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62 初めてのクリスマス

 クリスマスで賑わう街を一人で約二時間ほど奔走した。

 六時までの時間潰しでもあったが、狂花へのクリスマスプレゼントに悩みに悩み抜いた結果でもあった。


 時刻は約束の六時まで十分前といったところ。


「プレゼント選びがここまで難しいとはな……」


 その十分を潰すために自宅付近を散歩しながら、手に持ったプレゼントを見つめ、大変だったなと深く息を吐く。

 何がそんなに難しかったのか自分でも分からない。けれど、魅力的な物は沢山あるのに全く決まらなかったのだ。


 沢山魅力的な物があるのに、自分が貰えたら嬉しいと思える物ばかりなのに、狂花がどのような反応をしてくれるかだけが想像ができなかった。

 どうしてか、それが怖くて。手が止まってしまったことが遅くなった原因だ。


「喜んでくれるといいんだけど……」


 買った今でも、その不安は消えてくれていない。

 沢山一緒にいて彼女の事はある程度分かったつもりでいたが、彼女の喜ぶ姿一つ想像できない自分に少し嫌な気分になる。


「後五分ほどか……緊張するなぁ」


 だが、そんな気分も数分後の自分を想像するとすぐに消え去った。

 時刻は遅く、でも早く、それでも普通に過ぎ去っていって


「時間だ」


 恐らく、今後自宅の扉を開けるというイベントにおいて、ここまで緊張する日は生涯無いだろう。

 それほどまでに自分にとっては特別で、いや、特別にしたい日だったのだ。


「おかえりなさい夏輝。時間ぴっちり。悪くない帰宅よ」


 玄関を開けると、狂花が目の前で待ってくれていた。


「ただいま狂花。帰宅を褒められたのは今日が初めてだよ」


「それはつまり……今日を初めにしこれからも毎日シクヨロってことかしら?分かったわ夏輝。そこまで求めるなら毎日言ってあげます」


「時折、俺の言葉が都合良く変換されている気がするんだが、これは俺の気のせいか?」


「当然気の所為ね。都合の悪い現実なんて無視でもしない限り幸せを掴めないじゃない。だから、夏輝がそう思うのならきっとそういうことよ」


 つまり、俺の言っていることはちゃんと聞こえているが関係無いらしい。

 今に始まったことじゃないとはいえ、相変わらず彼女の想いに対する真っ直ぐさには驚かされてばかりだ。


「じゃあ、そういう事にしておくか。それで? 六時まで俺を放ったらかしにしてた理由ってのをそろそろ教えてくれない?」


「あぁ、その事なんだけどリビングに来てくれる?魅せたいものがあるの」


「見せたいもの?」


「こっちこっち!」


 手を引かれ、されるがままにリビングへと小走りで向かう。


 そして、向かった先、リビングに立てられているものを魅て


「………は?ぷっ、あははは!なんだこりゃあ!どうやったんだよ、あははは!駄目だ!笑い死ぬ!」


「ちょっ!酷くない?私、頑張ったんだよ?」


 なんて抗議をしてくる狂花だが、これは笑うことを許して欲しい。

 悔しい。彼女のことだからきっと何かはあると想像をしていたのに、その上をいかれる芸術品がそこにはあった。


 リビングの机には、大皿が一つ。

 そしてその上に乗るのは、生クリームで出来た身体に、苺で服と帽子を装飾された等身大のサンタさんだった。


「すっごくトライアンドエラーした努力の塊なんだから!」


 そんな事を言って、サンタさんの前で胸を張る彼女。

 その異様な光景がまたなにかのツボを刺激してきて、笑いが止まらない。


「くっ、くく、ちょ、タンマ!やめてくれ…本当…あっははは!」


 可笑しい。今までも沢山の可笑しいを経験してきたが、これまでの、いやこれからさえも超えてくる可笑しいがそこにはあった。

 俺が街を奔走してる間に、これを自宅で作っている彼女の姿を想像するととても可愛らしく嬉しく思う反面、想えば想うほど面白く思えてきて仕方がなかった。


「で、でもね、流石の私も作りながらこれは流石に可笑しいかな?とは思ったんだよ?でも、止まらなくってさ……ふっ、ふふ」


 そうして、彼女も何か思い出すように笑い始め、リビングには二人の笑い声が響いた。


「止まらないって……ふふ、やばいだろ!苺のせいかサンタさんのガタイがムキムキになってんじゃねえか、あははは!」


「ふっ、い、苺がね?想像以上にでかくてさ、でも後には引けないじゃない?だから突き進んだら最後までやれちゃって……ふふ」


 駄目だった。二人共もう止まらなかった。笑いがおさまってきても、どちらかが不意に吹き出すとまた釣られて笑ってしまうという笑いのループに入ってしまっていた。


 そうして時間を忘れて二人で散々笑い合ったあと


「メリークリスマス夏輝。これが私からのプレゼントです。いっぱい悩んだんだよ?沢山悩んで、悩んで、それで思いついたのが、一緒にケーキを食べたい…だったの」


 少し俯いてそう話してくれる狂花。

 可愛い。もう率直に言って凄く可愛い。


「ごめん……流石に重かったかな?迷惑だった?こんなに食べれない?」


 こんな事を言うとアレだが珍しく弱気というか、気を遣った言葉を使う狂花。


「いいや、全くだよ。重くもないし迷惑でもないし、なんならちょうどお腹も減ってるしありがとう狂花。凄く嬉しい」


「ほ、本当に?」


「ああ、本当だ。迷惑とか重いとか、そんなん一切思っちゃいない。それに、そんな思いは気の所為なんだろ?」


「あっ……むぅ。それは意地悪じゃあないかしら?」


 良かった。いつもの狂花だ。でも。本当に、こんなにも想いの詰まったプレゼントをしてくれた人が負い目を感じることなんてないんだ。


「……それに、重い云々の話ならきっと俺の方が上だぞ?」


「どういうこと?」


 手に持っていた袋を、彼女に渡す。


「えっ?これは?」


「メリークリスマス狂花。プレゼントとして正しいのかどうかは分からないけど、俺が狂花にあげたい……いや、持っていてほしいと思ったから、受け取ってほしい」


 彼女は、袋の中に入っている手のひらサイズの箱を開け、中を確認する。


 正直、今でも正しいとは思えていない。客観的に自分を見て、気が狂っているとも思う。


 けど、これを選んだ。


「これは……鍵?」


 彼女が外に出したのは一本の鍵。


「ま、まぁ、あれだ。か、彼女だし……いつまでも、いつの間にか勝手に家に侵入している不審者扱いするのも心が痛むというか……」


「ってことは……合鍵ってこと?」


「ま、まぁそうとも言うな……」


「そうとしか言わないでしょ!やば!すっごく嬉しい!ありがとう夏輝!」


「お、おう?」


 正直、引かれると思っていた。流石に自惚れ過ぎではないかと。


「き、気持ち悪いとか……思わないのか?」


「どうして?嬉しい以外なんでもないでしょ?あっ……気持ち悪いとかそれこそ気の所為よ?気にしないで?これ以上無いくらいの物を貰えたって、本人が喜んでいるんですから!」


 彼女は悪戯っぽく笑って、さっきの仕返しと言わんばかりの言葉で返してくれる。


「……良かった。なら、俺も嬉しい。これからはよく分からない侵入経路なんか使わず、それを使って堂々と玄関から入ってきてくれると助かる」


「へへ、分かった!明日からそうする!じゃ、私のも受け取って?荷物とか置いて、準備してケーキ食べよ!」


「本当に食べていいのか?アレは最早芸術の域だぞ?」


「大丈夫。さっき写真撮ったから!後で送ってあげるね!」


 なら大丈夫だろう。きっとその写真は、一生の思い出として残るだろうなと確信する。


 そうして、お互いの支度を済ませ食卓の席につく。

 等身大のサンタさんを挟んで向かいの席に座る狂花。先程あげた合鍵を、ネックレスのようにして早速首からかけていた。


 そうした狂花の姿を確認し、目を合わせ


「じゃあ……改めてメリークリスマス狂花。いただきます」


「メリークリスマス夏輝。どうぞ召し上がれ」


 これが、俺と彼女が付き合って最初のクリスマスとなった。


 彼女のプレゼントは等身大のサンタさんケーキ、対する彼氏は合鍵と、想い重われる世にも珍妙なクリスマスとなり、二人にとって、この先ずっと忘れられない思い出になったのだった。

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