっていてくれと泣いてただろうなぁ……)


 でも今は違う。羨ましいとは思うけれど、それは幸せそうだからじゃない。皆の知らない面を知れているから、そこに対して嫉妬のようなものを感じているだけ。


(狂花のことはこっちの俺の方がよく知ってるし……別にいいし)


 夢の中の自分と何を張り合ってるのやらと思うが、言いたいのだ、許してほしい。


(そっちはそっち、こっちはこっちでこれからも頑張っていこう……どうせ俺の事だから間違った道ばかり選んでしまうのだろうけど、お互い満足のいく道を歩んでいこう)


 それが、ありえたかもしれない自分に対する、俺の納得のいく答えだ。


(さて……そろそろかな?)


 長いのか長くないのか夢の中なのでよく分からないが、恐らく長かったであろう自問自答を終えて、直感が、そろそろ来ると告げてくる。


「おはよう夏輝」


 そんな声が聞こえ、目を開けると、彼女がいる。布団に寝転んでいるこちらの顔をのぞき込むような姿勢で、彼女の顔を見上げている。


「今日も玄関から入ってきたわけだけど、玄関っていいものね。自宅のような安心感を感じられる、いや、もはや自宅と言っていいのかしら?」


 クリスマスの時にプレゼントした鍵を持って、満面の笑みを浮かべそう言ってくる彼女。


「おはよう狂花。それと俺は家に入ることは許可したけど、自宅にしていいとは一言も言っていないぞ」


「同棲している彼女にそんな酷いことを朝一番に言うなんて、悪い夢でもみた?」


「悪い夢はみていないし、同棲も非公認だろそれ」


「寝言で言ってたわよ?」


「それは聞き間違いか妄想だ」


 身体をゆっくりと起こす。時刻と日付けをみて、改めて狂花の顔をみる。


「……本当に色々ありすぎた一年だったな」


「そうね、私も色々頑張った一年だった。けど、お互いに終わりが良ければ全て良しってことでいいのかしら?いい年になったわね、夏輝も当然私も」


「それは……強引なハッピーエンドだな。でも、悪くなかったって思えるということは、案外そうなのかもしれないな」


「強引でもなんでも幸せ寄りな一年だったのならそれでいいじゃない。とにかく祝福すべき事よ、自分の為にもね。一年最後の日にこの一年を良かったって思えて新年を迎える……これってとても難しい事だけれど、とても素敵なことじゃない?」


「それは確かに……幸せ者だな」


 日付は十二月三十一日。大晦日だ。

 一年が終わる日であり、新たな一年を迎える前日でもあるこの日は特別だ。


 一年を最も振り返ることが出来、自分の変化を一番実感できる日でもあるこの日。

 一年前の自分に、この一年の出来事を話して果たして信じるだろうか。もし、信じるようであれば、変化の無い一年だったということ。それを悪い事とは言わないが、少し寂しい。信じられないだろうと思うのなら、良くも悪くも頑張った一年だったに違いない。


 自分はどうだっただろうと考えてみる。振り返って直ぐに答えはでた。

 幸せなことに、自分は信じないだろうと言い切れる。そんな一年だった。


「うん、そうだな。ハッピーエンドって言っていいのかは分からないけど、綺麗な一年だったなとは思う」


「……綺麗?よく分からないけど、当然ね! 私が居るんだもの。幸せじゃなかったらそれこそ悪い夢だわ」


「それは確かに悪夢だな」


「でしょ?ってそんな話も大好きだけれど、夏輝、今日は何してるの?」


「今日は自宅でゆっくりしている予定だよ? せっかく狂花も来てくれたし、このまま一緒に年を越せたらそれでいいかななんて……」


 そこまで話したところで、狂花が何故か間の抜けたような顔をしていることに気づき。


「狂花?」


「……あっ! ごめんごめん! ……夏輝ってさ、たまにドストレートに嬉しいことを言ってくれるわよね」


「何か言ったけ?」


「ううん、何も。夏輝はそのままでいて。私だけが感じる嬉しさっていうか、幸せのようなものだから」


「……? よく分からないけど分かった」


 何だか分からないが、彼女が嬉しいのならそれでいい。

 そうしていつものように沢山話した後、俺は支度をした。

 支度と言っても、いつものように顔を洗って服を着替えるだけなのだが。


 そうして部屋に戻ると狂花が居て、いつものように他愛のない話をして、買い物に行って、また家で買ってきたものを食べて話して、そうして時間は過ぎていって、あっという間に良い時間へと変わっていく。


 テレビも特番ばかり、心も毎年のように少し落ち着かない感じになっていく。


「不思議だよなぁ。年末年始と誕生日だけは、毎年のように少しドキドキする」


「何も変わらないのにね。どうしてか、いつもとは違う日のように思えるのよね」


 けれど、人の心とは関係なく、時間はいつも通りに経過していく。

 時刻はあっという間に後数分というところまでやってきている。


「私にとってはとても特別な一年だったから、少し寂しい。けど、来年からの楽しみもあるから少し複雑だなぁ」


「それを言うなら俺にとっても特別だったぞ。まさかこんな一年になるとは思いもしなかった」


「来年はこの衝撃を超えれる一年にしないといけないわね」


「……それは結構だが、頼むから常識の範囲内の衝撃であってくれよ」


「大丈夫よ。必ずベストを更新してみせるから、楽しみにしてて」


 狂花の言う衝撃が何を指すのか分からないが、もし行動面なのだとしたらそれは控えていただきたいと切に思う。


 そして、カウントダウンが始まる。遅いようで、早く秒数が進んでいき


「……あけましておめでとう狂花。今年もよろしくお願いします」


「あけましておめでとうございます夏輝。今年からもよろしくね」


 年が明けた。初めての大好きな人との年越しだった。


「……とりあえず、近くの神社にでも行くか」


「新年一発目といえば、それよね」


 外の寒さに負けないようお互い着込んで外へと出る。自宅から五分前後のところにある小さな神社、そこへと足を運び列に並ぶ。普段は人気の少ないところだが、皆考えることは同じのようだ。


 そうして十分ほど並んだ後、自分達の番がやってくる。

 二人してお金を投げ入れ、目を瞑って合掌し、願いを込める。少しの間を置いて、身体が冷えないうちに帰路に着く。


「ねえ夏輝、どんな願い事をしたの?」


 帰り道、狂花がそんなことを聞いてくる。

 自分の願い事は凄くシンプルだ。嫌な過去とも向き合えた今、これからに望むことなんてただ一つ。


「今ある幸せが、もっともっと育ちますように。狂花との一年が、より笑えるものであるように。かな」


「おぉ……私もそう頼めばよかったかな……」


「狂花は何を頼んだんだ?」


「夏輝のことをもっと沢山知れる一年になりますようにと、夏輝がもっと私を知って好きになってくれますように、かな」


「お互いに何を頼んでんだか……」


 一月一日。年が明け、新たな一年が始まる。


 俺達の青春と日常は、破滅からは程遠く、幸せで眩い光の道へと歩みを始める。


 手を繋ぎ、二人はゆっくりと家に帰る。これからも。いつまでも、ずっと一緒に。





あけましておめでとうございます!

最後まで読んでいただきありがとうございました!最後まで描けたのも、読んでいただいているというのがあったからです!本当にありがとうございます!

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