6 夏の朝と幼馴染5
学校の怪談、柏東山高等学校の七不思議の一つ、そのあまりに馬鹿らしい真実を知った後、しっかりと怒られ帰宅した俺は、自室の布団の上に寝転んでいた。
「酷い目にあったな……」
怒られるだけじゃなく、その後の帰り道で、狂花に買い物に付き合わされたのもあって物凄く疲れてしまった。
昼はとっくに過ぎており、午後の夕日がそろそろ顔を出す頃だろう。
「少し早いけど……汗かいたし風呂でも入るかな。」
どうせ今日はもう外に出る予定がない。買い物もすませたし、突然誘いに来る狂花の買い物にも付き合った後だ。
この後は風呂に入り、上がった後は適当にゲームや漫画をして時間を潰そう。
「そうしよう。決まりだ。」
立ち上がり、タオル等を持って風呂場のある一階へと足を運ぶ。階段を下り、浴室のある場所へと近づいたその時だった。
音が聞こえた。浴室の方から、誰もいないはずの浴室の方から。
「おいおい……またこのパターンかよ。なんで気づいたらいつもいるんだ狂花のやつ。」
浴室の方へと行くと、風呂場の扉は閉められており、一つの影が映っていた。
「勝手に家に入るのもヤバいが……まさか風呂まで自宅のように扱ってくるとはな。狂花ー?いるんだろー?」
風呂場の中へと声をかける。だが、いつもならこちらが引くレベルの反応の良さをみせる狂花からの返答はなく、ただ影だけはしっかりと映っていて
「……あれ?これマジなやつ?」
いつもの狂花を知ってるからこそ、それが別の違うやつということがすぐに理解できてしまい、一気に恐怖のようなものが込み上げてくる。
そして、全てを理解したのとほぼ同時に風呂場の影も忽然と姿を消し、自分の中での恐怖に対する耐性の限界を突破した。
「う、おおおおお!!ヤベェってそれは!!」
この日一番の速度で階段を駆け上がり、自室へと向かう。全力疾走した先にある自室の扉を開け、すぐさま部屋の鍵をかけ、携帯を手に取り電話をかける。
「狂花!やばい!!やばいわ!!本当にやばい!」
自分でも何を伝えたいのか分からないほど語彙力が恐怖によって低下してしまっているが、焦って最早それどころではなかった。
「どうしたの?!大丈夫?!」
そしてそう連絡したのとほぼ同時に、布団を直す押し入れの戸が開き、そう言って狂花が勢いよく飛び出してくる。
「うおおおお!!いつから居やがった?!」
「初めから!」
「こっちも怖え!」
「逃げ場はないわ!」
楽しそうに冗談っぽく手を広げてそう言ってくる彼女。
何も微笑ましいことなんてなく、逃げ場もなく、ただただ俺は、色々な恐怖を、夏の初日に味わうこととなった。